世界初のクォーツ式腕時計、セイコーのアストロン(1969年)。1969年のアストロンのムーブメント。これには8,192 Hz で作動するクォーツ振動子とハイブリッドICが組み込まれている。(ドイツの時計博物館の展示品)
現在の電波腕時計Citizen Attesa Eco-Drive ATV53-3023。クォーツ時計自体の誤差は +-15 秒/月だが、世界4箇所(北米、日本、中国、欧州)から送信される電波を自動受信しその誤差を修正する。
クォーツ時計(クォーツどけい、英: quartz clock/watch)とは、水晶振動子を用いた時計である。水晶時計または単にクォーツとも。 20世紀後半から普及し、それまでのぜんまいばねを使用した手巻時計や自動巻時計に代わって、現在最も一般的な時計となっている。ぜんまいばねに代わる駆動としてステップモーターを使用しており、電源が必要なため電池が内蔵されている。従来のぜんまいばね式時計のデザインを踏襲したアナログ時計のほか、同じく電源が必要な液晶やLEDを時刻表示部に採用し数字で時刻表示したデジタル時計がある。 水晶は圧電体の一種であり、交流電圧をかけると一定の周期で規則的に振動する。クォーツ時計ではこれを応用し、通常は32,768Hz(=215Hz)の電気信号を水晶振動子によって発振し、それを分周(周波数を半分にする)を繰り返して1ヘルツの周波数の信号に変換し、それで電磁石を駆動して針を駆動する。このため、針式では1秒毎のステップ運針となる。デジタル時計の場合は1ヘルツの信号でカウンターを繰り上げ動作させてその結果を表示する。 一般的なクォーツ時計の誤差は1ヶ月で15 - 30秒程度であり、特に精度の高いモデルでは1年で数秒程度となっている。1ヶ月当たりの誤差を月差、1年当たりの誤差を年差と呼ぶ。周波数の誤差はトリマーと呼ばれるコンデンサで調節する。温度による周波数変化については特定の温度特性をもつコンデンサと組み合わせることや、温度特性が異なる複数の水晶振動子を使いる誤差を補正する製品が有った。現在では複雑な精度の向上機能は電波時計やGPS機能へ移行したために特に進歩は見られない。 クォーツ時計より精度が高いと言われる電波時計やGPS時計は実質的には、電波に載せられた原子時計による正確な時刻情報を1日に数回受信して時刻を修正する機能を追加したクォーツ時計の一種である。 クォーツ時計は従来の機械式時計に比べ、精度が高く維持管理が簡単といったメリットがあるが、多くが一次電池使用なので定期的に電池交換が必要である。このため、太陽電池により充電が可能な2次電池を充電することで電池交換不要とした製品が増えているが、それでも2次電池の寿命が10年程度であり交換が必要になってくる場合がある。クォーツ式アナログ時計に関しては、クォーツ使用であっても物理的な運針機構があるため長期使用で分解掃除が必要となる場合がある。 電子部品が細かく複雑に配置されているため、故障の修理は困難で、多くの場合はムーブメントごと交換することになる。ただし、交換可能なムーブメントの在庫がない場合は修理不可能になる恐れがある。
概要
歴史(左の写真)1930年代にスイスで作成された比較的初期のクォーツ時計。(右の写真)さらに古い1900年代初頭の精密時計で当時は世界標準時計として使われたもの(ラ・ショー=ド=フォンInternational Watchmaking Museum所蔵。)ヨーロッパの最初のコンシューマ向け置き時計「アストロクロン Astrochron」Junghans社製(1967年)
一方、日本においては、1932年に従来型より温度係数がはるかに小さい(10-7/℃を達成した)Rカット式水晶振動子が古賀逸策によって発明された[5]。またセイコーは早くからクォーツ時計に注目しており、1958年からクォーツ時計の開発に取り組み[6]、1964年の東京オリンピックでは壁掛け時計並のサイズ(縦20cm×横16cm、厚さ7cm、運搬用のケースを含めた総重量がわずか3kg)まで小型化した時計を大会公式時計として提供[7]、実用に耐える技術水準を達成した。その後クォーツ時計は、価格は高価だったものの船舶用など、特殊分野向けの市販製品として販売された。
1967年、世界初のアナログ回路を用いたクォーツ腕時計のプロトタイプが登場した、スイスのCentre Electronique Horloger(CEH)によるBeta 1[6][8]、および日本のセイコーによるアストロンのプロトタイプである[6]。
しかしながら、超小型化と強い対衝撃性が求められる腕時計ではクォーツの実用化は難航した。世界初の市販クォーツ腕時計は1969年のセイコーによる「アストロン」であった[9][10]。当時の価格は45万円と、中型乗用車並みの価格[11]であったが、その後急速なコストダウンが進んだ。
1970年代にはセイコーが特許を公開したことで各メーカーがクォーツ時計の製造に参入し、市場を席巻してクォーツショックと呼ばれる現象を引き起こした。この時期はクォーツ時計の低価格化が進んだ一方、スイスをはじめとする欧米の時計メーカーは機械式の腕時計が売れなくなったことで大打撃を受け、特にアメリカ合衆国の時計産業はほぼ全滅状態に陥った[要出典](クォーツ危機(英語版)とも呼ばれる)。
1980年代までに、クォーツ時計の技術はキッチンタイマーや目覚まし時計、銀行の金庫の時限錠にまで応用されていった。
技術革新と各社間の競争により、現在では安価なクォーツ時計は100円ショップでも買えるぐらい安くなった。またクォーツショックのあと機械式腕時計(ぜんまいばね使用)が見直され、ブームが訪れている。
電波時計としてのクォーツ時計が普及した。
近年スマートフォンの普及とともにその内部に内蔵される電波時計としての役割を増していった。
従来、時計は精度が高いほど高性能であり高価であったが、一般的なクォーツ時計と機械式時計を比べるとクォーツ時計の月差と機械式時計の日差が同程度であり、完全に逆転している。本来は当然高精度のほうが良いが、近年は電波時計を搭載されたスマートフォンの普及により容易に正確な時刻を知ることができ、時計の携帯の必要が薄れつつある。そのため高価でも誤差が大きいと言える機械式時計において、こだわりを持って伝統的な意匠やメカニズム、ものづくりの思想を楽しむといった傾向が続いている。その一方で「クォーツ時計は安物の代名詞」とまで言われるようになってしまったが、実用時計としてのクォーツ時計の高コストパフォーマンスはゆるぎない。「時計の歴史」も参照
ギャラリー
クォーツ式置き時計や掛け時計のムーブメント
クォーツ式置き時計
クォーツ式掛け時計
クォーツ式腕時計
脚注^ Marrison, W.A.; J.W. Horton (February 1928). “Precision determination of frequency”. I.R.E. Proc. 16 (2): 137?154. doi:10.1109/JRPROC.1928.221372.