認識論において、ゲティア問題(英語: Gettier problem)とは、知識のJTB説(正当化された真なる信念)に対する反例である。名前は、エドムント・ゲティア(en:Edmund Gettier
)が1963年に上梓した3ページの論文「正当化された真なる信念は知識か」(Is Justified True Belief Knowledge?)に負っている。この問題は基本的にはすべての人が関係しうるもので、「信念が知識になるためにはどのような条件が満たされなければいけないか?」というものである。
知識とは、正当化された真なる信念であるという定式がプラトン以来の伝統であり、これを「JTB定式」と呼ぶ。
JTB定式によれば、ある命題についての信念が(a)その命題が信じられている(b)その命題が真である(c)その命題を信じる人が信じるに足る理由を持つ[1]
の場合知識となり、かつこれらが満たされている場合のみ知識となるとされている。 JTB定式によれば、(a)(b)(c)の三つの条件を満たしているから、スミスは、「採用されるのは、硬貨が10枚ポケットに入っている者である」という命題についての知識を持っていると結論付けられるように思われるが、実際には、スミス自身は、「スミスのポケットにも10枚の硬貨が入っていた」ことを知らないのであるから、スミスは、この命題について知識を持っているとはいえない。スミスは、「ジョーンズが採用される」と誤って信じているのである。 したがって、JTB定式によって導かれる「命題」は偽である。 JTB定式によれば、(a)(b)(c)の三つの条件を満たしているから、スミスは、「ジョーンズはフォードを所有しているか、または、ブラウンはバルセロナにいるかのいずれかである」という命題についての知識を持っていると結論付けられるように思われるが、実際には、スミス自身は、「ブラウンの現在の居場所を全く知らない」のであるから、スミスは、この命題について知識を持っているとはいえない。 したがって、JTB定式によって導かれる「命題」は偽である。 ゲティアの論文は大きな反響を呼んだ。 The Cow in the Fieldと呼ばれているシナリオではこうした信念の根拠が「事実上」不完全である状況が描き出されている。
例題1
事案
スミスとジョーンズは、ある会社の採用面接にきた。
スミスは、「ジョーンズが採用され、かつ、硬貨が10枚ジョーンズのポケットに入っている」という事実を確認した。
スミスは、この事実から「採用されるのは、硬貨が10枚ポケットに入っている者である」との命題を信じている。
スミスは知らないことであるが、実際に採用されるのはスミスであり、かつ、スミスのポケットにも10枚の硬貨が入っていた。
検討(a)スミスは、「採用されるのは、硬貨が10枚ポケットに入っている者である」という命題を信じている。(b)「採用されるのは、硬貨が10枚ポケットに入っている者である」という命題は真である。(c)スミスは、「ジョーンズが採用され、かつ、硬貨が10枚ジョーンズのポケットに入っている」という事実から「採用されるのは、硬貨が10枚ポケットに入っている者である」との命題を信じたのであるから、その命題を信じるに足る理由を持つ。
例題2
事案
ジョーンズは、スミスの記憶する限り、これまでずっとフォードを所有し、かつ、ジョーンズは、スミスにフォードでドライブに行かないかとちょっと前に誘ったばかりである。
スミスは、これの事実から「ジョーンズはフォードを所有している」という命題を信じた。
スミスには、他に友人のブラウンがいるが、スミスは現在の彼の居場所を全く知らない。
スミスは、遊びで、以下の三つの命題を作った。
ジョーンズはフォードを所有しているか、または、ブラウンはボストンにいるかのいずれかである。
ジョーンズはフォードを所有しているか、または、ブラウンはバルセロナにいるかのいずれかである。
ジョーンズはフォードを所有しているか、または、ブラウンは東京にいるかのいずれかである。
スミスは知らないことだが、ジョーンズが乗っているのはレンタカーであって、フォードを所有していない。
スミスは知らないことだが、ブラウンはバルセロナにいる。
検討(a)スミスは、「ジョーンズはフォードを所有している」との命題を信じ、スミスの作った三つの命題はいずれも「ジョーンズはフォードを所有している」との命題を含意するものであるから、三つの命題のいずれも信じている。(b)スミスが作った三つの命題のうちの一つである「ジョーンズはフォードを所有しているか、または、ブラウンはバルセロナにいるかのいずれかである」という命題は真である。(c)スミスは、「ジョーンズは、スミスの記憶する限り、これまでずっとフォードを所有し、かつ、ジョーンズは、スミスにフォードでドライブに行かないかとちょっと前に誘ったばかりである」という事実から、その命題を信じ、スミスの作った「ジョーンズはフォードを所有しているか、または、ブラウンはバルセロナにいるかのいずれかである」という命題は「ジョーンズはフォードを所有している」との命題を含意するものであるから、その命題を信じるに足る理由を持つ。
影響
脚注^ ここで何が「理由」とみなされるべきかという問題はそれ自体複雑なものではあるが、理由とは関係的なものであって、単に非合理的な信念ではなく、「事実」に基づいていなければいけないと考えられているのは確かである。
参考文献
中山康雄「正当化の帰属説を用いた命題的知識の分析」『大阪大学大学院人間科学研究科紀要』第35号、大阪大学大学院人間科学研究科、2009年3月、193-206頁、doi:10.18910/10211
外部リンク
⇒『正当化された真なる信念は知識か』の「原文」(英語)
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