ケイリー・ハミルトンの定理
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王立協会フェローアーサー・ケイリー (1821-1895) は19世紀のブリテンを代表する純粋数学者として広く知られている。ケイリーは1848年にダブリンに赴き、ハミルトンから発見者直々に四元数の講義を受けている。のちにケイリーは、四元数に関する成果を出版する2番目となることによりハミルトンに印象付けた[1]。 ケイリーは 3次以下の行列に対して定理を証明したが、2次の場合に対してだけ証明を発表した[2][3]。一般の n次の場合についてケイリーは「……、任意次数の行列という一般の場合に定理をきちんと証明する労を引き受ける必要を覚えない。」と述べている。アイルランドの物理学・天文学・数学者ウィリアム・ローワン・ハミルトン (1805-1865) は米国科学アカデミー初の外国人会員である。幾何学をいかにして研究すべきかについては対立する位置に立ちながらも、ハミルトンは常にケイリーと最良の関係を留めていた[1]。 ハミルトンは四元数に関する線型函数に対して、それ自身が満足するある種の方程式の存在を証明した[4][5][6]

線型代数学におけるケイリー・ハミルトンの定理(ケイリー・ハミルトンのていり、: Cayley?Hamilton theorem)、またはハミルトン・ケイリーの定理とは、(実数体や複素数体などの)可換環上の正方行列固有方程式を満たすという定理である[7]アーサー・ケイリーウィリアム・ローワン・ハミルトンに因む。

n次正方行列 A に対して、In を n次単位行列とすると、A の固有多項式は p ( λ ) := det ( λ I n − A ) {\displaystyle p(\lambda ):=\det(\lambda I_{n}-A)}

で定義される[8]。ここで det は行列式を表し、λ は係数環の元(スカラー)である。引数の行列は各成分が λ の 1次式以下の多項式(1次式または定数)だから、その行列式も λ の n次モニック多項式になる。ケイリー・ハミルトンの定理の主張は、固有多項式を行列多項式と見れば A が零点であること、すなわち上記の λ を行列 A で置き換えた計算結果が零行列であること、すなわち p ( A ) = O {\displaystyle p(A)=O} の成立を述べるものである。

置き換えにおいて、λ の冪は、A の、行列の積による冪に置き換わるから、特に p(λ) の定数項は A0 すなわち単位行列の定数倍に置き換わる。

定理により、特に An は、より低次の A の多項式で表されることが分かる。係数環が体(英語版)のとき、ケイリー・ハミルトンの定理は「任意の正方行列 A の最小多項式は A の固有多項式を整除する(割り切る)」という主張に同値である。

この定理は1853年にハミルトンが初めて証明した[9](それは「非可換」環である四元数を変数とする一次函数の逆を用いたものであった[4][5][6])。これは一般の定理において、実4次または複素2次という特別の場合に当たるものである。

ケイリー・ハミルトンの定理は、四元数係数の行列に対しても成立する[10][注 1]

1858年にケイリーは 3次およびそれより小さい行列に関して定理を述べているが、証明は 2次の場合のみを著している[2]。一般の場合が初めて証明されたのは1878年でフロベニウスによる[13]

1次

1次正方行列 A = (a) に対し、その固有多項式は p(λ) ? λ − a であり、p(A) = (a) − a⋅I1 = (0) は明らかである。
2次

2次正方行列 A = ( a b c d ) {\displaystyle A={\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}}} に対しては、固有多項式は p(λ) ? λ2 − (a + d)λ + (ad − bc)

となり、ケイリー・ハミルトンの定理の述べるところによれば p ( A ) = A 2 − ( a + d ) A + ( a d − b c ) I 2 = ( 0 0 0 0 ) {\displaystyle p(A)=A^{2}-(a+d)A+(ad-bc)I_{2}={\begin{pmatrix}0&0\\0&0\end{pmatrix}}}

が成り立つはずであるが、これは実際に A2 の成分を具体的に書き出せば、確かに成り立っていることが確認できる。
短絡的な「証明」の誤りに関する注意

この定理を証明するのに、固有多項式: p ( λ ) = det ( λ I n − A ) {\displaystyle p(\lambda )=\det(\lambda I_{n}-A)} (1)

の λ を A に置き換えて p ( A ) = det ( A I n − A ) = det ( A − A ) = 0 {\displaystyle p(A)=\det(AI_{n}-A)=\det(A-A)=0} (error)

を得るとするのは、明らかに誤った論法である[14][15]

この論法が誤りである理由は、第一に、上式 error の左辺は n次正方行列、右辺はスカラーである 0 であり、(n = 1 でない限り)不合理である。

第二に、(1) の右辺の λ はスカラーだからこそ行列式として意味をもつものであり、行列式の展開の前に λ を A に置き換えると意味をなさなくなる。

様子が分かるように具体的に 2次の場合をとらえると、 p ( λ ) = 。 λ − a − b − c λ − d 。 {\displaystyle p(\lambda )={\begin{vmatrix}\lambda -a&-b\\-c&\lambda -d\end{vmatrix}}}

の λ を A = ( a b c d ) {\displaystyle A={\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}}} に置き換えても、行列式としての意味をなさなくなることが分かる。


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