線型代数学におけるケイリー・ハミルトンの定理(ケイリー・ハミルトンのていり、英: Cayley?Hamilton theorem)、またはハミルトン・ケイリーの定理とは、(実数体や複素数体などの)可換環上の正方行列は固有方程式を満たすという定理である[7]。アーサー・ケイリーとウィリアム・ローワン・ハミルトンに因む。
n次正方行列 A に対して、In を n次単位行列とすると、A の固有多項式は p ( λ ) := det ( λ I n − A ) {\displaystyle p(\lambda ):=\det(\lambda I_{n}-A)}
で定義される[8]。ここで det は行列式を表し、λ は係数環の元(スカラー)である。引数の行列は各成分が λ の 1次式以下の多項式(1次式または定数)だから、その行列式も λ の n次モニック多項式になる。ケイリー・ハミルトンの定理の主張は、固有多項式を行列多項式と見れば A が零点であること、すなわち上記の λ を行列 A で置き換えた計算結果が零行列であること、すなわち p ( A ) = O {\displaystyle p(A)=O} の成立を述べるものである。
注
置き換えにおいて、λ の冪は、A の、行列の積による冪に置き換わるから、特に p(λ) の定数項は A0 すなわち単位行列の定数倍に置き換わる。
定理により、特に An は、より低次の A の多項式で表されることが分かる。係数環が体(英語版)のとき、ケイリー・ハミルトンの定理は「任意の正方行列 A の最小多項式は A の固有多項式を整除する(割り切る)」という主張に同値である。
この定理は1853年にハミルトンが初めて証明した[9](それは「非可換」環である四元数を変数とする一次函数の逆を用いたものであった[4][5][6])。これは一般の定理において、実4次または複素2次という特別の場合に当たるものである。
ケイリー・ハミルトンの定理は、四元数係数の行列に対しても成立する[10][注 1]。
1858年にケイリーは 3次およびそれより小さい行列に関して定理を述べているが、証明は 2次の場合のみを著している[2]。一般の場合が初めて証明されたのは1878年でフロベニウスによる[13]。 1次正方行列 A = (a) に対し、その固有多項式は p(λ) ? λ − a であり、p(A) = (a) − a⋅I1 = (0) は明らかである。 2次正方行列 A = ( a b c d ) {\displaystyle A={\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}}} に対しては、固有多項式は p(λ) ? λ2 − (a + d)λ + (ad − bc) となり、ケイリー・ハミルトンの定理の述べるところによれば p ( A ) = A 2 − ( a + d ) A + ( a d − b c ) I 2 = ( 0 0 0 0 ) {\displaystyle p(A)=A^{2}-(a+d)A+(ad-bc)I_{2}={\begin{pmatrix}0&0\\0&0\end{pmatrix}}} が成り立つはずであるが、これは実際に A2 の成分を具体的に書き出せば、確かに成り立っていることが確認できる。 この定理を証明するのに、固有多項式: p ( λ ) = det ( λ I n − A ) {\displaystyle p(\lambda )=\det(\lambda I_{n}-A)} (1) の λ を A に置き換えて p ( A ) = det ( A I n − A ) = det ( A − A ) = 0 {\displaystyle p(A)=\det(AI_{n}-A)=\det(A-A)=0} (error) を得るとするのは、明らかに誤った論法である[14][15]。 この論法が誤りである理由は、第一に、上式 error の左辺は n次正方行列、右辺はスカラーである 0 であり、(n = 1 でない限り)不合理である。 第二に、(1) の右辺の λ はスカラーだからこそ行列式として意味をもつものであり、行列式の展開の前に λ を A に置き換えると意味をなさなくなる。 様子が分かるように具体的に 2次の場合をとらえると、 p ( λ ) = 。 λ − a − b − c λ − d 。 {\displaystyle p(\lambda )={\begin{vmatrix}\lambda -a&-b\\-c&\lambda -d\end{vmatrix}}} の λ を A = ( a b c d ) {\displaystyle A={\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}}} に置き換えても、行列式としての意味をなさなくなることが分かる。
例
1次
2次
短絡的な「証明」の誤りに関する注意
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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