キッチンカー
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揚げパン』を販売するキッチンカー(フードトラック)

キッチンカー(和製英語:kitchen car 英語:food truck)は、食品調理設備を備える車両のこと。「フードトラック」「ケータリングカー」「ケータリングトラック」などとも呼ばれる。

主に調理販売を目的としているが、アイスクリームトラックなど、冷凍または包装済の食品を販売する(すなわち調理を伴わない)ものも存在する。
概要

厨房機器を備えているため日本における車両の分類上は多くの場合特種用途自動車の一種となるが、ほとんどの車両には飲食のための客席を車内に備えられていないため、道路運送車両法等に定められる食堂車と同義とは必ずしも言えない。一般に食品の移動販売ケータリングに用いられるが、陸上自衛隊で使用される野外炊具、警察の機動隊等の調理施設を備えた車両も一般にキッチンカーと呼ばれている[1][2][3]。「フードブース」や「フードカート(屋台)」などと共に毎日25億人にサービスを提供する屋台業界を構成する[4][5]

北米ではサンドイッチハンバーガーフライドポテトなど一般的にファーストフードを提供するものが多く、日本などでは地域の名産品を販売する車両も存在する[6]。2010年代初頭、個人宅や旧工場、レストランなどの一部をイベントなどで一時的に貸し出す「ポップアップレストラン(英語版)」の流行によって様々な料理を提供するフードトラックも人気となり、その中でも特にエスニック料理が人気を博している[7]
歴史オースティンのワイルドライフ・エキスポで再現されたチャックワゴン

アメリカではテキサス州の「チャックワゴン」がフード・トラックの前身となる。1800年代後半、テキサスの牧場主であるチャールズ・グッドナイト[8] により考案された。軍から払い下げられた木製のワゴンに医療品や塩付けにした食料品を積み込み、移動しながら長い放牧生活を行っている。また、ワゴンには水が備え付けられているため、薪を使用し加熱や調理が行える仕組みであった。

現代のフード・トラックの起源となるのは、1872年に食品ベンダーであったウォルター・スコットによって考案された「ランチワゴン」である。スコットはワゴン車に窓となる開口部を設け、ロードアイランド州プロビデンスにある新聞社の前に駐車し、サンドイッチの販売を行っている。

1880年代には飲食店のカウンターを担当していたトーマス・H・バックリーによってマサチューセッツ州でランチワゴンの製造を開始しており、シンク冷蔵庫、調理用コンロ、色付きの窓など数々の装飾が施された車両の紹介を行っている[9]

1950年代にはランチワゴンは移動式の食堂となり、これら移動式の食堂はアメリカ陸軍によって認可されたことで基地内で運営されている。

「ローチ・コーチ(roach coaches[注釈 1][10])」や「ガット・トラック(gut trucks[注釈 2])」の愛称で呼ばれた移動式のフード・トラックは、都市から遠く離れた僻地で鉄道線路の敷設を行う労働者のために日常的な食糧を供給する問題が発生したことでその役を担っており、建設現場や工場、配達員などブルーカラーの作業に従事する人へ向けたサービスとして長く定着している[11]。アメリカでは基本的に外出中の人が安価で軽食を採ることができる手段を提供していた[12]

1980年代に入り世界各国で急激な伸びを見せ始めており、ニューヨーク市などの大都市では時間とお金を節約するため挙って利用されており、レストランとのシェア争いが繰り広げられている。

2010年代には経済不況であるグレート・リセッションとなり、経済的変化も加わったことでアメリカ国内ではフード・トラックの数が増加している。これは、建設業が衰退したことでフード・トラックが過剰となっており、経済不況から高級レストランのシェフの多くが解雇されており、解雇された経験豊富なシェフが実店舗のレストランとして起業するよりも少額の投資で済む背景からと見られている[13][14]。日本でもキッチンカーは販売だけでなくリースレンタルの他に、車両費用と出店場所の確保、各種保険や経営サポートまでをパッケージ化したサブスクリプション方式なども行われているため[15]、少額の投資で開業できる点が魅力となる。
世界のキッチンカー事情
日本「移動販売#日本の移動販売」および「屋台#日本の屋台」も参照伝統的な石焼き芋の軽トラック

日本での「キッチンカー」の形態としては、「移動販売の発展型」「自走可能な屋台」「諸外国のキッチンカーの形態を日本に持ち込んだもの」がある。移動販売や屋台の発展形としては、石焼き芋蕎麦ラーメン等がある。また、キッチンカーの形態を持ち込んだものとしてはピザクレープケバブアイスクリームなどがあり、この形態を活用してから揚げ丼物等の日本食も扱われるようになっている。2010年以降デザイン性のあるキッチンカーを製作する会社が登場して、今現在特徴のある車両がたくさん増えた。 代表とするのが福岡を拠点に全国へオリジナルフードトラックを製作するオオカミレンジャー。ターポリン等で飾り付けするのではなく、デザインされた内装や外装が特徴的である。

戦後初期に栄養改善運動のための「栄養指導車」が登場し、当初これがキッチンカーと呼ばれていた[16]

諸説あるが、日本でキッチンカーを最初に事業展開したのは1997年創業の(当時)有限会社アジアンランチの山口健司である。[17]2010年以降デザイン性のあるキッチンカーを製作する会社が登場して、今現在特徴のある車両がたくさん増えた。代表とするのが福岡を拠点に全国へオリジナルフードトラックを製作するオオカミレンジャー。ターポリン等で飾り付けするのではなく、デザインされた内装や外装が特徴的である。

