ゴエティア
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ゴエティアの悪魔シジル

『ゴエティア』(Goetia)は、17世紀から伝わる作者不明のグリモワールレメゲトン』の第一書の表題である。

カナ表記には「ゲーティア[1]」、「ゴーティア[2]」、「ゴエティア[3]」があるが、ここではラテン語読みに準じた表記を用いる。現代英語では「ガイーシャ」のような発音になる[4]
概説「ソロモンの鍵」も参照

「ゴエティア」は『レメゲトン』の第1部である。『レメゲトン』は『ソロモンの小さな鍵』とも呼ばれ、ソロモンに由来するとされる5つの魔法書をまとめた5部構成となっている(写本によっては4部まで)。フレッド・ゲティングズは、実際には『レメゲトン』のなかで「ゴエティア」のみが本来の内容であって、他はそれぞれ別々に成立したものが後に合本されたのではないかと述べている[5]

「ゴエティア」の内容は、ソロモン王が使役したという72人の悪魔を呼び出して様々な願望をかなえる手順を記したもので、そのために必要な魔法円印章のデザインと制作法、必要な呪文などを収録している。本書には、この72人の悪魔の性格や姿、特技などが詳述されており、72人の悪魔各々の印章も収録されている。そのため悪魔名鑑としても参照される。同様に悪魔名鑑として利用されるコラン・ド・プランシーの著書『地獄の辞典』には、ヨハン・ヴァイヤーの「悪魔の偽王国」の記述を参考にして[6]「ゴエティア」と共通する悪魔が多数収録されている。『地獄の辞典』第6版(1863年)に追加されたルイ・ル・ブルトンの挿絵は、創作要素も多分に含まれるものの、悪魔学の資料に基づいて描かれており、現在の多くの人々の悪魔のイメージに影響を与えている。出版された「ゴエティア」にはこの挿絵が引用されているものもある[7]
ゴエティアの悪魔

「ゴエティア」では、記載されている72の悪魔のそれぞれが地獄における爵位悪魔の階級)を持ち、大規模な軍団を率いていることが個別に記されている[注 1]。構成するそれぞれの悪魔の名称は文献によって異綴などの差異が見られる。諸版の差異も含めて名前をリスト化すると、総数は72より多くなる[11][注 2]。フレッド・ゲティングズは著書『悪魔の事典』(ライダー社、1988年)において、これらの悪霊に「ソロモンの霊」という総称を与えた[12]

「ゴエティア」に語られるこれらの魔神の縁起は次のようなものである[注 3]

「これらは72人の強大な王侯たちであり、ソロモン王はかれらに、ベリアルビレトアスモダイガープが首領であるところの軍勢とともに一つの真鍮器[注 4]に入るよう命じたのである。これはかれらの高慢のゆえであろうと思われる。というのもソロモンはかれらを拘束した理由を明かさなかったからである。かくてソロモンはかれらを縛して容器に密閉し、神聖な力によってバビロンの深い湖か穴に逐いやったのであるが、バビロニアのひとびとがこれを見て訝しみ、大きな財宝が入っているやもしれぬ、と容器をこじ開けようとして湖に入り込んだ。しかし彼らが器を開封した途端、霊の頭目たちは自分たちに服属する軍団とともに挙って奔出したのであった。そしてベリアルの他はみな元の位置に復帰してしまった。一方、ベリアルは或る偶像に入り込み、バビロニア人がしたように生贄を捧げてその偶像を神として祀るひとびとに応答するようになったのである。」
ソロモンと悪霊

旧約聖書には書かれていないが、第三代イスラエル王であったソロモンがその英知をもって悪霊を支配していたという話はヘレニズム期のユダヤ人の間に流布していた[注 5]。このような偉大な知恵者とされたソロモンにまつわる伝説から、その後千年に亘って、ソロモンに由来すると偽った文献群(ノーマン・コーンは偽ソロモン文書 pseudo-Solomonic books と呼んだ[17])がヘブライ語ギリシア語アラビア語で書かれることになったが、中世盛期後半頃から、魔術師が悪霊を呼び出す術(ニグロマンシー)について記した、それまでとは趣を異にする偽ソロモン文書がヨーロッパで作られるようになった[18]。『レメゲトン』はこうした文献の流れを汲んでいる。
関連文献

「ゴエティア」に列挙される72人の悪魔のうち、68人はヨーハン・ヴァイヤーの「悪魔の偽王国」(1577年)に記述されているものと共通する(ただし記載される順番は異なる)。同じ68人の悪魔がレジナルド・スコット(英語版)の『魔女術の発見』(1584年)第15巻第2章にも記されており、この部分は事実上「悪魔の偽王国」の英訳である。ただし「悪魔の偽王国」で列挙された悪魔は総勢69人であり、そのうちプルフラスだけは『魔女術の発見』には記載されておらず、ゴエティアの72人の悪魔のリストにも入っていない。

「悪魔の偽王国」の悪魔は、フランスのジャーナリストであったジャック・アルバン・シモン・コラン(1794年-1881年)がコラン・ド・プランシーというペンネームで出版した『地獄の辞典』にも多数登場する[19]。『地獄の辞典』において脚色が施された悪魔の描写は、その第6版(1863年)に加えられたルイ・ル・ブルトンの挿絵とともに、現代の通俗的な悪魔のイメージに影響を与えた[20]
解釈

構成する悪魔の中には、フェニックスバアルアスタロトのように、他の宗教神話の神や霊鳥に淵源を見出すことのできるものも含まれる。西洋の悪魔についての一般論としては、モロク神バアル・ゼブブのように、イスラエル民族周辺の諸国民の神々が嫌悪すべき異教神として悪しきデーモンに貶められた例があり[21]、偶像崇拝を禁じる古代ユダヤ人や後世のキリスト教徒によって、異教の神々が悪魔の地位へ落とされていったとされる[22]

72」という数字は、十二宮の1つの宮をさらに6区画に分割して得られる数字で、象徴的な全方角の支配者を定めるための図から得られたものらしい。そのためウァサゴのように名前以外の正確な姿や性格、特徴の伝えられていない悪魔もいる。アメリカのオカルティスト、ロン・マイロ・デュケット(英語版)は、ゴエティアの72人の悪霊はシェム・ハ=メフォラシュ(Shem-ha-mephorash)の72の神名と72の天使に対応するとしている[23]
一覧

表の左端の数字は「ゴエティア」における記載順を示す。「ゴエティア」の中では「第24の霊はナベリウスと呼ばれる」といった形で順序数に言及されている。またこれらの印章は、マクレガーメーザースが均等にトレースしたものであり、本来は手書きの印章が紹介されている。

名前印章地位軍団数Peterson版[24]Crowley版
[注 6]ウェイト
[注 7]大瀧訳
[26]レジナルド・スコット
[27]
1バエル王32以上Bael同左Baalバール01. バエル Baell


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