カーボンニュートラル (英: carbon neutrality) とは、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、その排出量を「実質ゼロ」に抑える、という概念[1]。日本語で直訳すると炭素中立となる。 人類が生きていくには温室効果ガス排出は避けられないので、せめて排出を吸収で相殺し、地球温暖化への影響を軽微にしようとの考え方に基づいている[1]。 もともとは生化学や環境生物学
概説
製造業では「カーボンオフセット」や「(カーボン)排出量実質ゼロ」という用語も類義語として用いられる。
カーボンニュートラルの実現には、1.排出分の吸収、2.排出量の削減、3.排出量取引、の三つの手法がとられる[1]。 二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量と植林などによる吸収量が等しく均衡している状態を意味する[4]。 一方、類似語のカーボン・オフセットの定義は「市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの責任と定めることが一般に合理的と認められる範囲の温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、『カーボン・クレジット』(炭素排出許可量)を購入すること、または他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施することにより、その排出量の全部を埋め合わせること」となっている[5]。 また人間活動で排出する温室効果ガスの量よりも植物や海などが吸収する量の方が多い状態を「カーボンネガティブ (carbon negative)」という。「カーボンポジティブ (carbon positive)」 も同じ意味で使われることがある。 植物のからだ(茎・葉・根など)は全て有機化合物(炭素原子を分子構造の基本骨格に持つ化合物)でできている。その植物が種から成長するとき、光合成により大気中の二酸化炭素の炭素原子を取り込んで有機化合物を作り、植物のからだを作る。そのため植物を燃やして有機化合物から二酸化炭素を発生させ空気中に排出しても、もともと成長するとき空気中に存在した二酸化炭素を植物が取り込んだものであるため、大気中の二酸化炭素総量の増減には影響を与えず、カーボンニュートラルとみなされる。(このとき、元となる植物が成長過程で大気中以外から吸収した炭素、落葉などによって成長過程で地中などに固定される炭素、植物由来燃料・原料が製造される際に製品化されずに余った炭素などは考慮に入れない。) 一方、化石燃料は平均数十万年?数千万年の太古の大気中から植物が吸収した二酸化炭素が有機化合物を経て化石となり、生物圏や大気圏から完全に離脱したもので燃焼すると大気中の二酸化炭素が増加し、カーボンニュートラルではない。 林野庁によれば、1年間に1世帯が石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料消費から排出する二酸化炭素は4,480 kg (2017年)で、これを吸収するためには40年生のスギ509本が必要となる[6]。 2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」が表明され、2021年4月には「2030年度の温室効果ガス排出46%削減」の目標が表明され、2021年10月に日本の新たなエネルギー基本計画が策定されている。この具体的な2030年におけるエネルギー需給の見通しは、2019年度と比較して化石燃料を76%から41%へ引き下げ、原子力を6%から20?22%へ増やし、再生可能エネルギーを18%から36?38%と倍増となっている。その再生可能エネルギーの電源構成は、太陽光 14%?16%、風力 5%、地熱 1%、水力 11%、バイオマス 5%である。さらに脱炭素化エネルギーとして水素・アンモニア発電により、電源構成の1%をまかなう目標となっている[7]。 化石燃料からの脱却を目指し、バイオマスエタノールなどのバイオ燃料、薪や木質ペレットなどの木質燃料といったバイオマスを燃料としてバイオマス発電を推進したり、トウモロコシなどを原料とするバイオプラスチックを使用したりする動きが広がっている。 2007年4月、ノルウェーのイェンス・ストルテンベルク首相は、カーボンニュートラルを2050年までに国家レベルで実現する政策目標を打ち出した。国家レベルでこのような政策が決定されたのは初めての例だとされている。また、同年12月、コスタリカのオスカル・アリアス・サンチェス大統領は、2021年までに国家レベルのカーボンニュートラルを実現する目標を発表した。現在、CO2排出第2位のアメリカをはじめEU、日本などの先進国の多くは2050年、同1位の中国は2060年、同3位のインドは2070年をカーボンニュートラルの目標に掲げている。Countries and nations by intended year of climate neutrality.mw-parser-output .legend{page-break-inside:avoid;break-inside:avoid-column}.mw-parser-output .legend-color{display:inline-block;min-width:1.5em;height:1.5em;margin:1px 0;text-align:center;border:1px solid black;background-color:transparent;color:black}.mw-parser-output .legend-text{} Carbon neutral or negative 2030 2035 2040 2045 2050 2053 2060 2070 Unknown or undeclared 発電所や工場などから回収したCO2を水素(H2)と反応させ、天然ガスの主成分であるメタン(CH4)を合成するメタネーションの技術開発が進められている[8]。 CO2 + 4H2 → CH4 + 2H2O この合成メタンは燃焼時CO2を排出するが、回収したCO2を原料にしているため、CO2排出は実質ゼロ、カーボンニュートラルとみなすことができる。 原子力発電はCO2を排出しないため、カーボンネガティブな発電方法に位置づけられている。その一方で2011年の福島第一原子力発電所事故のような大災害につながるため、脱原発の声も非常に強いが、カーボンニュートラルなクリーンエネルギー、急増する電力需要への対応、エネルギー安全保障(ロシアのウクライナ侵攻)など複数の理由で原子力発電所建設の推進・再稼働が再び活気づいている。フランスは原発を14基新設する計画を発表した[9]。 Nike、Google、Yahoo!、Marks & Spencer、香港上海銀行 (HSBC) 、Dellなど大手企業が自社の「カーボンニュートラル化宣言」を行い、温室効果ガス削減に取り組んでいる[10][11][12]。
定義
カーボンニュートラルが目指す、カーボンの循環の構想カーボンニュートラルを実現した社会については脱炭素社会(炭素循環社会)を参照。(なお、マスコミなどで頻繁に使われる「脱炭素」という表現について日本化学会は(一種の親心からか)人々の誤解を生むのではないかと心配して、代わりに「炭素循環」という表現を使うことを提唱している。→#日本化学会からの指摘 )カーボンニュートラルな植物利用と炭素量変化の流れ。 @何もない状態。 A木を植え、木が生長する。二酸化炭素を大気中から吸収する。 B木が成長をほぼ終える。 C木を伐採し加工する。木材と木くずなどが出る。 D木材を紙、建材などに利用する。木くずはさらに増える。 E紙、建材などはやがて焼却処分される。二酸化炭素が大気中に戻る。木くずや燃えかすの灰は地中に入る。 F木くずや燃えかすの灰は微生物に分解されて、二酸化炭素やメタンとして大気中に戻る。 図の下半分は炭素の存在割合を示すグラフである。水色は大気中の炭素を意味し、薄いピンク色は植物の中や暮らしの中の炭素を意味し、薄い茶色は地中の炭素を意味する。このようなサイクルを持続的に繰り返すのがカーボンニュートラルである。ただし、この図には木材加工時などに化石燃料を使った場合のCO2は含まれておらず、全般において再生可能エネルギーを使うものと仮定している。
取り組みの状況
エネルギー基本計画
バイオマスの利用
国家レベルの政策
メタネーション
原子力発電Nuclear Power Plants
企業の動き
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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