クール・ブリタニア
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象徴的なユニオンジャックの衣装に身を包んだジェリ・ハリウェル

クール・ブリタニア(Cool Britannia)は、1990年代イギリス文化の盛んな様、クールな様子を表すためにメディアが使った用語である。1990年代半ばに造られ、1990年代末に流行した言葉だった。また、保守党からの政権交代を果たしたトニー・ブレア首相労働党政権(ブレアは労働党右派の政治家)やその政策と密接な関係を持っていた。1970年代後半から1980年代にかけての、サッチャーその他の政権による停滞や混乱の時代の後に来た90年代の空気を表す言葉である[1]

もともとは愛国歌『ルール・ブリタニア』("Rule, Britannia": ブリタニアよ、世界を治めよ)にかけた駄洒落であった。日本の行政機関、特に経済産業省では、「クール・ブリタニカ」と誤記されることがあった[2]
概要

1990年代前半から、若い世代による音楽、アート、ファッションなどの雑多な文化がイギリスで発生した。たとえば音楽のジャンルにおけるブリットポップテクノレイヴなど、美術の世界におけるヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)、ファッション業界におけるジョン・ガリアーノやオズワルド・ボーテング、アレキサンダー・マックイーンら若手デザイナーの世界的ブーム、そしてこれらを報じる音楽誌・カルチャー誌・ファッション誌などがそうである。

彼らは1980年代サッチャー政権下の不景気の際にはアンダーグラウンドで活動を続けていたが、1990年代に入り次々と大手メディアなどから契約や出資を得てより大きな商業的発表機会を持つようになった。

イギリスは1990年代前半以降、文化におけるスターを生んで、アメリカ文化に対しイギリスの独自性を主張するようになった。音楽ファッション出版広告デザインにとどまらず、建築美術コンピュータゲームスポーツ、そして1996年には『トレインスポッティング』の世界的ヒットにより、長年低迷していた映画業界でも若い世代が台頭し、イギリス発の表現は世界の一部に知られるようになった。

これと同じ頃、政界では1994年に41歳のトニー・ブレアが労働党党首に選ばれた。彼は「第三の道」「新しい労働党(ニュー・レイバー)」を標榜して、戦後労働党の左派路線と決別した。さらにブレアは、社会主義・社会民主主義路線から中道保守路線に変換し、さらに党綱領から産業の国有化条項を削除し、ネオ・リベラリズム/市場経済路線に転換をした。BBCの編集者、N.ディクソンはブレアのイデオロギーを、ネオ・リベラリズムとして批判している[3]。ブレアはメディア王ルパート・マードックと密接な関係を持ち、後にジョージ・W・ブッシュとともにイラク戦争に突入し、イギリスの有権者から厳しい批判を浴びることになる。

ブレアの前任の保守党メージャー政権の時代には、サッチャー政権時代のネオ・リベラリズムによる弱者切り捨て路線から、政策を修正主義に変更していた。経済は、次第に世界各国からの投資が増え、金融のみならず製造業も海外企業の進出などにより復活し、1995年頃から長年の経済低迷から脱して久々の好景気を謳歌していた。
詳細

その頃、所員のほとんどが20 - 30歳代という中道左派のシンクタンク「DEMOS」[4](Demos、社会起業家などの概念を提唱したことでも有名な組織)では、20代前半の若手研究員マーク・レナード(Mark Leonard)が、この好況を未来につなげるため、活況を呈していた音楽やファッション、文化、出版や放送などの素材をもとに、ソフト産業の起業を促進してさらに文化を活性化させ、イギリスの貧困なブランドイメージを変え産業にまで影響を及ぼそうという提案を行った。

レナードは、海外から見た老大国、老朽化、衰退、失業、曇天、退屈といったイギリスの偏見に満ちたイメージが海外からの経済投資に悪影響を与えており、イギリスで起きていた若い才能による文化の活況、サービス業の発展、多様な民族の共存といった現象がほとんど知られていないことを膨大なアンケートで裏付けた。イギリスのトレードマーク(登録商標)だった「諸外国からの頭脳流入」や「文化や政治や経済の新コンセプトの創出」を蘇らせるためには、ソフト産業をより活発にして新鮮な文化を世界中に発信し、世界のイギリスに対するイメージ、すなわちブランドを一新すべきだとの結論に達し、1997年に『登録商標ブリテン(Britain [TM]: renewing our identity)』と題するレポートを出版した[5]。これは反響を呼び、やがて政府の注目するところとなる。
クール・ブリタニアという用語

「クール・ブリタニア」という言葉は1967年ダダイスムの影響を受けモンティ・パイソンとも関係の深かった怪しげなコメディ・バンド、「ボンゾ・ドッグ・バンド(the Bonzo Dog Doo-Dah Band)」の曲のタイトルとして有名だが[6]、近年の造語やその用法とはあまり関係がない。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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