コムフィルタ(英: comb filter)は、信号にそれ自身を遅延させたものを追加することで干渉を生じさせるフィルタ回路の一種である。くし形フィルタまたはくし型フィルタとも。コムフィルタの周波数特性は一定間隔のスパイク状になり、図示すると櫛のように見える。 コムフィルタは様々な信号処理に利用されている。
用途
CICフィルタ
2次元および3次元のコムフィルタは、PALおよびNTSCのテレビデコーダに使う。映像ノイズを低減させる効果がある。
エコー、フランジャー、場合により疑似ステレオといった音響効果。
デジタルウェーブガイド合成
コムフィルタにはフィードフォワード型とフィードバック型がある。これらの名称は追加する信号を遅延させる方向に対応している。
コムフィルタは、離散信号でも連続信号でも実装できる。ここでは主に離散信号での実装を解説する。連続信号用コムフィルタも特性はよく似ている。
フィードフォワード型フィードフォワード型コムフィルタの構造
フィードフォワード型コムフィルタの大まかな構造を右図に示す。これは次の式で表せる。
y [ n ] = x [ n ] + α x [ n − K ] {\displaystyle \ y[n]=x[n]+\alpha x[n-K]\,}
ここで、 K {\displaystyle K} は遅延長(標本数)、 α {\displaystyle \alpha } は遅延信号に適用する倍率である。この式の両辺のZ変換を行うと、次の式が得られる。
Y ( z ) = ( 1 + α z − K ) X ( z ) {\displaystyle \ Y(z)=(1+\alpha z^{-K})X(z)\,}
伝達関数は次のように定義される。
H ( z ) = Y ( z ) X ( z ) = 1 + α z − K = z K + α z K {\displaystyle \ H(z)={\frac {Y(z)}{X(z)}}=1+\alpha z^{-K}={\frac {z^{K}+\alpha }{z^{K}}}\,}
周波数応答フィードフォワード型で α {\displaystyle \alpha } を様々な正の値にしたときの応答特性(振幅のみ)フィードフォワード型で α {\displaystyle \alpha } を様々な負の値にしたときの応答特性(振幅のみ)
Z領域で表される離散時間系の周波数応答を得るには、 z = e j ω {\displaystyle z=e^{j\omega }} と置き換える。すると、フィードフォワード型コムフィルタの伝達関数は次のようになる。
H ( e j ω ) = 1 + α e − j ω K {\displaystyle \ H(e^{j\omega })=1+\alpha e^{-j\omega K}\,}
オイラーの公式を使うと、周波数応答は次のように表すこともできる。
H ( e j ω ) = [ 1 + α cos ( ω K ) ] − j α sin ( ω K ) {\displaystyle \ H(e^{j\omega })=\left[1+\alpha \cos(\omega K)\right]-j\alpha \sin(\omega K)\,}
位相を無視して振幅の周波数特性だけを必要とすることが多い。それは次のように定義できる。
。 H ( e j ω ) 。 = ℜ { H ( e j ω ) } 2 + ℑ { H ( e j ω ) } 2 {\displaystyle \ |H(e^{j\omega })|={\sqrt {\Re \{H(e^{j\omega })\}^{2}+\Im \{H(e^{j\omega })\}^{2}}}\,}
フィードフォワード型コムフィルタでは、これが次のようになる。
。 H ( e j ω ) 。 = ( 1 + α 2 ) + 2 α cos ( ω K ) {\displaystyle \ |H(e^{j\omega })|={\sqrt {(1+\alpha ^{2})+2\alpha \cos(\omega K)}}\,}
( 1 + α 2 ) {\displaystyle (1+\alpha ^{2})} という項は定数であり、残る 2 α cos ( ω K ) {\displaystyle 2\alpha \cos(\omega K)} は周期関数である。したがって、コムフィルタの周波数特性は周期的である。
右の2つの図は様々な α {\displaystyle \alpha } の値について、周波数特性の周期性を表したものである。次のような特性が重要である。
応答は周期的に局所最小値に落ち込み(「ノッチ」などと呼ぶ)、周期的に局所最大値になる(これを「ピーク」などと呼ぶ)。
最大と最小は常に 1 から等しい距離にある。
α = ± 1 {\displaystyle \alpha =\pm 1} のとき、最小の振幅がゼロになる。