クラック・コカイン
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クラック・コカインの山‘rock’メチルベンゾイルエクゴニン(遊離型コカイン)の構造式

クラック・コカイン(別名クラック、ロック、英:crack cocaine)は、煙草で吸引できる状態にしたコカインの塊である。その成分は、コカイン塩酸塩(粉末コカイン)を重曹(炭酸水素ナトリウム)または水酸化ナトリウム処理し、コカイン塩酸塩からコカインを遊離させることで生成する、メチルベンゾイルエクゴニン(高純度コカイン、いわゆるフリーベース)である[1][2][3]
外観と特徴

一般的に、路上で売られているクラック・コカインには、かさ増しするために混ぜ物が入っている可能性がある。カナダのRCMP(王立カナダ騎馬警察)連邦薬物局のKent Dahlによれば、「コカインに見せかけた白色の物質がかさ増しのために混ぜられており、これらの不純物にはレバミゾールのような有毒な不純物[4]すら用いられていた」ことが報告されているという[3]

より純度が高いクラック・コカインは、ろうそくよりもわずかに密度が高く、塊を刻んだ際には縁の部分から黄色がかった白色が現れる[2]結晶型の高純度なクラック・コカインは、硬く脆いプラスチックに類似している[2] (折れるときにパキッと鳴る)。クラック・コカインは、局所麻酔薬としても作用し(コカインを参照のこと)、煙の吸引時に曝露する口腔内を麻痺させる。純度の高いクラック・コカインはまた水に沈み、炎であぶると溶解する(90℃, 194°Fにて気化)[1]
化学

製造時に鳴る音にちなんで、しばしば"crack"の愛称で呼ばれるクラック・コカインは、1984年後半?1985年の間にニューヨーク近郊の貧民街ロサンゼルスマイアミで初めて登場した[5](詳しい経緯についてはクラックブームの記事を参照のこと)。クラック・コカインを製造する操作過程でエーテルを用いる製造業者は、その操作の危険性からアンモニアの混合物からクラック・コカインの沈殿物を取り出す作業を省略するようになった(通常は濾過のプロセスも省略する)。作業を省略した結果として、混合物を蒸発させた後に得られるクラック・コカインには、塩化アンモニウム(NH4Cl)が残留する。そのため、"rock"には少量の水も含まれている。スプーン一杯の重曹とコカイン、少量の水の混合物。下から加熱し、反応物を処理することで、クラック・コカインの”rock”を作ることができる。

クラック・コカインの作成には炭酸水素ナトリウムを用いるのが基本であるが、他の弱塩基性物質でも代用可能である。なお、炭酸水素ナトリウムを用いた場合の生成反応は以下のようになる。


C o c − H + C l − + N a H C O 3 ⟶ C o c + H 2 O + C O 2 + N a C l {\displaystyle {\rm {Coc-H^{+}Cl^{-}+NaHCO_{3}\longrightarrow Coc+H_{2}O+CO_{2}+NaCl}}}


クラック・コカインは、しばしば初めからロックの状態で入手することが可能である[2]。しかしながら、一部の利用者は購入したクラック・コカインをさらに"wash up(洗浄)"したり"cook(調理)"したりする。

この操作は、スプーン上で、重曹(炭酸水素ナトリウム)と、コカイン塩酸塩を用いて、右の画像のように行う。まず、これらを混合し、加熱することで炭酸水素ナトリウムを二酸化炭素炭酸ナトリウムへと分解し、これがコカイン塩酸塩と反応することで、オイル状の遊離コカインが得られる。コカイン塩酸塩から生成したコカインアルカロイドは反応液上に浮かんでくるので、この時点でピンまたは細長い棒状のものを用いて素早く取り上げる。 集めたオイルを糸状にし、風に当てて乾燥した後に、利用者もしくは製造業者がオイルを岩状に成形して”Rock”とする。なお、この加工法により路上などで購入できるコカイン1g からクラック・コカインを0.1g 程度調製することが可能である[6]

クラック・コカインは 90℃ (194°F) 前後で気化する[1]。これはコカイン塩酸塩の気化温度である 190℃ (374°F) よりも大幅に低い[1]。そのため、コカイン塩酸塩をあぶった煙を吸引しても効果を示さない[1]のに対し、 クラック・コカインをあぶった煙ではコカインが脳血流へ急速に吸収され、わずか8秒でに達する[1]。クラック・コカインはコカイン塩酸塩よりもいっそう効果が強いと考えられている事も影響して、通常の粉末コカインを鼻から吸引する方法{"sniffing(スニッフィング)"もしくは"snorting(スノーティング)"}よりもはるかに早く、強烈な恍惚状態を得られる。
摂取方法ガラスパイプを用いたクラックの喫煙。空き缶を使用したクラックの喫煙。

クラック・コカインは、スニッフィングによる摂取が出来ないことと、クラック・コカインはコカイン塩酸塩よりも揮発性が高いことから、喫煙する形で体内に取り込むのが一般的である[7]

主な方法としては、水タバコを用いる手法[6]と、convenience store crack pipes[8]と呼ばれる、元々は小型の人工バラが入ったガラス管(通称love roses)を利用する手法がある。

水タバコを用いる手法では、まず初めにガラス瓶部分に水やラム酒を入れ、火皿の上に目の細かい金網を設置して、その網の上にクラック・コカインを載せる。このような状態で加熱を行い、クラック・コカインを気化させて生じた蒸気を一気に吸引する[6][9]


ガラス管を用いる方法では、ガラス管にクラック・コカインを直接詰め、ライターなどで直に加熱し煙の吸引を行う[8](右の画像を参照のこと)。ガラス管が無い場合の代用方法として、右の画像のように空き缶を利用して吸引する方法も存在するようである。

なお、これらの喫煙による摂取法では、体内に吸収されるクラック・コカインの量はおよそ全体のうちの6%程度でしかないという[9]。また、一度の吸引で生じる多幸感は5分から10分程度しか持続しないため、多幸感を持続させるにはすぐに次の吸引を行う必要がある[2][10]

煙の形で吸引するクラック・コカインは、スニッフィングで摂取する粉末コカインよりも吸収が早く、一気に行われるため、薬効はより激しく効果時間はより短い[1]。このため、粉末コカイン以上に頻繁な反復吸引を行うことで、結果として中毒を生じやすいとされている[6](ただし異論も存在する。詳しくは後述の中毒の項を参照のこと)。また、クラック・コカインとヘロインを混ぜ合わせ摂取するスピードボールと呼ばれる摂取方法も存在する。
作用
精神面への影響

クラック・コカインは利用者の脳に、多幸感[10]、極端な自信[11]食欲不振[10]不眠[10]、覚醒[10]、活力の増大[10]、さらなるコカインの要求[11]などを引き起こし、コカインが切れた後には譫妄をきたす[10][12]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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