クモ膜下出血
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クモ膜下出血

典型的クモ膜下出血の頭部CT画像。ペンタゴン(鞍上槽への出血)がはっきりと認められる。
概要
診療科救急医学, 神経学, 脳神経外科学
分類および外部参照情報
ICD-10I60, S06.6
ICD-9-CM430, ⇒852.0- ⇒852.1
OMIM105800
DiseasesDB12602
MedlinePlus000701
eMedicinemed/2883 neuro/357 emerg/559
MeSHD013345
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クモ膜下出血(クモまくかしゅっけつ、蜘蛛膜下出血、: Subarachnoid hemorrhage; SAH)は、ヒトの脳を覆う3層の髄膜のうち、2層目のクモ膜と3層目の軟膜の間の空間「クモ膜下腔」に出血が生じ、脳脊髄液中に血液が混入した状態をいう。脳血管障害の8%を占め、突然死の6.6%がこれに該当するといわれる[1]。50歳から60歳で好発し、男性より女性が2倍多いとされている。脳動脈瘤の破裂が主な原因で、日本では年間1万人程度の死亡原因となっている[2]
原因

多くは脳動脈瘤の破裂(約80%)によるもので、その他に脳動静脈奇形もやもや病頭部外傷脳腫瘍や脳動脈解離の破裂によるものなどがある[3][4]
脳動脈瘤の破裂

内因性のクモ膜下出血の多くを占める。脳動脈瘤は動脈の一部位が膨らみ、その血管壁が脆弱となったものである。その種類により袋型(嚢状動脈瘤)と紡錘型がある。動脈瘤の原因については「脳動脈瘤」を参照

脳動脈瘤を持つ人において、運動、怒責、興奮などによって脳への血圧が上昇すると動脈瘤の一部が破れて出血を起こす[5]。出血自体はほんの数秒であるが血液は急速にクモ膜下腔全体に浸透し、頭蓋内圧亢進症状や髄膜刺激症状を起こす。

また、脳を栄養すべき血流が出血へと流れてしまうことにより、一過性の脳虚血を起こす。後述のHunt and Hess分類は、その虚血の重篤度を表すものであるとも考えられる。意識消失はごく短時間の大きな虚血によるものであり、心肺停止は数秒以上の全脳虚血によって迷走神経優位(迷走神経反射)による洞停止と推定されるからである。
脳動静脈奇形の破裂

脳動静脈奇形は脳の動脈と静脈が先天的にシャントを形成している奇形で、脆弱な静脈壁に大きな血圧がかかることから出血を起こしやすい。若年性のクモ膜下出血では最も多い原因である。詳細は「脳動静脈奇形」を参照
外傷による出血

脳は脊髄液の中に浮いた状態で存在しており、脳全体の比重は脳脊髄液よりわずかに重い。このため、頭部に衝撃を受けると脳は頭蓋内で力の作用点に対して寄る形で移動する。この時、作用点の反対側では脳と硬膜を結ぶ静脈が切れて出血する。
リスク因子

喫煙高血圧[6]アルコール多飲[7]などがリスク因子として存在する。隔世遺伝性の病気であり、祖父母の代で発症した者がいる場合は発症する確率が上がる。
症状

突然始まる、強い持続性の頭痛が主たる症状である。

嘔吐を伴うこともある。頭痛は「金属バット、ハンマーで殴られたような」などと表現される。少量の出血(マイナーリーク)の場合は、頭痛はそれほど強くないことが多い。頭痛の発症は「突然」起こることが特徴である。この頭痛は数時間で消失することはなく、数日間持続する。その他の神経症状がないことも珍しくなく、脳内血腫を伴わなければ片麻痺失語などの脳局所症状はみられない。なお、出血が高度であれば意識障害をきたし頭痛を訴えることはできない。神経症状として髄膜刺激症状が認められることが多い。

中枢症状

激しい頭痛

悪心・嘔吐

神経原性肺水腫


身体所見

髄膜刺激症状

項部硬直(首の硬直): 首の屈曲テスト (neck flexion test) で判断。自発的に頸部を前屈させ、下顎が胸まで十分に近接するようであれば正常。前屈が困難であれば異常。

