キャス・サンスティーン
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キャス・サンスティーン (2008)

キャス・サンスティーン(Cass R. Sunstein、1954年9月21日 - )は、アメリカ法学者ハーバード大学ロースクール教授。憲法学、行政法、環境法が専門。

マサチューセッツ州コンコード生まれ。1978年、ハーバード大学ロースクールで法務博士号取得。合衆国最高裁判所やマサチューセッツ州最高裁判所、アメリカ司法省で働いた。1981年からシカゴ大学ロースクールおよび同大学政治学部で教鞭をとった。2008年から現職。2009年に行政管理予算庁の情報・規制問題室長に就任。
生い立ちと学歴

サンスティーンは、1954年9月21日にマサチューセッツ州コンコードにおいて、教師であったマリアン(旧姓グッドリッチ)と、建築業者であったキャス・リチャード・サンスティーンの、二人のユダヤ人の子として生まれた。[1]1972年にはミドルセックス・スクール(中等学校)を卒業、1975年にはハーバード・カレッジを卒業し学士号を取得した。カレッジでは、スカッシュの学校代表チームや学生誌「ハーバード・ランプーン」の編集部に所属していた。1978年にはハーバード大学ロースクール(法科大学院)において優等の成績(magna cum laude)で法務博士号を取得。ロースクールでは、「ハーバード公民権・人権ロー・レビュー」の編集主幹を務め、エームズ模擬裁判コンペの優勝チームの一員でもあった。1978?1979年にはマサチューセッツ州最高裁判所においてベンジャミン・カプラン判事を補佐、1979?1980年には合衆国最高裁判所においてサーグッド・マーシャル判事を補佐し、ロー・クラークとして働いた。[2]
経歴

サンスティーンは、アメリカ合衆国司法省の法律顧問局で法務顧問として働いた(1980?1981年)後、シカゴ大学ロースクールの助教授の職につき(1981?1983年)、その後政治学部の助教授にもなった(1983?1985年)。1985年には、政治学部とロースクールの両方で正教授に昇進。1988年には、ロースクールと政治学部においてカール・N.ルウェリン法学教授となった。1993年には、シカゴ大学はサンスティーンの「功労」を称えて、そのロースクールおよび政治学部における肩書きを、カール・N・ルウェリン功労終身法学教授に変更した。

1986年秋期には、コロンビア・ロー・スクールのサミュエル・ルービン客員教授、1987年春期、2005年冬期、2007年春期にはハーバード・ロースクールの客員教授も務めた。サンスティーンは、憲法行政法環境法の講義、および、初年度必修の「法学の基礎」の講義を担当した。この「法学の基礎」は、法的推論、法哲学、および「法と経済学」のような法の学際的研究の入門であった。2008年秋には、ハーバード・ロースクール教授陣に加わり、「リスク規制プログラム」のディレクターとして活動を開始した。[3]

「リスク規制プログラム」は、21世紀の主要な危機に対し、法や政策がどのように対処するかを核としています。研究範囲として予想されるのは、テロリズム、気候変動、職業安全性、伝染病、自然災害などの低頻度・大損害(LPHC)現象です。サンスティーンは、この新しいプログラムの研究に、学生が多大な貢献をしてくれることを期待しています。[3]

2009年1月7日、「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、サンスティーンがホワイトハウスの情報・規制問題局(OIRA)の局長に指名される予定であると報じた。[4]このニュースは、革新派の法学者[5]や環境保護派[6]の間で議論の的となった。サンスティーンの指名承認は、彼の政治的・学術的見識に関する主張をめぐる議論により、長期間保留されていた。2009年9月9日、米上院は、サンスティーンの情報・規制問題局および行政管理予算局局長の指名に関して、 ⇒討論終結のための投票を行った。この動議は63票対35票で可決された。2009年9月10日、米上院は、57票対40票でサンスティーンを承認した。

サンスティーンはリスク規制に関する研究において、チムール・クランと共に、「利用可能性カスケード」の概念を考案したことで知られる。これは、あるアイデアに関する一般の議論が自己増殖して、個人がその重要性を過大評価することを指す。

