コーヒーノキ(コーヒーの木)は、アカネ科コーヒーノキ属(コーヒー属、コフィア属)に属する植物の総称で、主に栽培種(アラビカコーヒーノキとロブスタコーヒーノキなど)を指す。アラビカ種の原産地はエチオピア南西部の高地[1]。また、多数の野生種がアフリカ大陸西部から中部、そしてマダガスカル島と周辺諸島にかけて分布している。
常緑で光沢を帯びた葉と白い花をつけ、鮮やかな赤から紫、または黄色の実をつける。種子からコーヒーの原料となるコーヒー豆が採れるため、商品作物として熱帯地方で大規模に栽培されるほか、観葉植物として鉢植えで利用されている。
特徴 コーヒーノキ
果実にカフェインを多く含み、古くから薬効を利用されていたと考えられている。また、果肉や葉にも若干含まれていて、これらも利用される事がある。
発芽から3年から5年で、ジャスミンに似た香りの白い花を咲かせる。その後50年から60年に渡り、コーヒーチェリーと呼ばれる果実を付ける。通常、赤または紫の核果で、黄色の品種もある。果実が成熟するまでには約9か月かかり、熟した果肉は甘く食べられるが、量が僅かなので利用されていない[2]。
果実の中には2粒の種子が向かい合わせに入っており、この部分がコーヒー豆である ⇒(果実・種子の画像)。1粒の丸い種子が付くものはピーベリーと呼ばれ、同じ樹には、5%以下しか出来ない。通常の物と比べると焙煎後の味が微妙に異なる。
樹高は9mから12mに達するが[1]、厳しい剪定に耐えることから、農園では実の採取に適した3mから3.5m程度で管理される。本格的な栽培は17世紀以降で、栽培種の原産地はアフリカ大陸中部で、エチオピアのアビシニア高原やコンゴ、西アフリカが知られている。
生育には熱帯地方のサバナ気候や熱帯モンスーン気候のような雨季と乾季、または熱帯雨林気候の山岳地帯など昼夜で寒暖差が大きい気候が適し、多雨も好む。一方、冬霜など寒さには弱い[1]。土壌は有機質に富む肥沃土、火山性土壌を好み、火山帯や高地が適し、特にブラジルのテラローシャは最適とされる。 コーヒーノキ属には4亜属66種[注 1]が含まれ、10種ほどの栽培種はEucoffea亜属24種の一部となっている。亜属はさらに5つの節に分けられている。 一方、新しいAPG植物分類体系では2亜属103種[注 2]が含まれ、栽培種はCoffea亜属95種に含まれている。さらに遺伝子系統解析により、5つから6つのクレード(系統)に分けられている。
分類
Erythrocoffea節(C. arabica, C. canephora, C. congensis など)
Pachycoffea節(C. liberica, C. dewevrei など)
Mozambicoffea節(C. racemosa, C. salvatrix など)
Melanocoffea節(C. stenophylla など)
Nanocoffea節(C. montana など)
Wクレード(West clade)、UGクレード(en:Upper Guinea
WCクレード(West-Central clade)、LG/Cクレード(en:Lower Guinea/Congolian clade) 西アフリカから中央アフリカ
Cクレード(Central clade)、E-CAクレード(East-Central Africa clade) 中央アフリカから東アフリカ
Eクレード(East clade)、EAクレード(East Africa clade) 東アフリカ
Mクレード(Madagascar clade)、Madクレード(Madagascar clade) マダガスカル
MASクレード(Mascarene clade) マスカレン諸島
アラビカ種 アラビカ種の花
アラビカ種 (Coffea arabica L.、アラビカコーヒーノキ) はエチオピア原産で[1]、最初に広まったイエメンにちなんだアラビカの名になった。コーヒーノキ属中、唯一染色体数が44(核相が2n=44。他の種は2n=22)の倍数体で、また自家不和合性も無いなどの特徴を持つ。200以上の栽培品種があり、さらに交配による新品種の育種も行われている。
最近の染色体DNAと葉緑体DNAの系統解析により、ユーゲニオイデス種(C. eugenioides)の花とカネフォーラ種(C. canephora)の花粉との自然交配による交雑種が、さらに倍数化して生じた複二倍体を起源とする事が明らかとなった。また、他種から孤立した分布は氷期の影響と考えられている。
高品質で収量も比較的高く、世界のコーヒー生産において7割から8割を占め主流となっている[1]。主な栽培地は中南米とアフリカの一部で、高級品として取引される産地が多い。ただし高温多湿の環境には適応せず、霜害に弱く[1]、乾燥にも弱い。レギュラーコーヒー用。
ロブスタ種 焙煎前のロブスタコーヒー豆
ロブスタ種 (C. canephora var. robusta、ロブスタコーヒーノキ) はコンゴ原産のカネフォーラ種 (C. canephora Pierr ex Froeh) の変種で、染色体数は22。1895年に発見され、強靭を意味するRobustから命名されたC. robusta L.Lindenというシノニムを持つ。ベルギーで研究された結果、当時流行していたサビ病に強い性質を受けてジャワ島で栽培され、広まった[1]。栽培品種はあるが豆の流通市場で特に区別されない。
病虫害に強く、高温多湿の気候にも適応するうえ成長が速く高収量で、生産量の2割から3割を占める。主な栽培地は東南アジアとアフリカの一部で、特に生産量2位のベトナムで栽培が伸びている。主にインスタントコーヒー用、あるいは廉価なレギュラーコーヒーの増量用として用いられる[1]。
アラビカ種よりも品質は劣り、カフェインやクロロゲン酸類の含量が高く、焦げた麦のような香味で苦みと渋みが強く、酸味がない[1]。旧植民地と宗主国の関係からヨーロッパ(特にフランス)での消費が多い。フレンチロースト、イタリアンローストなど深煎りしてミルクを合わせる飲み方が普及した背景と見られる。 リベリカ種 (C. liberica Bull ex Hiern.、リベリカコーヒーノキ) は西アフリカ原産で、染色体数は22。ロブスタ種と同様に豆の流通市場で栽培品種が区別されることは少ない。1876年にリベリアでヨーロッパ人によって「発見」されたが、当時からアフリカ西岸各地で栽培されていた。かつてはアラビカ種、ロブスタ種とあわせてコーヒーの三原種と呼ばれていたが、現在では全生産量の1%未満にすぎない。 高温多湿の気候に適応するがサビ病に弱く、交配しやすいので品種の固定が難しく、かつ大木となるため豆の採取が他種よりも困難である。品質もアラビカ種に及ばないとされる。西アフリカの一部で栽培、国内消費されている。
リベリカ種
その他の原種
栽培種
コンゴコーヒーノキ (C. congensis Froeh.) コンゴ原産で、地元で少量栽培されている。ステノフィラコーヒーノキ (C. stenophylla G. Don)エキセルサ (C. dewevewi var exelsa) 比較的高品位で、リベリカ種の変種(C. liberica var. dewevrei f. dewevrei)とされることもある。ベンガルコーヒーノキ (Psilanthus bengalensis Roxb.) インド原産で果実は紫色、以前はCoffea属に含まれていた。