グアラニー語
グアラニ語、ワラニー語
avane'?
発音IPA: /a?a?????/
話される国アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、パラグアイ
話者数全体で493万9千180人[1]
言語系統トゥピ語族
グアラニー語
表記体系ラテン文字(グアラニー・アルファベット)
公的地位
公用語 パラグアイ
メルコスール
コリエンテス州(アルゼンチン)
タクール
グアラニー語(グアラニーご)またはグアラニ語(グアラニご)、ワラニー語(ワラニーご)、ガラニ語(ガラニご)[3]、Guarani、原語名: アバァニェエン[4] (Avane'?)は、トゥピ語族に属する南アメリカ先住民の言語である。パラグアイではスペイン語と共に公用語として用いられるほか、同国人口の88%がこれを解し、地方部では住民の半数がグアラニー語のみを母語としている[5]。またパラグアイに限らず、アルゼンチンのメソポタミア地方やブラジル南西部など近隣諸国の住民の間でも用いられており、ボリビアでは他の先住民言語とともに公用語のひとつとして、アルゼンチンのコリエンテス州ではスペイン語に次ぐ第二公用語に指定されている[6]。
グアラニー語はアメリカ先住民諸語としては最も話者が多い言語の一つであり、中でも唯一大きな比率で非先住民の話者を擁する。これは南北アメリカ大陸では興味深い例外である。というのは、グアラニー語を除くと、スペイン人とアメリカ先住民の混血であるメスティーソや、文化的同化の進んだ上昇指向の強いアメリカ先住民の中では、植民地言語(この場合、他の公用語であるスペイン語)への移行がほとんど全体に共通した文化およびアイデンティティの標識となっているからである。
イエズス会の宣教師で Tesoro de la lengua guarani (グアラニー語の宝)を著したアントニオ・ルイス・デ・モントーヤ(英語版)は、グアラニー語について「豊かで格調高く、最高の名声を受けるに匹敵すべき」言語であると述べている。
なお一般にグアラニー語といえばパラグアイの公用語を指すが、この言語はグアラニー諸語、もしくは方言連続体の一部であって、これらの言語群に属する姉妹語の過半も同じくグアラニー語と呼ばれていることに留意されたい。 イエズス会はインディヘナに対するローマ・カトリックの布教をグアラニー語で行い、イエズス会伝道所のような自治共同体でもグアラニー語が用いられた。また往時のパラグアイを支配していた諸々の独裁者が国境を閉ざしてしまったために、国内の文化や言語は守られる結果となった。こうしてグアラニー語は活力を保って生き延び、公用語の地位を得たのであった。 一口にグアラニー語と言っても研究者は様々な方言に分かれるとしている。たとえば、まず Rodrigues (1984/85) により形態論的・音韻論的な根拠からトゥピ・グアラニー語族下の7組の言語群のうちの最初の組を以下のように分類した[7]。
歴史
分類
古グアラニー語(Guarani Antigo)
ムブヤ語
シェテ語(Xete (Serra dos Dourados))
ニャンデバ語(Nandeva; 別名: チリパ語
カイワ語(英語版)(別名: カヨバ語 (Kayova))
パニ語 (en) (Pai))
パラグアイグアラニー語(Guarani Paraguaio)
グアヤキ語(英語版)(Guayaki)
タピエテ語(Tapiete)
チリグアノ語(Chiriguano; 別名: Ava)
イソセーニョ語(Izoceno; 別名: チャネ語 (Chane))
また Kaufman (1994) は以下のような分類を唱えた。
I. トゥピ・グアラニ語族(Tupi-Guarani family)
A. グアラニ語群(Guarani group)
1. グアラニ語(域)(Guarani language (area))
カイングワ方言(Kaingwa)
カイワ(Kaiwa、別名: カヨバ (Kayova))
パニ(Pai、別名: パニィ (Pany))
タビテラン (en) (Tavuteran)
ボリビア グアラニ方言(Bolivian Guarani)
パラグアイ グアラニ方言(Paraguayan Guarani)
ジョパラ(英語版)(Jopara)
チリパ・ニャンデバ方言(Chiripa-Nyandeva)
チリパ(Chiripa)
ニャンデバ(Nyandeva)
チリグアノ方言複合体/新生言語 (?)(Chiriguano; 同義語: アバ (Ava))
タピエテ(Tapiete (= ニャナイグア Nyanaigua))
チリグアノ・チャネ・イソセーニョ(Chiriguano-Chane-Isosenyo (= タピイ Tapyi))
ムビア グアラニ方言(英語版)(Mbu’a)
2. シェタ語(英語版)(Sheta)
3. グアヤキ語(Guajaki)
Lewis et al. (2015a, b, c, d, e, f) はグアラニー語と名のつく言語を以下の5種類に細分化している。
アバグアラニー語(Ava Guarani; 別名: チリパ語 (Chiripa、Txiripa)、ニャンデバ語 (Nandeva)[注 1]、Apytare; ISO 639-3: nhd)
アパポクバ方言(Apapocuva)
西部ボリビアグアラニー語(Western Bolivian Guarani; ISO 639-3: gnw)
東部ボリビアグアラニー語(Eastern Bolivian Guarani; 蔑称: 「チリグアノ語」 (Chiriguano); ISO 639-3: gui)
アバ方言(Ava)
イソセーニョ方言(Izoceno)
チャネ方言(Chane)
パラグアイグアラニー語(Paraguayan Guarani; ISO 639-3: gug)
ジョパラ方言(Jopara)
ムブヤグアラニー語(Mbya; ISO 639-3: gun)
Baticola方言
Tambeope方言
なお、ここまでで度々パラグアイグアラニー語の下位分類として見られるジョパラ(方言)とはスペイン語の要素が入り混じった、都市部で用いられる口語のグアラニー語である[8][9]。 グアラニー語が書き言葉として使われるようになったのは、比較的最近になってからのことである。今使われているグアラニー語アルファベットは、基本的にラテン文字に準拠しつつ、2つのダイアクリティカルマークと6つの二重字を付け加えた文字体系となっている。正書法は非常に音素論的であって[10]、個々の文字はスペイン語と似たような音価をもつ。 母音字はYを含め6字で、それぞれが鋭アクセント符号を伴って強勢を示す(A/a, E/e, I/i, O/o, U/u, Y/y)が、これら強勢のある文字素は無強勢のものと同じ文字として扱われる。また、チルダも多くの文字と併せて用いられている。例えば、N/nにチルダを付してN/nとすると、スペイン語と同様に歯茎鼻音でなく硬口蓋鼻音を表すものとして扱われ、またチルダ付きの母音字は、ポルトガル語のように鼻母音であることを示すことができる(A/a, ?/?, ?/?, O/o, ?/?, ?/?)。 グアラニー語アルファベットに特有の表記として、チルダにより鼻音化された軟口蓋子音G/g、すなわち軟口蓋鼻音であるところのG?/g?がある。これがグアラニー語に導入されたのは20世紀半ばと比較的新しく、その使用を巡っては異論もある。またこの文字はユニコードでも正規合成済みとして扱われておらず、ダイアクリティカルマーク付き文字が充分にサポートされていないコンピュータやフォントを使用する際には、写植に手間がかかったりコンピュータ上の表示が完全になされないおそれがある。Gregores & Suarez (1967:116) では言及されていない。同書の同ページにおける音素と綴り字の対応関係は#母音、#子音を参照されたい。
綴字法