ケサル叙事詩
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壁画に描かれたケサル

ケサル王伝 (けさるおうでん、英:Epic of King Gesar、発音 /???z?r/ あるいは /???z?r/)あるいはゲセル・ハーン物語(げせる・はーんものがたり)は、チベットおよび中央アジアにおける主要な叙事詩である。現在でも140名あまりのケサル吟遊詩人 (チベット人モンゴル人ブリヤート人トゥ族など)によって歌われており、現存する数少ない叙事詩のひとつとしても価値が高い。この叙事詩は約1,000年前のものと推定され、勇胆の王ケサルと彼が治めたという伝説の国家リン王国 (英:gLing、発音:Ling)について語られている。なお、ケサルとゲセルはそれぞれこの物語の主人公名のチベット語読みとモンゴル語読みである。

この叙事詩は、現存するものの中では世界最長の文学作品と考えられている[1]。現在のところ最終稿と呼べるものはないが、仮に最終稿が完成した場合、話数は約120編、韻文詩の数は100万以上、単語数は2,000万語以上という膨大なものになると推定されている[2]。これは、140ページあたりに単語が5万語入ると仮定すると、全体では5万6千ページとなる計算である。
目次

1 名前の語源と叙事詩の起源

1.1 語源

1.2 伝統的なチベットの見解

1.3 近年の中国や西洋における研究

1.4 リン王国の立地


2 物語の概要

3 様々なバージョン

3.1 口承

3.2 翻訳物


4 宗教的な次元

5 他の分野に与えた影響

6 出典・脚注

7 参考文献

8 外部リンク


名前の語源と叙事詩の起源
語源

一部の学者は、カエサル (Caesar)の物語がモンゴルに伝わったときにケサル (Kesar)となり、それがさらに派生してチベット名のゲセル (Gesar)となったという説を提唱した。当時、モンゴルは東ローマ帝国と同盟を結んでおり、『カエサル』はその東ローマ帝国皇帝に与えられる称号の名でもあった[3][4]。この説はある意味ケサル王の人物造形がローマ皇帝を基にしているとも受け取れ、20世紀になってからこの叙事詩に関心を持つ西洋の学者を増やすきっかけともなったが、この説の信憑性自体については疑問視する意見も多い[5]

ゾロアスター教アヴェスターの中にゲセル (/Geser/)という伝説の王が登場するが、教典の成立はチベット語、トルコ語、モンゴル語への翻訳の数世紀前にさかのぼる。インド・イラン祖語 (およびヴェーダ語)の*/-?-/の音素は、古代ペルシア語では(母音間で)必ず/-s-/であった。そこからこの人物名の祖形はおおよそガシャル (*/Ga?ar/)となることが推定される。これはインド・ヨーロッパ祖語とは異なるところに端を発していると思われ、エラム語シュメール語から派生した可能性がある。アッカド語文献中で最も響きの近い神の名はキシャル (/Ki?ar/)である (これはアッカドのキシャルと、Bukhe Beligte (ケサルの別名)の3人の姉で、それぞれ母Naran Goohonの両脇と臍から生まれたうちのひとりとが同一人物であることを示唆する[6])。

ケサルには、リンのケサル (Gesar of gLing)、リン・ケサル (gLing Gesar)、ケサル・ノブ・タトゥル (Gesar Norbu Dradul)、さらにそれらの変種を含め、様々な呼び名がある。ケサルはチベットのムクポ・トン・キ・キュパMukpo Dong gi Gyudpa (褐色の顔の血筋)と呼ばれる部族の祖先とされている。
伝統的なチベットの見解

中国社会科学院少数民族文学研究所に所属する研究員で、ケサルについて研究している中国人学者の李連栄 (Li Lianrong、ツォンドゥ・ギャツォ Brtson-vgrus-rgya-mtsho)は、「長年にわたり、チベットの学者にとってケサルに関する記録は史実と認識されてきた。」と語っている[7]。ここ数世紀、チベットの学者たちの間ではケサルは西暦1027年生まれとの見解が主流であり、この見解は19世紀の歴史家タク・ゴンパ・クンチョク・テンパ・ラプギェBrag dgon pa dkon mchog bstan pa rab rgyasの著書『アムド宗教史Mdo smad chos vbyung』中の考察にも現れている[8]。ほかにケサルが活躍した時代を代初期 (7世紀)とする説もある。しかし李は、いまだ多くのチベット学者が叙事詩を信頼に足る歴史的資料であると考えてはいるものの、「そのような見方は変わりつつある。」と述べている[9]
近年の中国や西洋における研究

李が2001年に発表した論文『歴史とチベットのケサル叙事詩』 (History and the Tibetan Epic Gesar)には、20世紀の間、ケサルは実在人物なのか、あるいは実在人物をモデルにしたものか、その場合は誰がモデルか、この叙事詩の最初の作者は単独人物か、そうだとすればそれは誰なのか、いつごろ執筆されたものかについて、近代の学者により提出された幅広い仮説をまとめてある[10]


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