グリス
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その他の用法については「グリース (曖昧さ回避)」、「グリス (曖昧さ回避)」をご覧ください。

グリース(grease)またはグリスとは、液状潤滑油、またはその他の液状潤滑剤に増稠剤(ぞうちょうざい)が添加、均一に混合させられたものである[1]潤滑剤の一種で、よりも粘度が高く流動性が低いため常温では半固体または半流動体である。

英語一般のgreaseは粘度が高い物質を示すもので、本項で示す潤滑剤や粘度の高い整髪料などを意味する。
使用方法

グリースの用途は、主にすべり軸受転がり軸受ベアリング)、あるいは潤滑面が動くために液体潤滑剤では潤滑剤の膜が付着した状態を保つのが難しい摺動面である。

グリースは使用中に異物の混入や高温による劣化などがあるため定期的な更新が必要。平滑面では定期的な洗浄と再塗布が、転がり軸受けではグリースガンを用いて新しいグリースを注入して古いグリースを押し出す方法が一般的。
組成

グリースは基油、増稠剤、添加剤の三要素から成る[2]。いくつかのグリースには性能を向上させるためにPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が加えられている。ギア用グリースは生石灰(酸化カルシウム)を混合して鉱油で薄めたロジンと数パーセントのからなる。特殊な用途を持つグリースにはグリセリンソルビタンエステルが添加されており、低温条件などで使用される。「極圧 (EP, extra pressure)」と名づけられたグリースは高い圧力負荷がかかる場合のためのものであり、普通の物では圧縮により塗布した部品が接触して摩擦磨耗が起こってしまうようなときに用いる。極圧グリースには通常グラファイト二硫化モリブデンといった固体潤滑剤が含まれている。固体潤滑剤は金属の表面に結合し、金属面が互いに接触すること、および潤滑剤の膜が薄くなりすぎた際に摩擦・磨耗が起こることを防ぐ。
性質

潤滑剤として一般潤滑油と比較した特徴を列記する。

比較的低
速度・大荷重に適する

密封性が良い

飛散・漏洩が少ない

抵抗が大きい

放熱性・冷却性が悪い

温度や速度の条件が変わると、稠度が大きく変化する。

増稠剤は金属への高い親和性を有しているので液状潤滑油よりも金属部材への吸着性が良い。

塑性固体

グリースは非ニュートン流体の塑性流体であり、加わられる剪断応力[注釈 1]によってその粘度を変化させる[3]。これに対して液体の潤滑油はニュートン流体であり、一定の温度では剪断応力に関わらず粘度が一定である。潤滑油のようなニュートン流体の(絶対)粘度はニュートンの粘性法則比例定数(粘性係数)であり、計算者は剪断速度と掛けることによって剪断応力を導き出すことができる。このようにニュートン流体とグリースで粘度の意味合いと用途が大きく異なる。絶対粘度と区別するため、グリースのような非ニュートン流体の粘度は見かけ粘度(apparent viscosity)という。

剪断応力がない、または非常に小さいとき、グリースは固体である。流動性はない。このとき、グリース内部では増稠剤の繊維状の高分子同士は化学的な相互作用により結合している。この結合の発生を架橋(cross-linking)という。この相互作用により繊維は網目状の立体構造(網目構造、network structure)を形成している。グリース内部で基油は網目構造の間隙を満たしている。この網目構造が、微小な剪断応力範囲でグリースを固体にしている。網目構造が形成されてグリースが固体となっている状態をゲル状態といい、網目構造による高い粘性を構造粘性(structural viscosity)という。

剪断応力がある量以上となるとグリースは液体(ゾル状態)となる。この状態変化の境界、ゲル状態がゾル状態へ変化するための最低の剪断応力の大きさを降伏値(yield value)という[4]。降伏値を上回る剪断応力が加えられると、グリースの繊維間の相互作用は切断され、網目構造は崩壊する。このとき構造粘性は消失している。そしてグリースは液体のゾル状態になる。

ゾル状態では剪断応力が大きくなるほど見かけ粘度は小さくなる。この粘度低下をずり流動化(ずり減粘、shear-thinning)という。ずり流動化の原因はゾル状態では繊維は徐々に分離し方位性配列するためである。方位性配列とは、分離が進行して繊維が剪断応力の方向に並び、粘度への寄与を小さくすることである。