サンスティーンの著書としては、「After the Rights Revolution」(1990年)、「The Partial Constitution」(1993年)、「Democracy and the Problem of Free Speech」(1993年)、「Legal Reasoning and Political Conflict」(1996年)、「Free Markets and Social Justice(邦題:自由市場と社会正義)」(1997年)、「One Case at a Time」(1999年)、「Risk and Reason」(2002年)、「Why Societies Need Dissent」(2003年)、「Laws of Fear: Beyond the Precautionary Principle」(2005年)、「Radicals in Robes: Why Extreme Right-Wing Courts Are Wrong for America「(2005年)、「Are Judges Political? An Empirical Analysis of the Federal Judiciary」(2005年)、「Infotopia: How Many Minds Produce Knowledge」(2006年)、そして、リチャード・セイラーとの共著に「Nudge: Improving Decisions about Health, Wealth, and Happiness(邦題:実践行動経済学)」(2008年)がある。

2006年の著書「Infotopia: How Many Minds Produce Knowledge(インフォトピア:集合知の生成)」では、情報の集約について探求している。その中には、予測市場オープンソースソフトウェアウィキに関する議論が含まれている。2004年の著書「The Second Bill of Rights: FDR's Unfinished Revolution and Why We Need It More than Ever(第二権利章典:ルーズベルトの未完の革命、そして私たちが今日それを必要とする理由)」では、フランクリン・ルーズベルトによって提案された第二権利章典を擁護している。この中で提案されている権利としては、教育の権利、住居の権利、医療の権利、独占から保護される権利などがある。サンスティーンは、この第二権利章典が国際的に大きな影響を与えたとし、アメリカでも再評価すべきと主張している。2001年の著書「インターネットは民主主義の敵か」では、インターネットは、独自の見解や経験を共有する集団の中で市民を孤立させ、自分たちの信仰を危うくする情報を遮断する(通称「サイバーバルカン化」)ので、民主主義を脆弱化する可能性があると主張した。

サンスティーンは、シカゴ大学の経済学者リチャード・セイラーと共に、「実践行動経済学」(エール大学出版部、2008年)を著している。「実践行動経済学」では、人々が日常生活でよりよい選択をする上で、公的・私的な組織がどのような支援を行うことができるかを論じている。セイラーとサンスティーンによれば、

人々はしばしば貧しい選択を行い、後で思い出して困惑する。そのような選択をしてしまうのは、人間は誰しもさまざまな日常的バイアスに影響を受けやすく、このバイアスが、教育、家計、医療、住宅ローン、クレジットカード、幸福、そして地球そのものに対してすら、同じようにさまざまな恥ずかしい失敗を犯す原因になっているからだ。

この本の思想は、米大統領バラク・オバマや英首相デビッド・キャメロン、そして英保守党員全般など、さまざまな政治家に好評であったことがわかっている。[7][8][9]「実践行動経済学」の思想は批判も受けた。公衆衛生財団「キングス財団」のタミー・ボイス博士はこう言っている。

私たちは、「ナッジ」思想(訳注:「実践行動経済学」の原題「Nudge」を指している)のような、政治的な動機による短期的な運動から離れる必要があります。このような運動は、正当な証拠に基づいているわけではなく、人々の長期的な行動を変化させるには役立ちません。[10]

サンスティーンは、「ニュー・リパブリック」誌や「アメリカン・プロスペクト」誌の寄稿者であり、米議会委員会で証言する機会も多い。1998年には、ビル・クリントンの弾劾に反対する運動において、積極的な役割を果たした。

近年では、「The Volokh Conspiracy」ブログや、ローレンス・レッシグ(ハーバード大学法学部)教授やジャック・バーキン(イェール大学法学部)教授のブログにも寄稿している。サンスティーンは極めて執筆量の多い書き手であると見なされており、そのため、2007年には法学論文誌「The Green Bag」の記事において、サンスティーンと他の法学論文著者との隔たりの次数を反映する「サンスティーン数」の概念が考案された。これは数学論文の著者に与えられる「エルデシュ数」に対応している。[11]

サンスティーンは、アメリカ芸術科学アカデミー(1992年選出)、および、アメリカ法律協会(1990年以降)の会員である。2018年ホルベア賞受賞。
主張
法哲学

サンスティーンは司法ミニマリズムの提唱者であり、裁判官は原則として目の前の事件の判決に集中すべきで、広範囲に影響を与える法律や判決を根本的に変えることは避けるべき、と主張している。サンスティーンは、一部ではリベラル派と見なされているが[12]ジョージ・W・ブッシュによるマイケル・W・マコーネルやジョン・ロバーツの最高裁判事の指名を公的に支持し[13]、死刑制度も理論的に強く支持し続けている。[14]


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