キュー_(ビリヤード)
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ポケットキュー

キュー(Cue)は、ビリヤードにおいてプレーヤーが手球を撞くために用いられる棒状の用具のことである。
概要

ビリヤードのプレーにおいて、球を撞く棒状の道具をキュー・スティック(cue stick)、省略してキュー(cue)と呼ぶ。プレーヤーが手球の狙った点を撞きやすいように、大雑把な形状としては先になればなるほど細くなっており、手元の柄に近い部分ほど太くなっている。またキューは大抵の場合、持ち運びができるよう真ん中から2本に分かれるようになっていて、真ん中から先の部分をシャフト、柄の部分をバットと呼び、継ぎ目の部分をジョイントと呼ぶ。分割できないワンピースのキューもある。

キューは長さ54?58インチ(約137?147センチメートル)、重さ16?23オンス(約450?650グラム)程度のものが用いられ[1][2]、プレーヤーは自分の身長に適した長さのものを使用することが好ましいとされている。しかし、市販品では多様な長さのキューが取り揃えられているとはいえない。また、競技や種目、特定のショットによって、長さや重さが異なったものを使用する場合もある。

ビリヤードの競技大会などへ出場する場合、ルールによりキューの長さや重さなど制限が課される場合がある。例えばポケットビリヤードの場合、BCA(Billiard Congress of America)や日本ビリヤード協会のルールではキューの長さが40インチ(約101センチメートル)以上のものを利用しなければならず、重さは25オンス(708.7グラム、日本ビリヤード協会)以下、ティップの直径が14mm以下(日本ビリヤード協会)という規定がなされている[3]

またキューはメーカーごとに様々な装飾が施されたものが作製されており、これらを蒐集するコレクターもいる。
キューの種類について
なぜ競技によってキューが違うのか

キューはそれぞれの競技のボールの大きさ(重さ)に対して最適化されている。キューの太さはキャロム、ポケット、スヌーカーの順に細くなる。重いボールを撞くキャロム競技では、パワーのロスが少ない等の理由で太いキューを用いることが一般的である。原則的には各々の競技に最適化されたキューを用いてプレーするのが望ましいが、キューが本来の目的とする競技と異なる競技をプレーすることは不可能ではない。例として、日本のポケットビリヤードのトッププロだった奥村健は2008年にキャロム競技のプロ選手へ転向したが、ポケット競技から引退する数年前よりポケットビリヤードの大会においてキャロムキューで出場し、全日本選手権で優勝した。類例として日本スヌーカー連盟(JSA)の開催するトーナメントなどはポケット競技用のキューで参加することも認められている[4]。但し、太いキューで小さいボールを撞こうとしても、物理的にあまり下を突くことができないためドローショットに制約が生じる等の様々なデメリットもある。スヌーカーキューは他と異なり先角に金属を使用しているため、ショットの衝撃がシャフトに直接伝わり木部を痛めてしまう可能性があるので他の競技での使用は推奨されていない。
ポケットキュー

ポケット競技には次の3種類のキューが用いられる。また、ポケットキューは狭義ではプレーキューを指す。
プレーキュー
ポケット競技においてプレーの多くに用いられるキュー。ポケットビリヤードの別名がプール(pool)であることから、プールキューとも呼ばれる。長さは約1m50cm、18?21
オンス(約540?630g)程度。

キューの重さはオンスで表記され、主流の18?19オンスは約510グラム?約538グラムとなる。
ナインボールのように手球を大きく動かす種目には重いキューが適しており、14-1やワンポケットのような短距離で手球を動かし正確にポジションすることを要求される種目には軽いキューが向くといわれる。[5]後述のスヌーカーキューで用いられるようなエクステンションを用意し試合で使用するプレーヤーもいる。
ブレイクキュー(Break cue)
ナインボールエイトボールなどで行うブレイクショットで利用するためのキュー。ブレイクショットで的球をポケットすることが求められる競技ではパワーに特化したフォームで強烈なショットをするのが一般的である。ブレイクは通常のショットに比べ非常に大きな力が加わり、キューやティップへのダメージも大きく破損の可能性が高くなるので、ティップやシャフトの損傷を防ぐために、ブレイクに予め用意しておいたブレイク専用のキューを用いる。市販されているキューがプレーキューのみだった頃は、それらをブレイク専用に調整して用いる者が多かったが、1990年代以降からブレイク専用のキューが多数流通するようになった。これらは一般に装飾がなされないためプレーキューより安価である。
ジャンプキュー(Jump cue、Jump stick)
手球をジャンプさせて障害となるボールを飛び越して的球を狙うジャンプショットのためのキュー。ジャンプショットとは、キューを40?50度程度の角度をつけて撞きおろしその反発によって手球をジャンプさせるショットであるが、キューを立てて撞き下ろす必要があることから通常とは異なったフォームを取る必要がある。そのためジャンプキューはその独特なフォームを作りやすくするために通常のプレーキューよりも短く作られている。ジャンプキューはプレーキューとほぼ同じ長さのシャフトに短いバットを備えるものが多いが、まれに長いバットと短いシャフトという組み合わせのキューもある。シャフトが太いものが多いが、ドクター・ポッパーのようにシャフトがパイプで、径が12.7mm程度しかないものも存在する。通常は順手で握るストロークで使用するノーマルストロークが、障害物が手球から近い場合等に手球を高くジャンプさせる場合はダーツを投げるように握ってショットする。これをダーツストロークと呼ぶ。身長の高くない者でもジャンプをさせやすいフォームであるが、ダーツストロークで正確な方向にジャンプさせるためには訓練が必要である。ジャンプショットについての詳細はビリヤード#ポケット・ビリヤードを参照。
その他

