クモ下目
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クモ下目
ニワオニグモ Araneus diadematus(コガネグモ科
分類

:動物界 Animalia
:節足動物門 Arthropoda
:クモガタ綱 Arachnida
:クモ目 Araneae
亜目:クモ亜目 Opisthothelae
下目:クモ下目 Araneomorphae

学名
Araneomorphae Smith, 1902[1]
和名
クモ下目[2]
新蛛下目[3]

本文参照

クモ下目 (クモかもく) Araneomorphae は、クモ目の下位分類群の一つ。いわゆる普通のクモ類、フツウクモ類は全てここに含まれる。なお、クモ目、クモ亜目と同様、この群の名も回文になっている。別名新蛛下目ともいう。
概観

クモ目は古くから大きく3群に分けられた[4]。現在ではそれらはハラフシグモ亜目クモ亜目トタテグモ下目、クモ下目の名で呼ばれる。そのうちハラフシグモ亜目のものはごく少数の原始的特徴を備えたもののみ、トタテグモ下目のものはほとんどが地中性の限られた種群であり、通常目にするクモのほぼ全てはクモ下目に含まれる。様々な網を張るものも、歩き回って獲物を狙うものも、そのほとんど全部がこの群に所属し、クモ目の適応放散の大部分はこの群の中で起こった。それらの大部分はを出す能力に優れ、それを使ってを張って獲物を捕らえ、あるいは網を張らなくとも生活の様々な面で糸を利用する。特徴や生態などの大部分はクモ目の記事と重複するので、主要な点はそちらを参照されたい。ここではこの群を区別して記述する必要のある部分のみを挙げる。

なお、クモ目やクモ亜目などと同じ名前で、実際にはより範囲の狭いものを対象にしていることを示す意味でフツウクモ類というような表現をとる場合もある。ブルネッタ、クレイグ/三井訳(2013)では文章中ではこの語を用いているが、巻末の用語解説ではこの語について『クモ下目に属する』ものを指す、としており、分類群名としては用いていないことを表明している[5]
特徴チリグモの腹面
前方左右の白い部分が書肺
書肺の間に外雌器
後端に糸疣・その最初の対の間に篩板

この群をクモ目の他群と区別する特徴には以下のようなものがある。
上顎

本群のクモでは上顎鋏角)は左右に動き、その先の節である牙は内側にあって水平方向に動く。他の2群では上顎は垂直方向に動き、顎は先端の下側から出ており、前後方向に動く[6]

また上顎にある毒腺は他の2群では上顎の内部に収まっているが、本群のクモでは上顎の内部に収まらず、頭胸部にまで達する[7]

トタテグモ亜目では上顎は上下に動き、牙は前後に動く。
Sphodros rufipes(ジグモ科)

クモ下目では上顎は左右に、牙は内側で前後に動く。
Tetragnatha montana(アシナガグモ科)

呼吸器官

本群では書肺は1対のみが普通である。他群では2対であるが、この類ではそのうちの前方の対のみが残り、後方のものは気管気門に変わっている[6]。気管は昆虫などのそれとは発生的に異なるもので、書肺が変化したもので篩状気管と呼ばれ、気門は前対の書肺と糸疣の間にあって左右1対並ぶか、あるいは左右が合わさって気管前室を作り、気門は1つだけとなっている[8]。小型の種では書肺がなくなり気管のみを持つ例(ユアギグモ科など)も知られる[8]。ごく一部に2対の書肺を持つものが知られ、それらはこの群の中でもっとも原始的な形質を残すものと考えられ、『生きた化石』と言われることもある[9]
糸疣

糸を出す器官である糸疣はこの群での標準では腹部下面の後端近くに3対ある。これはハラフシグモ亜目で前後2列にそれぞれ内疣と外疣の対があって計8対であるうち、前内疣が退化した形である[10]。発生的に見ると、クモ下目のものでも胚の段階では前内疣は存在するが、次第に左右の前内疣が癒合し、そのまま残るか、あるいは退化消失する[11]。従って本群の標準的なものでは前外疣、後内疣、後外疣がそれぞれ2個ずつとなるが、これをそれぞれ前疣、中疣、後疣と呼ぶ[10]。また個々の糸疣には節があるが、ハラフシグモ亜目のものでは多数あり、トタテグモ下目では3?4節、クモ下目では1?2節のみとなっている[12]

退化した前内疣に当たるものは一部の群では平板型の篩板となって特殊な糸管が並ぶが、より退化した形で残る場合もあり、一部の群ではその位置に小突起だけが残り、これを間疣という[10]。間疣には糸腺はない[12]

