ガラパゴス化
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ガラパゴス化(ガラパゴスか)とは、日本ビジネス用語のひとつで、孤立した環境(日本市場)で製品やサービスの最適化が著しく進行すると、外部(外国)の製品との互換性を失い孤立して取り残されるだけでなく、適応性(汎用性)と生存能力(低価格)の高い製品や技術が外部から導入されると、最終的に淘汰される危険に陥るという、進化論におけるガラパゴス諸島生態系になぞらえた警句である[要出典]。ガラパゴス現象、ガラパゴス症候群ともいう。国内向け製品・サービスに特化した進化[1]を遂げた産業分野[2]だけでなく政治分野にも使用される事が有る[3]
ガラパゴス化の背景

この国際競争の側面における言葉の背景としては、オープンソースであっても独自様式に流れがちなエンジニア[4] や、日本市場で独自の進化を遂げた携帯電話世界標準からかけ離れてしまう現象[5] を指すため代名詞的に用いられていた。同時期に生まれた言葉として「パラダイス鎖国」が挙げられる[6]

ガラパゴス化というキーワードが正確にいつごろ発生したのか定かではないが、2004年11月30日に行われた「Open Source Way 2004」で、当時VA Linux Systems Japanのマーケティング部長・OSDNユニットのユニット長の佐渡秀治が、講演「OSS界のガラパゴス諸島、ニッポン」[7]の中で、言語の障壁に由来する日本人のオープンソースソフトウェアに対する姿勢について述べる際に「ガラパゴス」の表現を使用したことがきっかけではないかとされている[8]。総務省が2006年10月より開催したICT国際競争力懇談会[9] および、そのWG(ワーキング・グループ)では、小野寺正野村総合研究所のNRI知的資産創造2006年11月号に北俊一が寄稿した論文「携帯電話産業の国際競争力強化への道筋?ケータイ大国日本が創造する世界羨望のICT生態系?」[10]を取り上げたことにより[11]、この記述が議事要旨[12] および最終とりまとめ[13] で活字化され、携帯電話関係者の間ではある程度認識される用語となった。

その後、2007年12月の、野村総合研究所2015年プロジェクトチームのコメント[14] や著作『2015年の日本 ?新たな「開国」の時代へ?』[15] でも述べられ、より一般に広まった。

書籍では、非製造業が公的制度・商慣行面で日本市場に最適化している現状を「ガラパゴス化現象」と表現し、そこからの脱却(地域社会の開国、いわゆるグローバル化)を説いている。ガラパゴス諸島の位置。大陸からおよそ900キロ離れたガラパゴス諸島では、独自の生態系が発達した。

野村総合研究所オピニオン[16] は、以下のように定義づけている。
日本国内には、独特な環境(高度なニーズや規制など)に基づいたサービスの市場が存在する

海外では日本国内とは異なる品質機能の市場が存在する

日本国内の市場が独自の進化を遂げている間に、海外市場では「デファクトスタンダード」の仕様が決まる[注釈 1]

気がついた時には、世界の動きから大きく取り残される

野村総研が例に挙げたのは、上記の携帯電話Felica方式非接触ICカードISDB方式地上デジタル放送建設業である[17]。さらに書籍『ガラパゴス化する日本の製造業 産業構造を破壊するアジア企業の脅威』(2008年)も出版され、一般に広まった。
ガラパゴス化の傾向

十分に大きく単独で成立する、特異性の強い市場の存在が前提となる。この市場内で成功する戦略として、ローカルなニーズに基づいた独自進化の推進が考えられ、特化した高水準の製品やサービスが誕生する。一方でこれとは逆に、より多くの市場のニーズを同時に必要十分満たすという戦略も成り立つ。世界的に無視できないシェアを得れば、事実上の標準となる可能性が出てくる。

このとき、高水準の少数派は低水準の多数派に対し、規格争いで不利となる。日本に限らず、各国独自のレギュレーション(法律・規格・法規など)を背景に消費者のニーズが生まれている例も多く、日本においては発泡酒第三のビール、アルコール分(度数)が39%以下の国産オリジナルウイスキーハイニッカサントリーレッドエクストラを除くトリスウイスキーシリースブラックニッカクリア等)、小型自動車(サイズL4.7xW1.7m・排気量2L以下(ガソリンのみ)のいわゆる4/5ナンバー車)、軽自動車などがある。しかし、国際規格(デジュリスタンダード)は、日本独自のニーズとは別に存在しており、規制回避に特化した技術には競争力がない。ただしその一方で、国内規格の自動車が輸出または現地生産[注釈 2]されているように、商品そのものに競争力があれば問題はない。

全体の傾向としては、日本独自(あるいは一社だけの)の規格を採用したり、日本(人)固有(日本語や日本文化、日本の環境・レギュレーションなど)のニーズに基づいて商品を開発したりすることで日本の消費者を囲い込む。1億人強しかいない日本市場での消費者を取り込んでいるという状況にあるので、顧客一人あたりの単価を上げることが追求され、高性能・多機能・高価格化が起こる。日本国外からの参入が阻まれ、一定の利益は上がるが、同じ商品で世界市場に参入することは困難な状況に陥る。その一方で、世界市場で営業を展開するグローバル商品は、万人受けを目指した結果国内市場の独特のニーズを満たさないうえ、サポート体制が脆弱なために日本国内での競争力がない。しかし時間が経過すると日本の製品は日本市場に封じ込められ、ニッチ的な高機能・高コスト化を強いられるなか、海外製品は世界市場での切磋琢磨と生産力の増強から最終的に国内製品の機能を代替できるものとなり、グローバルモデルが(全部ではないにしても一定数の)日本人の要求も満たすようになってくる。このタイミングでグローバルモデルのサポート体制が日本国内でも整えられると「安くて高性能、日本語にも対応」の海外製のグローバルモデルが一気に流入し、それに太刀打ちできない日本独自仕様製品の敗北という結末に結びつく。

コンテンツ分野におけるガラパゴス化については、かつての浮世絵のように日本市場の中で培われた独特の表現が魅力になることもあり、その典型例が漫画アニメテレビゲーム特撮などである。こうしたものは日本人にすら理解しがたい「内輪受け」的な記号に満ちており、ある種「ガラパゴス化」の極北だが、こうした作品が世界各国に輸出されファンを得たことで、海外のオタクが生まれている。任天堂DSWiiNintendo Switchのように国際的な「デファクト」として成功しうるのであれば、国内独自規格であることが必ずしもただちに不利ではないという主張もある[18][19]。ガラパゴス化という語を肯定的に使う内田樹五木寛之のような文化人もいる。
工業製品・規格のガラパゴス化
パーソナルコンピュータ

1980年代後半の世界では、IBMが開発したPC/ATのソフトウェアや周辺機器をそのまま利用できるように開発されたPC/AT互換機がそれまでのパソコンと比べて大幅に安価であったことから、パーソナルコンピュータ(パソコン)の業界標準として普及していた。日本語表示のできないPC/AT互換機は日本ではほとんど売れず、日本では世界でPC/AT互換機が普及するまでと同様、各メーカが独自に設計したアーキテクチャのパソコンが普及していた。日本国内で圧倒的シェアを占めていた日本電気(NEC)のPC-9800シリーズや、シャープX68000富士通FM TOWNSなどが普及していた。これは日本語の表示(フォント)データをハードウェアに組み込むことによって日本語の表示と入力の効率を高めるなど、日本独特のニーズに応える商品開発を行っていたためである。この結果、日本のパソコンは1990年代初頭にはPC/AT互換機との価格差が顕著となった。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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