ケトン体
IUPAC名
3-Hydroxybutanoic acid
別称β-ヒドロキシ酪酸
識別情報
CAS登録番号300-85-6
ケトン体(ケトンたい、独: Ketokorper、仏: Corps cetoniques、英: Ketone bodies)とは、脂肪酸の代謝の内、その酸化によって生じたアセチルCoAからアセトアセチルCoA、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAを経て生じたアセト酢酸が可逆的に還元されて3-ヒドロキシ酪酸となり、それが非酵素的に脱炭酸されてアセトンとなる経路および途中で生産される化合物の総称。ケトン体はアルツハイマー型認知症(3型糖尿病)、糖尿病やパーキンソン病などに高い抑制効果が期待できる[1][2]。 ケトン体の合成経路で生産される物質群は一般にアセトン、3-ヒドロキシ酪酸及びアセト酢酸である。3-ヒドロキシ酪酸は肝臓において脱水素酵素によってアセト酢酸に変化する。血中に循環しているものの大部分(70%以上)は3-ヒドロキシ酪酸であり、多くの場合特に断りなく「ケトン体」と述べるときは3-ヒドロキシ酪酸を指すことが多い。ある種の動物ではもともとケトン体濃度が高く[3]、ヒトにおいても空腹時や激しい運動時にケトン体濃度が増加する[4]。このような現象を生理的ケトーシスと呼ぶ。生理的ケトーシスを誘導して健康効果を発現させるために、ケトン供与体を積極的に摂取することも可能である。ケトンエステルはアルツハイマー型認知症(3型糖尿病)、糖尿病やパーキンソン病などに高い抑制効果が期待できる[1][2]。 ケトン体(3-ヒドロキシ酪酸)はエネルギー基質として機能することに加えて細胞膜や細胞内の受容体と結合して生理作用を誘導する作用がある[5]。すなわちケトン体はエネルギー基質であると同時に、生理活性物質でもあり、これが他の脂肪酸や有機酸と異なる点である。ケトン体は生理活性物質として、以下のような様々な生理作用を誘導する。
ケトン体の物質群
生理活性物質
ケトン体は膜上のヒドロキシカルボン酸受容体2 (Hydroxycarboxylic acid receptor 2; HCAR2) に結合して、Gタンパク質を介して、細胞内シグナルを誘導する。これにより脂肪分解を促進し、また炎症反応を抑制する[6]。
ケトン体は細胞内のヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deacetylase; HDAC)を抑制して、ヒストンのアセチル化を促進し、種々の酵素を誘導して、活性酸素に対して耐性を与える[7]。
ケトン体は短鎖脂肪酸受容体43(Gi/o protein-coupled receptor ; GPR43)に結合して、脂肪分解に関与する酵素群を誘導し、脂肪分解を促進する[8]。
ケトン体は(NOD-like receptor family, pryin domain containing 3; NLRP3)タンパク質に結合して、炎症反応を抑制する[9]。
ケトン体はATP依存性カリウムチャネル (KATPチャネル) を抑制し、ニューロンの膜電位の低下を起こし、膜の過剰興奮(癲癇の発作)を抑制する。これがケトン食により癲癇の発作を抑制する機構である[10]。
ケトン体は線虫において寿命延長効果が報告されている[11]。