ケルニッヒ徴候 (Kernig's sign)

ブルジンスキー徴候


頭部を振った際の頭痛増悪 (jolt accentuation of headache) : 子どもが「イヤイヤ」をするように、素早く頭部を左右に振り、頭痛が増悪するようであれば異常。2-3回/秒の早さで頭を水平方向に回してみて、頭痛が増悪すれば陽性とする[8]


検査所見

多様な心電図変化が見られることが知られている[9]

重症度の分類として「ハントとヘスの重症度分類 (Hunt and Hess scale '74) 」を用いる。グレード5では呼吸停止や心停止を来たすこともある。これは一過性の全脳虚血や頭蓋内圧の著明な亢進を示唆しており[10][11]、この場合の予後は極めて悪い。

グレード
(Grade)症状
グレード0
(Grade 0)非破裂動脈瘤
グレード1
(Grade 1)無症状、または軽度の頭痛と項部硬直
グレード1a
(Grade 1a)急性の髄膜刺激症状はないが神経脱落症状が固定
グレード2
(Grade 2)中等度以上の頭痛、項部硬直はあるが脳神経麻痺以外の神経脱落症状はない
グレード3
(Grade 3)傾眠、錯乱、または軽度の神経脱落症状、意識障害
グレード4
(Grade 4)昏迷、中等度の片麻痺、除脳硬直のはじまり、自律神経障害
グレード5
(Grade 5)深昏睡、除脳硬直、瀕死状態

脳動脈瘤の破裂によるクモ膜下出血の場合は部位によって代表的な神経症状が知られており、以下にそれをまとめる。

破裂部位神経症状
内頸動脈-後交通動脈分枝部一側の動眼神経麻痺
前交通動脈一側または両側下肢の一過性麻痺、精神症状、無動性無言、無為
中大脳動脈片麻痺、失語
眼動脈起始部の内頸動脈瘤一側の失明や視力障害
海綿静脈洞部の内頸動脈瘤目の奥の痛み
脳底および椎骨動脈瘤動眼、外転、滑車、三叉神経障害、下部脳幹神経障害

診断ペンタゴン・レベルでのCT画像を模式化した絵。上が正常、下がクモ膜下出血の場合。中心付近にある周囲の脳組織よりも明るい影が血腫である。
頭部CTスキャン

頭部のコンピュータ断層撮影(CT)においてクモ膜下腔に高吸収領域が見られる。特に内因性のものである場合はペンタゴン・レベルで中心付近に高吸収領域が見られるが、外傷性のものでも見られることがある。また、頭痛が軽いなどのためにCTを行わず、初診時に風邪、高血圧、片頭痛として見逃される例が日本国内で5-8%程度あるとの調査もなされている(海外では12%などの結果が出ている)[12]

最も有名なクモ膜下出血のCT所見に、ペンタゴンといわれる鞍上槽への出血が知られている。これは頭蓋内内頸動脈動脈瘤破裂の場合によく認められるもので、それ以外の動脈瘤破裂によるクモ膜下出血ではこのような画像にはならない。また破裂動脈瘤の30%ほどに脳内出血を合併するといわれている。脳動脈瘤の好発部位としては前交通動脈(Acom)、中大脳動脈の最初の分枝部、内頸動脈-後交通動脈(IC-PC)とされている。前交通動脈瘤では前頭葉下内側および透明中隔に、IC-PCでは側頭葉に、中大脳動脈瘤では外包および側頭葉、前大脳動脈遠位部動脈瘤では脳梁から帯状回に脳内血腫を形成する。高血圧性の脳内出血と明らかに分布が異なるほか、原則として近傍にクモ膜下出血を伴っている。亜急性細菌性心内膜炎絨毛癌などでは動脈瘤を合併し、クモ膜下出血、脳内出血を合併することが知られている。以下に出血部位から責任動脈瘤を推定する方法をまとめる。

破裂部位出血の広がり
前交通動脈大脳縦裂前部、交叉槽、脚間槽などからシルビウス裂まで左右対称的に存在、透明中隔腔内の血腫が特徴的である。
中大脳動脈同側のシルビウス裂を中心に存在する


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