コンピュータ断層撮影
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「CT」はこの項目へ転送されています。その他の用法については「CT (曖昧さ回避)」をご覧ください。
CT機器

コンピュータ断層撮影(コンピュータだんそうさつえい、: computed tomography、略称:CT)は、放射線などを利用して物体を走査しコンピュータを用いて処理することで、物体の内部構造を画像として構成する技術、あるいはそれを行うための機器。

断層撮影」の名前のとおり、本来は物体の(輪切りなどの)断面画像を得る技術であるが、これらの検査技術は単に断面画像として用いられるのみでなく、画像処理技術の向上によって任意断面画像再構成(MPR[注釈 1])や曲面を平面に投影する「カーブドMPR」(または カーブド・プレーナー・リコンストラクション)、最大値投影像(MIP[注釈 2])、サーフェスレンダリングやボリュームレンダリングなどの3次元グラフィックスとして表示されることも多くなり、画像診断技術の向上に寄与している。

広義の「CT」には、放射性同位体を投与して体内から放射されるガンマ線を元に断層像を得るポジトロン断層法(PET(ペット))や単一光子放射断層撮影(SPECT(スペクト))、また体外からX線を照射するものの180度未満のX線管球と同期する検出器の回転、または平行移動によって限られた範囲の断層像を得るX線トモシンセシスなどが「CT」の一種として挙げられる。しかし、一般的に「CT」と言う場合、ほぼ常に最初に実用化されたX線を利用した180度以上のX線管球と検出器の回転によって断層像を得るCTのことを指すようになっている。また、単に「CT」と言う場合には、円錐状ビームを用いるコーンビームCTではなく、扇状ビームを用いるファンビームCTを指す。後述する1990年代以降に発展した多列検出器CTは、厳密に言えば頭足方向に幅を持った角錐状ビームを用いるコーンビームCTであるが、実用上はファンビームCTとして扱う。

本項では主に、被験体の外からX線の扇状ビームを、連続的に回転しながら螺旋状に[注釈 3]、もしくは回転しながら断続的に[注釈 4]照射することにより被験体の断層像を得る事を目的としたCT機器、およびそれを用いた検査について記述する。
歴史

コンピュータ誕生以前の断層撮影方式では、1930年代にイタリアの放射線科医師のアレッサンドロ・ヴァッレボーナによってトモグラフィーの原理が発明された。これはX線撮影フィルムに体を輪切り状に投影するものであった。

1953年には、弘前大学高橋信次が「エックス線回転横断撮影装置」を開発した[1][2][3]。これは、コンピュータを用いないアナログな機械的装置によって断層を撮影するものであった。

最初の商業的なCTは、ソーンEMI(英語版)中央研究所(英語版)で英国人のゴッドフリー・ハウンズフィールドによって発明された。これは、コンピュータによる装置の制御や画像処理を行うことができるもので、1967年に考案、1972年に発表した。ハウンズフィールドの研究はマサチューセッツ州のタフツ大学アラン・コーマックの理論を基にしており、彼らは1979年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。電子機器会社のソーン(英語版)と合併したとはいえレコード会社に過ぎなかったEMIがハウンズフィールド率いる研究チームの開発費を賄えたのは60年代当時世界的な大ヒットを連発していたザ・ビートルズの売り上げがあればこそであり、大げさに「CTはビートルズによるもっとも偉大な遺産」といわれることがある。ただし、当然ではあるが本業からあまりにもかけ離れた事業であったため大きな赤字を生み現在はCT事業からは撤退している。

1971年に作成された原型は、1°刻みで160の並列読み出し走査を行っており、180°にわたって走査するのに5分以上かかっていた。画像は走査後、大型計算機で2.5時間かけてラドン変換及びその逆変換を繰り返すトモグラフィック復元によって得られた。

最初に生産されたX線CT(EMIスキャナーと呼ばれた)は脳の断層撮影に用いられた。2つの断層データを得るのに約4分かかった。そして、断層画像を得るのにデータゼネラル社のミニコンピュータを使用して画像一枚あたり約7分かかった。

日本におけるCTの導入は、EMIとレコード事業東芝EMI)で提携関係のあった東芝が1975年8月に輸入し、東京女子医科大学病院に設置されて脳腫瘍を捉えたのがはじまりである。ただし、このスキャナはニクソンショックによる変動為替相場制導入後でも1億円(現在[いつ?]の概算で10億円単位)を下らない費用を要する代物で、日本政府側の自賠責保険の運用益から交通事故時の頭部外傷に役立てるような研究的意味合いで資金拠出されることになった。

その後東芝メディカルにより国内生産が開始され、一方日立製作所で、自社開発による初の国産機を1975年10月に藤田学園保健衛生大学に設置している。

その後、1986年にヘリカルCT(ヘリカルスキャン)が開発され、1998年には4列MDCTが登場してきた。2000年代以降はCTの技術革新が進み、後述するように画像再構成アルゴリズムに逐次近似法を用いるものや、2つのエネルギーのX線を用いることで金属アーチファクトの低減を可能にしたデュアルエナジーCT、あるいはMDCTでは最大で320列のものや、検出器にフラットパネルディテクタを用いたものも登場している。
原理詳細は「トモグラフィー」を参照CT機器の内部構造
(T : X線管球、X : X線、D : X線検出器、R : 台の回転)
検出器は管球を中心とする円弧上に配置されている

検査対象の周囲を線源と検出器が回転し、検査対象はX線を全方位から受け、照射されたX線は検査対象を通過し、対象に一部吸収されて減衰した後、線源の反対側に位置するX線検出装置に到達し記録される。それぞれの方向でどの程度吸収されたかを記録したのち、コンピュータで画像をフーリエ変換で再構成する[4]

1断面を格子状に分割し、各部位の吸収率を未知数とし、その合計が実際の吸収量と等しくなるように連立方程式を立て、これを解くのである。巨大な行列演算である[4]。一般に1断面を512ピクセル四方の格子に分割する機種が多い[注釈 5]が、1,024ピクセル四方に分割し処理できる空間解像度の高い機種も存在する。
画像再構成アルゴリズム

CT画像再構成法は解析的再構成法、代数的再構成法、統計的再構成法に大別され、逆投影法は解析的再構成法に分類され、逐次近似画像再構成法は代数的再構成法と統計的再構成法に分類される[5][4]。これまでCT画像再構成法の主流はフィルタ補正逆投影法(FBP法[4][注釈 6])であったが、近年では画像ノイズ低減効果やアーチファクト低減効果が期待される「逐次近似画像再構成法」(IR法[注釈 7])が増えつつある[4][5]。IR法の弱点である画像再構成にかかる時間の長さを克服するために、FBP法にIR法の原理を組み込んだ、逐次近似応用再構成法も存在する。
逆投影法[注釈 8]
逆投影法では1回の計算で解(再構成像)が求まる[4][5]
逐次近似画像再構成法[注釈 9]
逐次近似法は最初に初期画像を仮定してこの画像から計算で作成した投影(順投影)と実測投影との整合性を反復計算によって高めていく手法で、反復計算により計算時間を多く必要とするものの、コンピュータの高速化に伴って統計雑音の性質、装置の分解能、被写体の滑らかさなどの事前情報などを式中に組み込める柔軟性や近年発展の著しい圧縮センシング理論を取り入れることにより徐々に増えつつある[5][6]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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