カンナビノイド
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CBDの構造式CBNの構造式

カンナビノイド(英語: Cannabinoid)は、アサ(大麻草)に含まれる化学物質のうち、窒素を含まず、酸素と水素、炭素からなる物質の総称である。アルカロイドには分類されない。

60種類を超える成分が大麻草特有のものとして分離されており、テトラヒドロカンナビノール (THC)、カンナビノール(英語版) (CBN)、カンナビクロメン(英語版) (CBC)、カンナビジオール (CBD)、カンナビエルソイン(ドイツ語版) (CBE)、カンナビゲロール(英語版) (CBG)、カンナビディバリン(英語版) (CBDV) などがある。1990年代には、体内で自然に生産されるエンドカンナビノイド(内因性カンナビノイド)が発見され研究が進展してきた。

特にTHC、CBN、CBDはカンナビノイドの三大主成分として知られる。なお、陶酔作用がある成分はこの中でもTHCのみとされるが、他のカンナビノイドとの含有比率によって効用には違いが生じる。
歴史

1899年に、イギリスの化学者がカンナビノール(英語版) (CBN) を単離した[1]

1963年、イスラエルのワイツマン科学研究所のラファエル・メコーラム(英語版)は[2]、科学分野全般での大麻についての知識がないことに気づき、大麻の研究に興味を持った[3]。所長に相談すると、すぐさま警察から大麻樹脂を5キログラムを譲り受けてくれた[3]。そして彼はテトラヒドロカンナビノール (THC) やカンナビジオール (CBD) など化学構造を明らかにし[2]、最初の大きな発見は普段は攻撃的なアカゲザルが THC の投与によっておとなしくなったことである[2][3]。こうした研究を通して彼は「大麻研究の父」と呼ばれることになり、彼の研究をきっかけとして世界中で研究が行われるようになった[2]。メコーラムは THC が大麻の多幸感をもたらしていることを確認するため、妻のダリアに大麻の入ったケーキを作ってもらい、友人たちと食べ、最初で最後の多幸感を味わい、また、喋り続ける友人、笑い続ける友人、1人だけパラノイアに陥るなど、効果に個人差があるという事実にも気づいた[3]

1980年代には、化学療法の吐き気を抑制するための合成THC、ドロナビノールナビロンが入手可能になる[1]

1988年には、カンナビノイド受容体タイプ1(英語版)(CB1受容体)の存在が発見され、内因性カンナビノイド系(英語版)にも注目が集まり、その医療的への応用研究も活発となった[4]。当時はオックスフォード大学の研究チームが THC 非特異的に作用すると考えていたが、アリン・ハウレット (Allyn Howlett) はメコーラムらと共に、THC が作用する特定の部位を発見した[3]。1992年12月、メコーラムはCB1受容体と結びつく体内物質のアナンダミドを発見し、ヒンドゥー教徒のチームの一員が至福を意味するアナンダから名付けた[2][3]。1993年には、カンナビノイド受容体タイプ2(英語版)(CB2受容体)が発見される[1]

メコーラムは大麻の成分は単一というより、彼のいう「取り巻き効果」によってほかの成分とで効果が高まるとみており、今後の研究が望まれる[3]
分類

メコーラムは、アルキルレゾルシノールモノテルペンが結合したものをカンナビイドと定義している[5]。カルボン酸のあるものが酸性カンナビノイド、ないものは中性カンナビノイドに分類される[5]

近年ではメコーラムの定義に合わない化合物にもカンナビノイドとされる[5]。アサに含まれるカンナビノイドをフィトカンナビノイド、それ以外の誘導体や関連物質を合成カンナビノイドと呼ぶ[6]
分布

カンナビノイドは、アサの葉や種子皮に蓄積し、茎、根、種子にはほとんどない[5]。あるアサでは、若い葉で3-5パーセント、成熟した葉で1-2パーセントのテトラヒドロカンナビノール酸(英語版) (THCA) が含まれており、種子皮には8-10パーセントと高容量に含む[5]。種子皮は、俗にバッズと呼ばれる花穂に豊富に含まれる[5]
医療用途「医療大麻」も参照

カンナビノイドは人体内におけるエンドカンナビノイドシステムにより、癌をはじめとする多くの疾病に対して顕著な治療効果を持つ[7]

カンナビノイドは、脳の扁桃体にあるCB1受容体の働きを促進させることにより、恐怖体験などにおいて発症したトラウマの症状を軽減する効果を持ち、PTSDを始めとするトラウマによる疾患を治療するための薬としても使用されることがある。

合成カンナビノイドは、14種類が副作用から治験中に中止しており、逆にカンナビノイドの作用を阻害したリモナバンでは自殺の副作用から市場を撤退しており、天然のTHCを含んだサティベックス、THCを合成したマリノールが医薬品となっており、ナビロンが唯一THCに似た誘導体である[8]
作用

時間や空間感覚の変調をもたらし、多幸感鎮痛といった作用を生じる。大麻の有効成分であるテトラヒドロカンナビノール (THC) は強い陶酔作用をもたらす。CBDはTHCのこの精神作用を阻害し、抗痙攣作用、鎮静作用、鎮痛作用がある。
CBD入り健康食品メーカーでは、海外からCBDを輸入し、麻薬成分のテトラヒドロカンナビノールが検出されないことを確認してから、国内で健康食品や化粧品に加えて販売している。
生理的作用

カンナビノイド類は、特異的受容体のカンナビノイド受容体を介して作用する。カンナビノイド受容体としてCB1およびCB2受容体がこれまで同定されている。

THCは、アルツハイマー病の症状に対して神経保護作用を有するとみられている[9]
薬理作用

オハイオ州立大学の研究者は、25年以上にわたり、ラットの脳の炎症を軽減し認知機能を回復させる薬を探索してきたが、カンナビノイドが唯一の種類であると述べている[10]

Δ9-THCはAChEの競合阻害作用(Ki=10.2μM)、ブチリルコリンエステラーゼ (BuChE) の阻害作用(IC50=100μM)を有する[11]。「大麻と記憶(英語版)」も参照
内因性カンナビノイド

CB受容体の内在性リガンド(体内に存在するカンナビノイド様物質)として、2-アラキドノイルグリセロール (2-AG) やパルミトイルエタノールアミド (PEA) などが発見されている。

ミノサイクリンは、細胞外の2-AGの濃度を低下させ、PEAの濃度を増加させる[12]。詳細は「アナンダミド#カンナビノイド受容体」および「内因性カンナビノイドシステム(英語版)」を参照
合成カンナビノイドの薬理機序
カンナビノイド2受容体
カンナビノイド受容体タイプ2
(英語版) (CB2受容体) をノックアウトしたマウスは、長期記憶の前後関係を損ない、空間作業記憶を増強する。CB2受容体は、主に免疫機能に関与するだけでなく、統合失調症うつ病などの精神疾患に関与している。CB2受容体のノックアウトとは対照的に、C57BL/6JマウスにおけるAM-630(英語版)[注 1]によるCB2受容体の急性遮断は、記憶・運動活性・不安に影響を及ぼさなかった[13]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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