ジャンプブレイクキュー(Jump break cue)
ブレイクキューのバットの一部を分離して短くするとジャンプキューにもなるものをこう呼ぶ。JumpとBreakの頭文字をとりJBキュー等と略されることもある。1本のキューで二役すなわち2本のシャフトと長短2本のバットの役目をこなすことができ、低コストかつ嵩張らないという利点がある。多くのメーカーから発売されているが、一部のプレーヤー及びメーカーは、ブレイクキューとジャンプキューではシャフトやティップの特性、バットとシャフトの適正な重量バランスが異なるため、それぞれの専用品と比較し十分な性能を期待できないとしてこれらのキューに否定的である。
トレーニングキュー
一般的に利用するプレーキューより重量を増してあり、野球のマスコットバットのように筋力強化などを目的としている。重さは26?29オンス程度。キューのバランスも考慮されており、実際のプレーにも使用できるように各部は通常のキュー同様の作りになっているが、前述の通り試合等では重量のレギュレーション違反となって使用できないこともある。
キャロムキュー(Carom cue)

スリークッションに代表されるキャロム競技に用いられる。ボールが大きいため、太くて重量のあるキューが好まれる。ただし、ボールに対して細かい撞点の使い分けが容易なように先端が急速に細くなっているものが多い(キャロムテーパー)。通常のスリークッション等の通常の競技は1本のキューで行うが、アーティスティック・ビリヤードにおいてはマッセショット等のために短いキューを別に用意して用いることもある。
スヌーカーキュー

スヌーカー競技用のキュー。通常は1本のキューのみを使って競技が行われる。シャフトが細く、軽量であることが最大の特徴である。シャフトの素材にはポケットやキャロムで一般的なメイプルよりもアッシュが使用されることが多く、このため硬い打球感がある。また、分割部がよりバットエンド寄りの3/4キュー(俗にスリークォーターと呼ぶ)や接続部分が存在しないワンピースキューといった、他競技のキューと異なり中央で2分割可能なセンタージョイントを採用しないキューを使うプレーヤーの割合が高い。テーブルがポケット競技より大きいため、通常のキュー及びフォームでは撞けない遠くの手球を撞くために、一時的にバットの後ろに装着してキューの長さを増すエクステンションと呼ばれる用具も存在する。これは、1980年代に6度の世界チャンピオンとなりイギリスにスヌーカー人気を定着させたスティーブ・デイビスが発明したとされ、彼のイニシャルから「SDジョイント」と呼ばれる。
その他

四つ玉、イングリッシュプール等にもそれぞれ特化したキューが存在する。

自宅にビリヤード台を置く場合、部屋に対してテーブルが大きすぎる為に通常の長さのキューではテーブルの端のボールを上手く撞けないことがある。こういった場合には短いキューを用意する。

子供向けの短いキューも販売されている。

各部の名称キューと、その部位の名称。画像ではバットが短く見えるが、シャフトとバットは通常ほぼ同じ長さである。

以降、先端部よりパーツごとに解説を加える。
シャフト

シャフトは真ん中より先の部分(2分割できるキューの場合はジョイントよりも先の部分)を指し、主にメイプルなどの堅い木でできており、先には破損防止のためにプラスチック象牙ベークライトなどのキャップ状のものが付いている。これは先角(さきづの、あるいはフェラル、俗にコツ)と呼ばれる。先角の先には革製のティップが取り付けられ、ルール上、手球に触れてよいのはティップ部分のみとされている。

シャフトは大きく分けて、1本の材を削って作られるノーマルシャフトとハイテクシャフト(1つあるいは複数の木材から作成した複数のピースを貼り合わせて1本のシャフトにしたもの)がある。ハイテクシャフトは様々なメーカーから発売され、スピンをかける目的で手球の左や右を撞いた時の横方向のズレ(ディフレクション、トビ)を減少させ、プレーヤーがコースの変化を見越して撞くことの負担を軽減させる効果がある。

シャフトはブリッジ(キューの先端を支える、利き腕とは逆の手のこと)をスムースに前後できなければならないため、ニスなどの塗装のないものが好まれるが、曲がりの原因になる湿気からキューを保護するためにFRPガラス繊維[6]などでコーティングされているものも存在する。新品のシャフトは湿気・汚れ防止の観点からニス塗装されていることもあるが、すべりをよくするために紙やすりなどで研磨し、ニスを剥がすのが一般的である。一方でFRP製のシャフトにおいてはそのような行為は推奨されておらず、滑りの良いビリヤード専用グローブをブリッジを組む手に装着することを推奨することがある。
ティップ(Tip)
ティップとは牛や豚ので作られた、キューの最先端部に貼り付けられる厚さ5?8ミリの円柱状のパーツのことである。タップとも言われる。ティップにはショット時の衝撃を吸収し、ボールと接触する際の摩擦を増やすことにより手球に回転をかけ、より多彩なアクションを取らせることができるようになるという意味もある。 ティップはそのままではつるつると滑ってうまく的球に回転がかからない上、ショットミス(キューミスという)を起こしやすいので、チョークと呼ばれる専用の滑り止めを使用する。ティップの革の質や固さ、繊維の細かさや、チョーク自身の硬度などで、的球への回転のかかり具合や、かかるタイミング、打球感、耐久性などに影響があり、非常にデリケートな部分である一方、あるレベルのプレーができるようになるまではこういったことには意識が行かないのが一般である。


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