コーシー積
[Wikipedia|▼Menu]

初等解析学におけるコーシー積(コーシーせき、: Cauchy product)は、二つの無限級数に対する離散的な畳み込み積である。名称はフランス人数学者のオーギュスタン・ルイ・コーシーに因む。

コーシー積が適用できるのは、無限級数[1][2]あるいは冪級数[3][4]である。冪級数のコーシー積は冪級数を単に無限級数とみてとったコーシー積であるから、ことさら区別を強調することはないけれども収束性を考える上では分けておくことは便利である。

コーシー積は数列添字集合上の離散的な函数と見たときの函数の畳み込みであり、また有限数列または有限級数を、が有限(つまり、有限個を除くすべての項が零)な無限数列または無限級数と見てコーシー積をとる[5]こともできるけれども、その場合は離散畳み込みと呼ぶほうが普通であろう。
定義
定義 (無限級数のコーシー積)
二つの無限複素級数 ∑∞
i=0 ai および ∑∞
j=0 bj に対し、それらのコーシー積とは各項が離散畳み込みで与えられる級数 ( ∑ i = 0 ∞ a i ) ⋅ ( ∑ j = 0 ∞ b j ) = ∑ k = 0 ∞ ∑ l = 0 k a l b k − l {\displaystyle {\biggl (}\sum _{i=0}^{\infty }a_{i}{\biggr )}\cdot {\biggl (}\sum _{j=0}^{\infty }b_{j}{\biggr )}=\sum _{k=0}^{\infty }\sum _{l=0}^{k}a_{l}b_{k-l}} を言う。
定義 (冪級数のコーシー積)
二つの複素係数
冪級数 ∑∞
i=0 ai xi および ∑∞
j=0 bj xj に対し、それらのコーシー積とは ( ∑ i = 0 ∞ a i x i ) ⋅ ( ∑ j = 0 ∞ b j x j ) = ∑ k = 0 ∞ ( ∑ l = 0 k a l b k − l ) x k {\displaystyle {\biggl (}\sum _{i=0}^{\infty }a_{i}x^{i}{\biggr )}\cdot {\biggl (}\sum _{j=0}^{\infty }b_{j}x^{j}{\biggr )}=\sum _{k=0}^{\infty }{\biggl (}\sum _{l=0}^{k}a_{l}b_{k-l}{\biggr )}x^{k}} で与えられる冪級数を言う。
注意
各級数の添字 i, j を xy-直交座標系の第一象限(境界としての軸上の点を含む)内の格子点 (i, j) と見れば、コーシー積は対角線 x + y = 1 に平行な直線 x + y = k 上の格子点に関してとった和をすべての k に対して一つずつ加えたものであるから、この二重和の各項はすべての格子点に対して一度ずつ現れている。また、上記の定義式の両辺に現れる三つの級数がそれぞれ収束して、右辺の値が左辺の二つの和の(数値としての)積に一致することは、無限和に対して一般化された意味の分配法則が成り立つことを示すものと考えることができる。(形式的な)分配法則による左辺の形式的な展開[6]は、先と同様の格子点上を亙る和を(対角線でなく)軸に平行な直線族を使ってとった形になるから、これは格子点上の多重無限和の順序交換に関する主張であり、成り立つことも成り立たないことも起こり得る(フビニの定理も参照)。
収束性

実または複素数列 (an)n?0 および (bn)n?0 を考える。級数 ∑
an, ∑
bn がともに絶対収束してその値がそれぞれ A, B であるならばそれらのコーシー積 ∑
cn も収束して、その値 C は積 AB に等しい
[7]。また、三者がすべて収束する場合にも C = AB である[8]。しかし ∑
an, ∑
bn がともに収束するというだけでは、それらのコーシー積 ∑
cn が収束するためには十分でない。また、二つの級数 ∑
an, ∑
bn が発散する場合でも、それらのコーシー積 ∑
cn が絶対収束することもある[注釈 1]

収束級数同士のコーシー積が収束することを保証する一つの十分条件を、ドイツ人数学者フランツ・メルテンス(英語版)が与えた:
定理 (Mertens)[10]

an が A に収束し、∑
bn が B に収束するとき、少なくとも一方の級数が絶対収束ならば、それらのコーシー積も収束してその和は AB に等しい。

したがってメルテンスの定理は、定理の条件が満たされるならば一般化された形での分配法則が成り立つことを意味するものでもある。メルテンスの定理のある意味で逆となるものとして以下を挙げることができる:
定理[11][12]
級数 ∑
an と任意の収束級数とのコーシー積が収束するならば、∑
an 自身が収束する。

さて、二つの級数が収束するが絶対収束でない(つまり条件収束する)ことを仮定した場合は、それらのコーシー積は発散しうる[注釈 2]。しかしこの場合でも、そのコーシー積はまだチェザロ総和可能である。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:31 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef