サイトメガロウイルス
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サイトメガロウイルス
感染細胞(中央)には特徴的な核内封入体が見られる。
分類

:第1群(2本鎖DNA)
:ヘルペスウイルス目
Herpesvirales
:ヘルペスウイルス科
Herpesviridae
亜科:ベータヘルペスウイルス亜科
Betaherpesvirinae
:サイトメガロウイルス属

学名
Cytomegalovirus
タイプ種
Human herpesvirus 5

サイトメガロウイルス(cytomegalovirus; CMV)は、宿主細胞の核内に光学顕微鏡下で観察可能な「フクロウの目 (owl eye)」様の特徴的な封入体を形成することを特徴とするヘルペスウイルスの総称である。ウイルスの分類上はサイトメガロウイルス属とし、この場合ヒトを含む霊長類を宿主とするものに限るが、総称としては近縁で齧歯類を宿主とするムロサイトメガロウイルス (murine cytomegalovirus; MCMV) も含める。

ヒトに感染するのはヒトサイトメガロウイルス (human cytomegalovirus; HCMV) で、これはヒト以外の動物には感染しない。HCMVの学名はヒトヘルペスウイルス5型 (human herpesvirus-5; HHV-5) である。

この項では主にこのヒトサイトメガロウイルス (HCMV) について記述し、ウイルス学の項以外では簡単のためサイトメガロウイルス (CMV) と略して呼称する。

CMVは通常、幼小児期に唾液・尿などの分泌液を介して不顕性感染し、その後潜伏・持続感染によって人体に終生寄生することで人類集団に深く浸透している[1]。日本では、成人期での抗体保有率は60%?90%と高い[2]

健常人では脅威とならないが、免疫の未熟な胎児・免疫不全状態の臓器移植AIDS患者・免疫抑制療法などではウイルス増殖による細胞及び臓器傷害で生命を脅かす[1]

先天性感染(胎児の際の母子感染)を起こすと、そのうち日本では約20%が子宮内発育遅延・肝脾腫・小頭症などの顕性感染を呈し、残りの10?20%の不顕性感染児で発育期に感音性難聴や精神発達遅滞等の機能障害を生ずる[1][3][4]

CMVは免疫の老化(疲弊)と関わっており、加齢に伴ってCMV以外の感染症に対する防御能の低下をきたす[1][5]

またCMVが腫瘍細胞に感染すると、腫瘍細胞が腫瘍免疫抗癌剤に対する抵抗性を獲得して悪性度を増す可能性がある (oncomodulation)[6]

1990年にはCheeら[7]によってHCMVの全塩基配列が決定されている。
変遷

サイトメガロウイルス (cytomegalovirus; CMV) という名称は、CMVは自身が感染した細胞を (cyto-) 巨大化 (megalo-) させることに由来し[8]、ヒトサイトメガロウイルス (human cytomegalovirus; HCMV) の最初の分離者の1人であるWeller T. H.によって1957年にその名称が与えられた[9]

CMVは、1881年にドイツの病理学者Ribbert H.が梅毒様症候を呈した死産児の腎で owl eye(フクロウの目) 様の特徴的な核内封入体を持つ巨細胞を観察し、学会発表したのが最初の報告である(論文発表は1904年で当初は寄生虫感染と推測されていた)[10][11][1]

マウスに感染するムロサイトメガロウイルス (murine cytomegalovirus; MCMV) は1954年に報告された[12]
疫学

CMVは母子間で経胎盤・経産道・経母乳等のルートで垂直伝搬をおこし、その後はキス等の唾液の交換、尿などからの接触あるいは飛沫により直接的あるいは間接的に、精液や子宮頸管分泌液を介して性的に、さらに移植や輸血等により医原的に水平伝搬を起こす[8][2]

CMVは広い臓器親和性(向汎性)を有するため種々の臓器に潜伏感染(ウイルスゲノムは存在するが感染性のウイルス粒子は産生されない状態)し、終生宿主に持続感染し排除されない[8]。外因感染ののち、種々の誘因で再活性化(潜伏したウイルスゲノムから感染性のウイルス粒子の産生)し、内因感染を起こす[8]。日本では、成人期での抗体保有率は60%?90%と高く[2]、多くの人が幼児期に不顕性感染していると言われている。なお、日本では1990年代以降妊娠可能年代の女性の抗体保有率が低下しており、2000年代には70%まで低下しているとされている[13]。そのため、先天性感染や周産期感染による新生児サイトメガロウイルス感染数の増加が懸念されている[14]
構造簡単なサイトメガロウイルスの構造


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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