コーヒーの歴史
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コーヒー挽き(1905年)

コーヒーの歴史(コーヒーのれきし)ではコーヒーノキの利用と栽培、およびコーヒー飲用の歴史について述べる。
コーヒー発見にまつわる伝説

コーヒーの起源にはいくつもの伝説があるが、その内容は3つに大別できる[1]

9世紀のエチオピアで、ヤギ飼いの少年カルディが、ヤギが興奮して飛び跳ねることに気づいて修道僧に相談したところ、山腹の木に実る赤い実が原因と判り、その後修道院の夜業で眠気覚ましに利用されるようになった。

この話の原典とされるのは、レバノンのキリスト教徒ファウスト・ナイロニ (Faustus Nairon) の著書『コーヒー論:その特質と効用』(1671年)に登場する「眠りを知らない修道院」のエピソードだが、実際には時代も場所も分からないオリエントの伝承として記されていた[1][2]。この話がヨーロッパで紹介されると、コーヒーの流行に合わせて装飾が進み、舞台は原産地エチオピアに設定され、ヤギ飼いの少年にはKaldiというアラブ風の名が与えられた[1]


13世紀のモカで、イスラム神秘主義修道者(スーフィー)のシェイク・オマール (Sheikh Omar) が、不祥事(王女に恋心を抱いた疑い)で街を追放されていた時に山中で鳥に導かれて赤い実を見つけ、許されて戻った後にその効用を広めた。

原典は、アブドゥル・カーディル・アル=ジャジーリーの著書『コーヒーの合理性の擁護』(1587年)写本で、千夜一夜物語をヨーロッパに紹介したアントワーヌ・ガラン (Antoine Galland) の著書『コーヒーの起源と伝播』(1699年)によってヨーロッパに紹介された[1]。オマールの没後早い時期に書かれた歴史書にはオマールがコーヒーを発見した記述は存在せず[3]、東アフリカを原産地とするコーヒーノキがイエメンの山中に自生している点から信憑性には疑問が呈され、モカのコーヒー産業が発達した後に創造された逸話だと考えられている[4]


15世紀のアデンで、イスラム律法学者のゲマレディン(ザブハーニー)(Gemaleddin) が体調を崩した時、以前エチオピアを旅したときに知ったコーヒーの効用を確かめ、その後、眠気覚ましとして修道者たちに勧めた。さらに学者や職人、夜に旅をする商人へと広まっていった。

シェイク・オマールの逸話と同じく『コーヒーの合理性の擁護』が原典だとされている[1]。ヨーロッパの人間の記録の中には、1454年にゲマレディンがコーヒーを認めるファトワー(法解釈)を出したとする伝承が紹介されている[5]。『コーヒーの合理性の擁護』では、ザブハーニーが飲用していた液体はコーヒーではなくカートだとする別の記録が紹介されている[6]。ウィリアム・H・ユーカーズ (William H.Ukers) の著書『オール・アバウト・コーヒー』(1935年)では、信憑性の高い伝承として取り上げられている[1][7]


飲用史
コーヒー豆の食用とアラビア半島への伝播アル・ラーズィー

エチオピアでは高原地帯に自生するコーヒーノキの果実の種子が古くから食用にされ、現地の人間はボン(コーヒー豆)を煮て食べていたと考えられている[8]。エチオピアの奥地ではボンを煮て食べる習慣が長く残り[8]、エチオピア南西部の奥地に住むオロモ族の間には子供や家畜の誕生を祝ってコーヒーと大麦をバターで炒める「コーヒーつぶし」の儀式が残る[9]。また、エチオピアでは乾燥させたコーヒーの葉で淹れた「アメルタッサ」、炒ったコーヒーの葉で淹れた「カティ」という飲み物も愛飲されている[10]

古代ギリシャ古代ローマでコーヒーが食用にされていた、あるいは取引の対象になっていたことを示す確たる史料は無く、古代エチオピアに成立したアクスム王国でコーヒーの利用・取引が行われていたことを証明する発見はされていない[11]。17世紀初頭、イタリア人ペトロ・デッラ・ヴァッレによって、ホメロスの『オデュッセイア』に登場するネペンテスという飲み物がコーヒーに相当する説が唱えられたが、後の時代ではデッラ・ヴァッレの説は否定的に受け止められている[12]。他にも17-18世紀のヨーロッパでは、スパルタの人間はコーヒーを愛飲していた、『旧約聖書』にコーヒーに関する記述が存在する、といった説が持ち上がった[13]。17世紀初頭のイスラーム世界の年代記作家アブー・アッタイイブ・アルガッズィーは、ソロモン王によって初めてコーヒーが淹れられたと記している[14]

やがてボンはアラビア半島に伝わり、アラビア語で「バン」と呼ばれるようになる[8]。コーヒー豆から抽出した飲料について、9世紀イラン哲学者であり医学者でもあったアル・ラーズィー(ラーゼス)が、自著でコーヒー豆を指す「バン」とその煮汁「バンカム」について記述している[8][15][16]。バンカムは乾燥させたバンを臼ですり潰して熱湯に入れて煮出した飲み物であり、コーヒーの原型と考えられているが、まだ豆は焙煎されていなかった[17]。バンカムの入れ方については、イスラーム世界の学者イブン・スィーナーも詳しい記述を残している[15][18][19]。しかし、ラーズィーとイブン・スィーナーによるバンカムの解説には、コーヒーに含まれるカフェインが神経系統に及ぼす影響について述べられてはいない[16]
イスラーム世界での普及

バンカムはイスラーム世界の寺院で秘薬として飲まれ、当初は一般の人間が口にする機会は無かった[20]。バンカムはイスラム神秘主義(スーフィズム)の修道者(スーフィー)によって愛飲され、コーヒーの起源にまつわる3つの伝説にはいずれもスーフィーが関与している[21]。スーフィーたちは徹夜で行う瞑想祈りのときの眠気覚ましとしてバンカムを用い、宗教活動の中で飲用されるバンは彼らから神聖視された[22][23]。やがてバンカムは「カフワ(欲望を減退させる飲料。ワインの別名)」と呼ばれるようになる[24][25][26]。スーフィーたちは夜の礼拝の時にカフワを飲用し、マジュールというボウルにカフワを入れて仲間内で回し飲みをしていた[27]

13世紀に入ってコーヒー豆が炒られるようになると、香りと風味が付加された飲料は多くの人間に好まれるようになった[28]。豆が焙煎されるようになった経緯は不確かであるが、偶然起きた何らかの事故で豆が焼かれた時に出た芳香がきっかけになったと考えられている[29]。トルコ、イラン、エジプトでは、豆の焙煎に使われた1400年代の道具が発掘されている[30]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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