カーボンマイクロフォン
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ウェスタン・エレクトリック社製の電話受話器に使われていたカーボンマイク。1976年頃。エリクソン社のカーボンマイクを分解したところ。カーボン粒子が見える。

カーボンマイクロフォン(: carbon microphone, carbon button microphone, button microphone, carbon transmitter)とは、2枚の金属プレートでカーボン粒子の塊を挟んだ構造をしているマイクロフォン。音を電気的な音声信号(英語版)に変換する電気音響変換器の一種。表記はカーボン/炭素/炭素型、マイクロフォン/マイクロホン/マイクのような揺れがある。

発話者に向ける側のプレートは非常に薄く、ダイアフラム(振動板)としてはたらく。音波を受けてダイアフラムが振動するとカーボン粒子にかかる圧力が変動し、それによりプレート間の電気抵抗が変化する。圧力が高くなって粒子が互いに強く押し付けられると抵抗は低下する。2枚のプレートの間には常にカーボン粉体を介して直流電流が流されており、抵抗変化によって電流が変調を受けて音波の圧力変化を再現する。電話機のカーボンマイクが出力する変調電流は電話線から直接中央局に送られる。PA設備で用いられる場合、電流信号はオーディオアンプによって増幅される。カーボンマイクには周波数特性が狭く、電気的なノイズも大きい欠点もある。

1920年代に真空管アンプが台頭するまで、高レベルのオーディオ信号を取得する実用的な手段はカーボンマイクしかなかった。カーボンマイクの周波数特性や、持ち味であるコストの低さや出力の強さは電話機と相性が良く、1980年代まで広く使用されていた。現在でも従来型のアナログ電話サービス(POTS)ではカーボンマイクを用いた電話機を無改造で使用できる。電話以外の分野では新しい方式のマイクへの移行はもっと早かった。初期のAMラジオ放送でも電話の送話器を流用したカーボンマイクが広く用いられたが、周波数特性が狭くノイズレベルもかなり高いことから1920年代の後半には放棄された。その後も低価格のPA機器、もしくは軍事無線やアマチュア無線の用途では数十年にわたって一般に使われ続けた[1]
歴史.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{display:flex;flex-direction:column}.mw-parser-output .tmulti .trow{display:flex;flex-direction:row;clear:left;flex-wrap:wrap;width:100%;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{margin:1px;float:left}.mw-parser-output .tmulti .theader{clear:both;font-weight:bold;text-align:center;align-self:center;background-color:transparent;width:100%}.mw-parser-output .tmulti .thumbcaption{background-color:transparent}.mw-parser-output .tmulti .text-align-left{text-align:left}.mw-parser-output .tmulti .text-align-right{text-align:right}.mw-parser-output .tmulti .text-align-center{text-align:center}@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{width:100%!important;box-sizing:border-box;max-width:none!important;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow{justify-content:center}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{float:none!important;max-width:100%!important;box-sizing:border-box;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow>.thumbcaption{text-align:center}}ヒューズによる最初のカーボンマイクロフォン。二つの金属電極に挟まれたカーボン棒にバッテリーから電流が流される。音波によって棒が振動すると、カーボンと金属の接触点の抵抗値が変わり、電流が変調される。

遠距離での音声通話を始めて可能にしたマイクは軽接触式のカーボンマイクであった(当時はトランスミッタ(送話器)と呼ばれた)。この種のマイクは1878年頃に英国のデイビッド・エドワード・ヒューズ、米国のエミール・ベルリナートーマス・エジソンによって独立に開発された。1877年半ばに最初の特許を取得したのはエジソンだったが、ヒューズはそれより数年前から多くの目撃者の前でカーボンマイクの完成品を実演しており、ほとんどの歴史家はヒューズを発明者とみなしている[2][3][4]

ヒューズの装置では軽く詰めたカーボン粒体が使われていた。音波がダイアフラムを揺らすことで粒子に加わる圧力が変化すると、それに比例してカーボンの抵抗が変化し、音信号を比較的正確に電気信号として再現することができる。「マイクロフォン」という言葉を生み出したのもヒューズである。ヒューズは王立協会に自身の発明を披露し、音箱 (sound box) の中で昆虫が立てる引っ掻き音を増幅して見せた。エジソンとは対照的にヒューズは特許を取得せず、自身の発明を世界への贈り物にした[5]

アメリカのエジソンとベルリナーは特許権をめぐって長い法的闘争を繰り広げた。最終的に連邦裁判所で「音声伝送においてはエジソンがベルリナーに先行していた。送話器にカーボンを用いるのは、論争の余地なく、エジソンの発明である」という判決が下り、エジソンが全面的に権利を獲得した。ベルリナーの特許は無効と裁定された[6][7]

カーボンマイクは現代的なマイクロフォンの直系の祖先であり、電話、放送、レコード業界の発展に重要な役割を果たした[8]。エジソンが1886年に開発した無煙炭粉末によるボタン型カーボンマイクは構造が単純で低コストかつ耐久性があり[5]、1890年から1980年代まで電話機に広く使われていた[7]
アンプとしての利用カーボンマイクロフォンの動作原理。電極を兼ねたダイアフラムが音波に押されると、カーボン粒子が互いに押し付けられて電気抵抗が減少する。

カーボンマイクは増幅器としても使用できる[9]。この用途では初期の電話リピータに利用され、真空管増幅器の登場まで長距離通話を担っていた。これらのリピータでは、磁気を用いた受話器(電気‐機械変換器)がカーボンマイクと機械的に結合されていた。カーボンマイクは他のほとんどのマイクロフォンのように電圧信号を生成するのではなく、外から流す電流を変調して出力するため、より大きな信号が得られる。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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