糸疣には多くの糸管が並び、体内には複数種の糸腺を持ち、その種数は少ない群でも、3?4種あり、多いものでは7種に分化している[13]。この糸腺はハラフシグモ亜目のものでは1種しかなく、トタテグモ下目のものでは若干の分化が見られるが糸腺があるのは後外疣に限られる[14]

大まかに言えばクモ下目の糸疣は他の二群に比べて外形ではごくコンパクトになっているが、糸を出す器官としては大幅にその機能を向上させている。

なお、糸疣の配置は多くのものでは腹部後端の下面中央に集まっているが、ハタケグモ科では横並びにほぼ1列をなし、またナガイボグモ科では後疣が長く伸びて腹部後端から突き出し、また個々の糸疣は円錐形に近いのが普通であるがワシグモ科では円柱形のものが見られるなど独特の形を取る例もある。
生殖器官

クモは真の交尾を行わず、雄は生殖孔から出した精子を通常は精網と呼ばれる糸で出来た小さな容器に出し、これを触肢の先端に取り、これを雌の生殖孔に注入する、という形を取る[15]。そのために雄成体の触肢には触肢器官と呼ばれる精子を蓄え、それを注入するための構造が発達し、雌成体ではこの注入のための構造を受け入れる雌性生殖器と呼ばれる構造が出来る。

雄の触肢器官はその主要部分を生殖球と呼び、その内部には容精体と呼ばれる精子を貯蔵する構造があり、その周囲には精子を送り出すための構造などが付随する[16]。送り出された精子は栓子(移精針)と呼ばれる突起の先端から雌の生殖孔に送り込まれる。またその周囲には様々な瘤や溝などが発達し、これは雌の外性器とも対応して分類学的にも重要な特徴とされる。ハラフシグモ亜目のものでは触肢器官はそのものは主要部分を残して単純化しており、その周囲の突起などが特殊な形で発達している。それに対し、トタテグモ下目ではその構造が比較的単純で、普通の触肢の先端にスポイトのような触肢器官本体が着いているような外見となる。このような構造はクモ下目のものの一部でも見られるが、多くのものではそれらを覆う楯板などの構造が発達する。

雌の生殖器は腹部下面の前の方にあるが、ハラフシグモ亜目、トタテグモ下目ではその部分に押すの栓子を挿入し、また卵の出てくる生殖孔があり、外部には複雑な構造はない[17]。それに対して本群ではトタテグモ下目と同様な構造のものもあるが、多くのものでは栓子の挿入される挿入口と別に産卵口が形成され、その外側にキチン質化した複雑な構造である外雌器が形成される。
その他

触肢は4対の歩脚の前にある附属肢であり、6節からなっており、4対の歩脚より1節少ない[18]。この構造はクモ目の進化の過程で短小化する傾向があり、ハラフシグモ亜目ではほぼ第1脚と同等の大きさと形をしており、トタテグモ下目では歩脚とほぼ同等のものから遙かに短く細くなっているものまでがあり、本群ではほとんどが歩脚より細く短いものとなっており、一部では雌の触肢が退化したものがある(ユアギグモ科など)。

歩脚4対は前の2対が前を、後ろの2対が後ろを向くのが標準で、これを前行性といい、ハラフシグモ亜目、トタテグモ下目ではほぼそうなっており、本群でも多くがそうであるが、全ての歩脚が横に伸びるのを横行性といい、カニグモ科アシダカグモ科などに見られる[19]

眼は基本的には8個で、この点はクモ目全体で共通しており、その配列はハラフシグモ亜目、トタテグモ下目では頭部の中央に集まっている例が多いが、本群ではそのようなものから頭部の幅いっぱいにまで広がって配置しているものまである。多くのものでは前後2列に各4眼が並び、外側のものを側眼、内側のものを中眼といい、これに前後の位置を加えて前側眼、後中眼などと呼ぶ。眼の配置は分類の様々な段階で重視され、たとえばユウレイグモ科では8個のうち6個が左右に3個ずつ纏まって配置し、ササグモ科では眼が円環状に配置する。

4眼が前後2列に配置する例
ニワオニグモ(コガネグモ科

両側に3個ずつ集まり、中央に2個が孤立して配置している例
イエユウレイグモ(ユウレイグモ科

8眼が円環状に配置している例
Oxyopes salticus(ササグモ科

腹部はハラフシグモ亜目、トタテグモ下目では楕円形の袋状で、これは本群でもほとんどがそうであるが、アシナガグモ属メダマグモ科のように細長くなったもの、オニグモ類のように倒三角形で前方背面の両側に肩状突起を持つものなどもあり、トゲグモ属では表面が硬くなって両側に角状突起が突き出し、あるいはイソウロウグモ類のように腹部後端が斜め後方に突き出し、それが極端に長く伸びて紐状になったオナガグモなど、遙かに多様な形が見られる。


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