一方、ゾル状態で剪断応力が小さくなると見かけ粘度は増加する。この粘度増加をずり粘稠化(shear thickening)という。ずり粘稠化は繊維の方向が無秩序に戻ることに伴う。剪断応力が降伏値を下回った時、再び繊維間は架橋し、立体構造は復活する。そしてグリースはゲル状態に戻る。
揺変性

グリースのずり流動化の程度は剪断速度のみで一意に決まらず、荷重がかかる時間も関与する。例えば軸の回転速度を一定にして回転を続けたとき、軸と軸受けの間を満たすグリースの粘度は一定でない。時間経過とともに粘度は減少する。この性質を揺変性(チクソトロピー)という。揺変性は、グリースのゾル状態は時間とともに段階的に進行することに由来する。荷重の間に時間経過とともに増稠剤繊維の分離と方位性配列は進行する。
性状指標

グリースの性状と性能を客観的に文書で明示するため、様々な指標が存在する。一般的に、これら指標は性状表という文書にまとめられており、グリースの購入前に仕入れ先から閲覧することができる。
稠度
稠度(cone penetration)とはグリースの硬さや流動性の指標である。潤滑油の動粘度にあたる性能で、使用するグリースの選定は主に稠度によって決められる。日本工業規格の「JIS K 2220:2013 グリース 7 ちょう度試験方法」に測定方法が定められている[5]。同規格では、稠度を000号 - 6号の9区分に分類している。これら区分を稠度番号という。グリース製品の呼び方と表示において、稠度番号を明示することがJIS規格で定められている[5]
滴点
滴点(dropping point)とは、グリースを詰められて加熱された規定の容器からグリースが滴下する温度である。グリースはある温度以上になると構造粘度を失い、液体となる。このとき、粘度は急激に減少する。滴点はグリースが液体となる温度といえる。滴点の測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 8 滴点試験方法」で規定されている[5]。滴点はグリースの耐熱性の指標であり、滴点以上の使用は摩擦摩耗の原因となる。
銅板腐食
グリースの銅板腐食とは、そのグリースの金属腐食性の指標である。グリースの基油には硫黄窒素化合物が含まれており、高速の摩擦を受けると摩擦熱でそれぞれ硫酸硝酸になり得る。これら酸が金属を腐食させる原因となる。この試験では、研磨した規定の銅片にグリースを塗布し、銅片やグリースの腐食や変色の程度を評価する。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 9 銅板腐食試験方法」で規定されている[5]
蒸発量
グリースの蒸発量は、規定の条件でのグリースからの成分の蒸発による重量の損失分率である。グリースからは水分や軽質油分が蒸発しており、蒸発は熱や剪断により促進される。蒸発量が大きいと長期使用で潤滑性やその他性能が低下する虞がある。このため、蒸発量が小さいグリースは長期使用上望ましい。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 10 蒸発量試験方法」で規定されている[5]
離油度
離油度は、静的な状態でのグリースの構成基油の分離性の指標である。基油が分離するとグリースは硬化する。これが進行すると、グリースの潤滑性が無くなり使用できなくなったり、機械の故障や焼き付きの原因となったりする。このため、離油度はグリースの貯蔵安定性や寿命の指標となる。ただし、ある程度の基油の分離性は潤滑効果を高める[6]。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 11 離油度試験方法」で規定されている[5]
酸化安定度
グリースの酸化安定度とは、酸素圧755kPaのボンベ中にグリースを置き99℃に加熱して100時間後の酸素圧の減少量を5kPaの整数倍で表し数値である。酸化に対する強さを表す。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 12 酸化安定度試験方法」で規定されている[5]
混和安定度
混和安定度(worked stability)とは、グリースを25℃で10万回混和した後に60往復混和した直後の稠度である。混和安定度は、潤滑に長期間使用したときの稠度の寿命の指標となる。測定方法は日本工業規格において「JIS K 2220:2013 グリース 15 混和安定度試験方法」で規定されている[5]。グリースは長期間剪断を受けると、その構造が破壊されて軟化する傾向にあるという問題がある。混和安定度は長期使用での軟化の傾向の程度を示す。実際にはグリースは非常に複雑な条件で使用されていることが多く、実際の寿命と混和安定度との相関はあまりないとされる[6]。一般的に、混和安定度測定用の電動混和装置と稠度測定用(60回混和用)のそれとは異なる。


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