グレート・アトラクター(英: Great Attractor)は、近傍宇宙の大規模構造の一つであり、いくつかの銀河および銀河団の特異運動からその存在が予測されている銀河間空間内の重力異常である。うみへび座・ケンタウルス座超銀河団の範囲内に位置し銀河系の数万倍の質量集中を持つと考えられている。これは、グレート・アトラクターが数億光年に渡る宇宙の領域内にある銀河とそれが属する銀河団の運動に及ぼす影響の観測から推定されたものである。
これらの銀河はすべてハッブルフローに従う赤方偏移を受けているが、これらの銀河の赤方偏移の偏差は、重力異常を観測するのに十分である。これらの赤方偏移の偏差は、特有速度 (peculiar velocity)として知られているものであり、偏角 (銀河系、グレート・アトラクター、観測される銀河に挟まれる角)に応じておよそ +700 km/s から -700 km/s までの値を取る。 1973年にヴェラ・ルービンが、最初に一様な宇宙膨張からの偏差が存在する兆候を報告する論文を発表した[1]。ルービンは1976年にも再度論文を発表している[2][3]。 その後、1987年に、David Burstein、Roger Davies、Alan Dressler、サンドラ・フェイバー、ドナルド・リンデンベル、 R.J. Terlevichおよび Gary Wegner は、連名の論文[4]において銀河系から2億光年以内の大型の銀河団はうみへび座とケンタウルス座の方向にある巨大引力源「グレート・アトラクター」に向かう共通の運動成分を持つと指摘した。 さらに、同じ著者たちによる1988年の論文[5]において、彼らがサーベイを行った400の楕円銀河について、後退速度の宇宙マイクロ波背景放射 (CMB) を基準としたハッブルフローからのずれである特有速度を分析し、これらが銀河座標 l = 307°、b = 9°、後退速度 4350±350 km/s (ハッブル定数を 71 km/s/Mpc として距離約2.0±0.16億光年)にある一点に向かって運動していると考えると、この特有速度の分布をもっとも良く回帰できることを指摘した。 また、太陽の(そしてそれを含む銀河系の)ハッブルフローに対する特有速度 570±60 km/s が全てグレート・アトラクターで説明できると仮定した場合、その質量は 5.4×1016太陽質量程度(これはおとめ座銀河団の約20倍であり超銀河団に匹敵する)になることも指摘した[6]。 なお、近年のブレント・タリー(ハワイ大学)らによる研究では、われわれの銀河系を含む局所銀河群の特有速度は約 631 km/s でおおよそケンタウルス座銀河団の方向に向かっており、これらは次の3つの運動成分の合成であるとしている。第1の成分は局所銀河群を乗せてローカルシート全体がローカル・ボイドから約 259 km/s で後退する運動である。第2の成分はおとめ座銀河団とその周辺の銀河の引力によるものであり、約 185 km/s でおとめ座銀河団の方向に向かう。第3の成分がグレート・アトラクターによるものであり、約 455 km/s で向点 グレート・アトラクターを銀河団などの観測可能な天体と同定する試みは、予測される存在位置がちょうど銀河面吸収帯(zone of avoidance ; 銀河系の星間物質が原因でその向こうにある天体の像が不鮮明になる星の領域)に当たるため、可視光での観測では困難であった。しかし、X線による観測は、宇宙のこの領域がじょうぎ座銀河団 (Norma Cluster ; 別名 ACO 3627 または Abell 3627)に支配されている事実を明らかにしている[8][注釈 1]。
発見
位置の特定