クラフトビール(英語: craft beer)とは、英語で「職人技のビール」「手作りのビール」などを意味する表現で、大手のビール会社が量産するビールと対比して用いられる概念。日本語ではクラフトビアと表現されることもある。地ビールとも呼称される。
アメリカ合衆国における「craft beer」(英語版
ブルワーズ・アソシエーションの定義は、2011年1月までは、年間生産量の上限を200万バレルとしていた。クラフト・ブルワリーとして最大規模であったサミュエル・アダムズを製造するボストン・ビール社(英語版)がこの基準を超える見込みとなったことを受けて、基準が引き上げられた[3]。この上限引き上げによって、それまでは規模の上でクラフト・ブルワリーとされていなかったイングリングが、最大のクラフト・ブルワリーということになった[4]。
クラフト・ブルワリーの製造するビールがクラフトビールということになるが、その製造にあたっては伝統的な原料、手法が尊重されながらも、併合される添加物によって様々な風味などが工夫され、多様な製品が生まれることもクラフトビールの特徴とされる[1]。
一応の定義を提示しているブルワーズ・アソシエーションだが、他方では「ブルワーズ・アソシエーションがクラフト・ビールの定義を定めていないのは、何がクラフト・ビールかは飲み手次第だと考えるからであるが、ビール醸造を主な事業としている限り、どのようなタイプのビールをクラフト・ブルワーが醸造するかで区別をするようなこともない。(Since the Brewers Association doesn’t define craft beer ? that idea remains up to the beer drinker ? the definition doesn’t differentiate on what type of beer craft brewers brew, as long as the majority of what they make is beer.)」とも述べている[5]。 ブルワーズ・アソシエーションの定義から外れるビールであっても、クラフトビールと呼ばれることもある。「クラフト風ビール」という意味で、「クラフティ・ビール (crafty beer)」という表現がなされることもある[6][7]。 大手ビール会社が、クラフトビールに準じる手法で生産しているブランドの例としては、ミラークアーズ アメリカ国内では、ビールを含むアルコール類を州外に出荷するためには当局の承認が必要になること。また、ビールの製造会社はアメリカ財務省(酒類タバコ税貿易管理局)からラベルに関する認証を得る必要があるなどの製造・流通に関する制限があり、小規模なクラフトビールの製造会社の負担は大きくなる。2018年末から2019年初頭にかけて長期間の政府閉鎖が行われた際には、一部クラフトビール製造会社が政府の認証を取れなくなり、出荷ができない状態に陥った[8]。 2018年時点で、日本にはクラフトビール・メーカーが141社ある(帝国データバンクの調査)[9]。 日本では、1994年の酒税法改正によりビールの最低製造数量基準が2,000キロリットルから60キロリットルに引き下げられ、全国各地にマイクロブルワリーに相当する小規模なビール醸造会社が登場して、「地ビール」と総称されるようになり、一時は300社以上の地ビール会社があった[10][11]。当初のブームは2003年頃には終息し、地ビール会社の数は200社ほどに落ち着いたが[10]、以降は「地ビール」に代えて、「小規模なビール醸造所でビール職人が精魂込めて造っているビール」、「品質を重視して、ビール職人が手塩にかけて造るビール」といった含意で「クラフトビール」をキーワードとし、小規模ビール生産者のビールを市場に送り出す取り組みが拡大し、ヤッホーブルーイングが2004年から取り組んだ電子商取引を中心に規模拡大に成功したことなどを契機に、新たにクラフトビール市場が成長し始めた[10]。特に2010年代に入るとクラフトビールの人気が一層高まったとされており、統計によっては10%を超える成長を見せた年もあった[12]。 日本の文脈では、「地ビール」という呼称が優勢であった初期から、これを「craft beer」と同じものと見なす用語法があり、社名やブランド名に「クラフトビール」を盛り込んだ地ビール会社も、仙南クラフトビール
クラフティ・ビール
流通
日本におけるクラフトビール・地ビール詳細は「日本の地ビール」を参照
しかし、地ビール・ブーム衰退の反省から品質重視を前面に出したクラフトビールへと転換したことを踏まえ[11]、両者の違いを強調し、地ビール・ブームと2004年以降のクラフトビール・ブームの担い手の違いが強調されることも[17]、さらに後述のように2015年ころから大手ビール会社が本格的にクラフトビール市場に参入したことを踏まえて担い手の違いが強調されることもある[18]。
アメリカ合衆国におけるブルワーズ・アソシエーションの定義は、そのままでは日本のブルワリーには当てはまらないと考えられている[3]。日本では、クラフト・ブルワリーとはみなされないオリオンビールも、ブルワーズ・アソシエーションの定義における規模の条件は満たすことになる[注 1]。また、地ビールの中には、黄桜の「京都麦酒」[19]、木内酒造の「常陸野ネストビール」など大小の日本酒メーカーが生産している例や[20]、日本酒メーカーや大手ビール会社が出資している例も、少なからずあり、事業の資本的独立が重視されているわけではない。