東日本大震災の直後から復興にむけての支援や、コロナ禍におけるテイクアウト需要の高まりによりキッチンカーの需要も高まっている[18][19][20][21]群馬県前橋市では2021年4月から6月までのキッチンカーでの営業許可件数が全体の15パーセントを占めるまでに増加しており、新規参入者に対するマッチング支援を行うサービスや経営コンサルティング事業を行う企業なども増加している[18][22]ハウス食品でもキッチンカーの貸し出しや食材の提供、キャッシュレス決済サポート、場所の確保などプラットフォーマーとして参入を表明している[23][24]。行政側でも飲食店の企業支援策や地域活性化策の一環として支援しており、補助金の給付や場所の提供などを行っている。福井県勝山市ではキッチンカーの開業に対し最大500万円の補助制度を発表しており[25]敦賀市でも100万円を上限に補助する制度を開始している[25]国見バーガーキッチンカー

新型コロナウイルスの流行により都市部の企業ではテレワークが導入され、屋外イベントも軒並み中止となったことでその影響はキッチンカーにも及んでいるが、おもな営業場所も都市部のオフィス街から住宅地へと変わっており、緊急事態宣言(緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置)が発出され外出が制限されたことで外食ができず、コンビニ弁当ばかりでは飽きてしまい、近年台頭しているデリバリーサービスは手数料が高いと感じている層に対し受け容れられている。また、これまでマンションなど集合住宅地では自治会が取り纏めた住民の総意がなければ出店が難しかったが、緊急事態宣言の発令により住民の総意が得られやすくなったこともあり、需要は右肩上がりとなっている[26][27]

京都府久御山町では1,600の事業所が入居する大型工業団地を抱えるが、コンビニエンスストアや飲食店の開業が法的に規制されている地域であることから従業員の昼食が取りづらい点が問題視され、キッチンカーによる弁当の移動販売を町が支援している[28]宮城県石巻市石巻赤十字病院では、病院前のロータリーをキッチンカー業者に対し開放した。医療従事者は感染予防対策上、飲食を含め自由に交流することが制限されているため外食が困難であったが、三密が避けられる環境であること、売り上げが落ち込んでいる飲食店の支援策になる上、営業場所を求めていたキッチンカーとのニーズが合致したことによる[29]

さいたま市秋田市宮崎県新富町でも、地域活性化や場所の有効活用と新たな財源確保を目的とした市庁舎前の広場を解放した実証実験や支援を行っており[30][31][32]大阪府吹田市においてもキッチンカーシェア・マッチングサイト「モビマル」と共同で市営住宅団地などへキッチンカーを誘致する社会実験を開始している[33]神戸市でも北区垂水区西区内にある6カ所の団地においてキッチンカーによる移動販売の実証実験を行っている[34]。これは、ニュータウンなど居住する住民の高齢化に伴い買い物難民の増加が懸念されたことで開始されており、付近に飲食店が無くスーパーマーケットも遠いため住民から好評を博している[34]。また、マンションデベロッパーでも住民サービスとしてキッチンカーの誘致を行っている。大型マンションは共働き世代や子育て世代が多く入居し、コロナ禍で在宅が増えたことで朝昼晩の家事が負担となっており、マンションでの試験運用も概ね好評を得ている[35][36]。このほか神奈川県相模原市の下九沢団地では、高齢者の見守り巡回を兼ねた販売を団地に限定したキッチンカーが営業している[37]

愛媛銀行では自行駐車場の有効活用を目的として、毎週水曜日に県内5カ所の支店の駐車場へキッチンカーを誘致するイベントを開催しており、同行の携帯アプリからこのイベントで利用することができるクーポンを配布している[38]

山梨県小菅村では物流会社と協力し、山間部の配送拠点に設営された吉野家のキッチンカーで調理された牛丼ドローンを用いて配送する実証実験を行っている[39]

帝国ホテルは「新型コロナウイルス感染症の拡大以来、食事のテイクアウト需要が高まっていることを受け、また、より多くのお客様に帝国ホテルの味をお届けしたいという想いから、新たな試みとしてキッチンカーによるテイクアウトメニューの販売を開始いたしました」として、キッチンカーを開発した[40][41]東京国際フォーラム地上広場での期間限定の開設ではあったが、連日完売するなど好評だったことからメニューを拡充させ期間限定で再開した[42]
アジア台湾のキッチンカー

アジアでは古くから屋台の文化があり、歴史的に天秤棒で担ぐ物からリアカーなどを人力・自転車等で牽く移動形態をとるものも多いため、広く受け入れられている。簡単な調理技術と設備、そして最小限の投資で開業可能であり、立地や時間的拘束がないことから飲食店開業の足掛かりとしてこの業界に参入する者も多い。提供される食品は、主に地元の文化と味を反映するものが多く、また消費者にとって安価で迅速に食事を済ませられることが魅力とも言える[43]

アジアの中でも特に台湾は、朝昼晩の3食とも外食で済ますほど外食文化が進んでおり、一人暮らし用のアパートにはキッチンが無いのが標準となり、簡易食堂で販売される一品料理「小吃(シャオチー)」が安価で提供されている[44]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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