キルケー
Κ?ρκη
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの1891年の絵画『オデュッセウスに杯を差し出すキルケ』。オールダム・ギャラリー
ヘーリオス
アイエーテース ペルセース
ヘカテー
キルケー メーデイア アイギアレウス
キルケー(古希: Κ?ρκη, Kirk?, ラテン語: Circe)は、ギリシア神話に登場する魔女(ニュンペー)である。その名前は古典ギリシア語で「鷹」を意味する。日本語では長母音を省略してキルケとも表記される。
キルケーは主にホメーロスの叙事詩『オデュッセイアー』やアルゴー船の冒険、海神グラウコスとスキュラの恋物語に登場する。太陽神ヘーリオスの血を引き、伝説的なアイアイエー島に住み[1]、薬草学と薬学について膨大な知識を持っている彼女は[2]、キュケオーンと呼ばれる調合飲料や、毒、軟膏、杖、呪文を用いて魔法を使い、人を動物に変身させ、自在に操って家畜とし[3]、あるいは怪物に変えて破滅させる[4]。ホメーロスは彼女を《秘薬を使う魔女[5]》と呼ぶとともに《恐るべき女神[6]》《髪麗しい女神[7]》など女神と頻繁に呼んでいる。本来は月の女神ないし、愛の(不真面目な)女神でイシュタルに相当する存在だったと考えられている[8]。 ホメーロスやヘーシオドスといった最も古い伝承では、彼女を太陽神ヘーリオスと海の女神ペルセーイス(ホメーロスではペルセー)の娘で、コルキス王アイエーテースの兄弟としている[9][10][11]。アポロドーロスはこれに加えてペルセース[12] とパーシパエーの2人の兄弟がいるとする[11]。 シケリアのディオドーロスの説はヘーリオスの子孫とすることに変化はないが少々異なっている。ヘーリオスの子であるタウリケー王ペルセースに娘ヘカテーがおり、彼女と伯父アイエーテースとの間に生まれた娘がキルケーであり、メーデイア、アイギアレウスと兄弟であるとしている[13]。 子供についてはイタケー島の王でありトロイア戦争で活躍した英雄オデュッセウスとの間にアグリオス、ラティーノス[14]、テーレゴノス[15][16][17][18][注釈 1]、ナウシトオスを生んだと伝えられている[18]。その他に娘カッシポネー、アンティウムとアルデアを創建したアンティアースとアルデアースなる子供がいたとする説もある[22]。散逸した叙事詩『テーレゴネイア』によるとキルケーはオデュッセウスの子テーレマコスと結婚し、さらに後代の説によると2人の間にラティーノス[23] あるいは娘ローメー(ローマの名祖)を生んだという[24]。 キルケーは変身の魔法を使うことで知られる。島を訪れた異国の客を饗応するとき、飲物に故郷のことを忘れさせる薬を混入し、客が飲み終わるのを見計らって彼らを杖で打つ。すると彼らは動物に変身するだけでなく、大人しい性格になり、あるいはキルケーに命じられたとおりに行動する[25]。キルケーの館の周囲にはこのようにして動物に変えられた人間が数多くおり、どんなに体が大きく獰猛な獣であっても人間を襲うことはなく、まるで飼い犬のように親しげについて回る[26]。またキルケーは彼らの身体に軟膏を塗ることで、動物の体毛を取り除き、人間の姿に戻してやることが出来た[27]。それだけでなく、元の人間よりも美しい姿にすることが出来た[28]。一方、オウィディウスは薬草の汁を振りかけて、杖を逆に持って打ち、呪文を唱えることで元に戻したとする[4]。 ロドスのアポローニオスは、キルケーの後に従って歩く動物たちの奇妙な姿について語っている。彼らはみな様々な動物の体の部位を合成した姿をしており、それは乾いた大気によって固くなる以前の原初の大地が生み出した動物たちの姿であるという[29]。 しかし、ホメーロスは狭い家畜小屋に閉じ込められた者たちは人間の心が残っているために泣き叫ぶとも語っている[30]。
系譜
キルケーの魔法
変身の魔法と動物たちドッソ・ドッシの1514年から1516年頃の絵画『風景の中のキルケと恋人たち』。ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵。