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カーヒーター(英: Car Heater)とは、自動車に装備されているヒーターである。元々は独立した暖房器具であったが、今日ではカーエアコンの機能の一部に組み入れられている。主に内燃機関の冷却水の熱を用いる。
方式
水冷エンジン
エンジンで暖められたクーラントがヒーターコア内部のコルゲートチューブを通る際に、キャビン内の空気との熱交換を行う。コルゲートチューブの周りには多数の放熱フィンが張り巡らされ、ブロワーファンの風により強制的な熱伝導が行われている。
動作概念BMW E32のダッシュボードを部分的に分解したところ。緑色の矢印で示された部分がヒーターコアである。
ヒーターコアは小さなラジエーターであり、ダッシュボードの内部におさめられている。材質は熱伝導性の高いアルミニウムや真鍮が用いられ、表面積を増すために多数のフィンが取り付けられたコルゲートチューブ内をエンジンで熱せられた冷却水が通る際に、熱交換を行う。
車両の換気システムを構成するブロワーファンは、ヒーターコアに強制的に風を当てることで冷却水とキャビンの空気の熱交換を促進させ、温風を車内各所に送風する。かつては手動式ベンチレーターからの走行風取り込みのみでヒーターコアから温風を発生させる車種も存在したが、現在では事実上ヒーターコアとブロワーファンはカーヒーターにとって不可分の存在となっている。
ヒーターコアによる熱交換はエンジン排熱の再利用にあたる。通常、室内用エアコンの暖房機能では蒸気圧縮冷凍サイクルを4方弁と呼ばれるバルブを用いて冷房サイクルとは逆方向に冷媒ガスを回し、室外機側で冷風を放出、室内機側で冷媒の熱を放熱させることで暖房を成立させているが、水冷エンジンの場合にはヒーターコアでの排熱再利用の方がエンジンに負荷が掛からず合理的なため、後述のホットガス式ヒーターを除いて、コンプレッサーを用いた暖房は用いられない。 エンジンの暖機が完了すると、冷却水はサーモスタットによって一定の温度範囲に保たれる。車両内部に配送される暖房風の温度は、ヒーターコアを通過する冷却水の量を制限する流量弁を使用するか、カーヒーターに入る空気通路に可動式シャッターを設けてヒーターコアの通過風の量を制限することで制御される。いくつかの車ではこの二つの制御方法を組み合わせた制御機構を用いている場合がある。 初期のカーヒーター搭載車などシンプルなシステムでは、ドライバーが流量弁のロータリーノブや可動式シャッターの開閉レバーを直接操作することで制御を行っていたが、現在のカーエアコン搭載車では流量弁やシャッターは電子制御にて開閉が行われている。 近年のフルオートエアコンに採用例の多いデュアルクライメイトコントロールを採用し、運転席側と助手席側で独立した温度制御を行っている車両や、後部座席用のリアエアコンを採用する高級車、或いは天井側から車内の空調制御を行うオーバーヘッドエアコンを採用する大型車両の場合、二つ以上の独立したヒーターコアを有する場合がある。独立したヒーターコアにそれぞれ冷却水を異なる量通過させる制御を行うことで、座席ごとに最適な温風制御を行っている。 ヒーターコアは多数の屈曲を持つ小さな配管で構成されている。クーラントが適切な間隔で交換されていなかったり、クーラント交換の際に清浄な水道水などで冷却系統が洗浄されていない場合には、ヒーターコアの配管に詰まりが発生する可能性がある。目詰まりが発生すると、カーヒーターが正常に動作しなくなる。ラジエーター側の詰まりやサーモスタットの動作不良など何らかの原因で冷却水流量が制限されている場合は暖房能力が阻害され、冷却系統内へのエア噛みなどでヒーターコアに気泡が存在する場合などで冷却水が失われている場合には暖房能力が失われてしまう。ヒーターコアの流量弁の作動不良によっても同様の状態が発生する。フォルクスワーゲン・パサートにおけるヒーターコア交換作業 ヒーターコアを用いる温水式カーヒーターは、冷却水(クーラント)が暖まらなければ暖房が利かないため、冷間始動後の暖機運転中は暖房が効き始めるまでに時間がかかる。寒冷地仕様が用意される極めて寒冷な地域ではこの欠点が特に顕著となるため、場合によっては後述の燃焼式ヒーター等の冷却水に頼らない暖房システムか、始動前に電熱線で冷却水を予熱するブロックヒーターの後付けが必要となる場合もある。一部のハイブリッドカーではエンジンが稼動している時間が短いために冷却水が温まらず、結果として暖房が効かない。そのため、暖房のためだけにエンジンを稼動させることとなり、夏よりも冬に燃費が悪化するケースもある。また、電池式電気自動車では、原動機の廃熱を利用できないために一部の車種では後述のPTCヒーターでヒーターコア内の水を温めて発熱する暖房を用いている。 ヒーターコアを用いた温水式カーヒーターの歴史は、1938年にアメリカ合衆国の中堅自動車メーカーであったナッシュ・ケルビネーターが水冷自動車用暖房システムとして設計したConditioned Air Systemに始まる[1]。その特徴は、エンジンの冷却水を室内のヒーターコアに引き込み、ベンチレーターから取り込んだ清浄な外気を電動ファンによってヒーターコアに当てることで暖房を行うもの[2]で、燃焼式ヒーターなどに頼るしかなかった当時のカーヒーター事情としては非常に画期的で合理的なものであった。 ナッシュは1939年にはこのシステムにサーモスタットを追加した発展型のヒーターシステム・ウェザーアイ(Weather Eye)を発売した。サーモスタットにより温度が自動調整され、また暖房に内気循環モードの選択を可能とした。さらに翌1940年には、フロントウインドシールド内側に送風することで窓内側の曇りや外側の凍結を抑えるデフロスター機能と、外気のちり、ほこりを濾過する使い捨てフィルターを採用した。1954年にはウェザーアイはカークーラーシステムと組み合わされた世界初のカーエアコンシステム、オールウェザーアイ(All Weather Eye)に発展した。同年にナッシュがハドソンと合併してアメリカン・モーターズ(AMC)となった後も、ウェザーアイのブランドは長く使われた。 ウェザーアイと同時期の1938年、やはりアメリカの弱小自動車メーカーであったハップモビル(Hupmobile)
作動制御
主要な問題
その他の問題
歴史詳細は「en:Weather_Eye」および「en:Evanair-Conditioner
基本的なカーヒーターのシステムとして、これらの機構は既に完成の域に達しており、その後のほぼ全ての自動車に利用されて現在に至っている。一般には、車室内にヒーターコアを引き込んだナッシュ・ウェザーアイの手法が主流であるが、これは外気導入・内気循環の切り替えや温度調整といった実用面で総合的に優位であることによる。
日本車では戦後の1956年式トヨタ・クラウンにおいて、上位グレードであるデラックスに搭載されたのが始まりである。ただしナッシュのごとく完全なビルドイン型ヒーター普及は1960年代に入ってからで、それまでは前席側足元中央に、「だるまヒーター」などと呼ばれるヒーターコアと送風ファンがセットになったドラム型ヒーターを後付けするオプション構造が一時的に主流であった。
ハップモビルのようにエンジンルーム内にヒーターコアを持たせる設計では、1966年のスバル・1000が特異な実例として知られる。このモデルでは、冷却ファンを持たないメインラジエーターより手前に当たる直列配置の配管に、電動冷却ファン付きの小型サブラジエーターが付いており、車内からの操作で、この電動ファンとサブラジエーターの排熱を強力な温風ヒーターとして利用できた。しかし外気導入専用で内気循環ができず、雨天時に車内の窓が曇りやすかったり、温暖な季節でもデフロスターが温風でしか使えない欠点があり、その後のスバル車は短期間で一般的な車内ヒーターコア方式に移行している。
なお、独立した車内送風機構を持たないトラックなどで、エンジンルームのラジエーター背後直後から導風口を車室内に向けて開け、走行中にラジエーター排熱で暖まった空気を車内に導入するタイプの簡易なラム圧ヒーターの事例が、1950年代末から1960年代にかけて見られたが、温風吹き出し口が乗員の足元周囲に限られ、本格的な温風ヒーターに比べると性能が著しく劣ること、強制送風でないためデフロスター機能が与えられないことから、あまり定着しなかった。