カレワラ
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『アイノ』(アクセリ・ガッレン=カッレラ、1891年) - ワイナミョイネンは乙女アイノに求婚するが、アイノはそれを厭って見知らぬ海辺で溺れ死ぬ

『カレワラ』(Kalevala、カレヴァラ) は、カレリアフィンランドの民族叙事詩[1]19世紀に医師エリアス・リョンロート(Elias Lonnrot, 1802年 - 1884年)によって民間説話からまとめられた。フィンランド語文学のうち最も重要なもののうちの一つで、フィンランドを最終的に1917年ロシア帝国からの独立に導くのに多大な刺激を与えたとされている。名称は「カレワという部族の勇士たちの地」の意[2]

リョンロートによる『カレワラ』は、1835年に2巻32章からなる叙事詩として出版され、当時の知識人階級に大きな衝撃を与えた。その後、それを増補し、1849年には全50章からなる最終版として出版した。[3]

フィンランドの作曲家ジャン・シベリウスは『カレワラ』に影響を受けた音楽を多数作曲しているほか、文学、絵画など、フィンランドのさまざまな文芸に影響を与えた。[4]
成立の過程

フィンランドに独特の伝説や伝承が多数存在することは17世紀ころから知られ始め、18世紀には多くの研究が行われるようになった。1809年、フィンランドがロシア帝国に編入されたことを契機に民族意識が高まり、民族に特有の伝承が、固有の文化として認識されるようになった。

そうした中、エリアス・リョンロートがこの分野の研究を始めた。まず1827年に『ワイナミョイネン・古代フィン人の神格』という博士論文を発表[5]。その頃から民族詩の採集旅行を行った。何度かの旅行の後、北フィンランドのカヤーニに医師として赴任、そこを本拠地に歌謡の収集を精力的に行った。1833年アルハンゲリスクのブオッキニエミで大量の歌謡を採集した。これによってサンポにまつわる物語の大部分がそろい、彼はこれにレンミンカイネンの物語と結婚歌謡をまとめ、『ワイナミョイネンの民詩集』として発表した。これは後に「原カレワラ」と呼ばれるようになった。

彼は翌年もその地を訪れて多くの歌謡を収集し、原カレワラを補修改訂して『カレワラ・フィンランド民族太古よりの古代カレリア民詩』を発表(1835年)、これは「古カレワラ」と言われる。彼はその後、調査地域を広げ、ラップランドや南カレリア、イングリアなどからも民詩を採集、それまでのものを見直した。その後内容を増補した『カレワラ』が1849年に発表された(新カレワラ)。これが現在カレワラとして知られているものである。
リョンロートによる創作.mw-parser-output .ambox{border:1px solid #a2a9b1;border-left:10px solid #36c;background-color:#fbfbfb;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .ambox+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+link+.ambox{margin-top:-1px}html body.mediawiki .mw-parser-output .ambox.mbox-small-left{margin:4px 1em 4px 0;overflow:hidden;width:238px;border-collapse:collapse;font-size:88%;line-height:1.25em}.mw-parser-output .ambox-speedy{border-left:10px solid #b32424;background-color:#fee7e6}.mw-parser-output .ambox-delete{border-left:10px solid #b32424}.mw-parser-output .ambox-content{border-left:10px solid #f28500}.mw-parser-output .ambox-style{border-left:10px solid #fc3}.mw-parser-output .ambox-move{border-left:10px solid #9932cc}.mw-parser-output .ambox-protection{border-left:10px solid #a2a9b1}.mw-parser-output .ambox .mbox-text{border:none;padding:0.25em 0.5em;width:100%;font-size:90%}.mw-parser-output .ambox .mbox-image{border:none;padding:2px 0 2px 0.5em;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-imageright{border:none;padding:2px 0.5em 2px 0;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-empty-cell{border:none;padding:0;width:1px}.mw-parser-output .ambox .mbox-image-div{width:52px}html.client-js body.skin-minerva .mw-parser-output .mbox-text-span{margin-left:23px!important}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .ambox{margin:0 10%}}

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カレワラはフィンランドの伝承に基づくものではあるが、口承そのままではない。リョンロートは、それらの歌謡や民詩を適当に取捨選択しただけでなく、全体がひとつながりの物語となるように配置し、互いの整合性や連続を持たせるように編集したり、名前を変えたり、時には自分で創作した詩句によって埋めたりもしている。カレワラ全体における彼の創作は、一説によれば約5%と言われる。

この点については、やや注意を要する。芸術作品として見る場合、このことはなんら問題ではない。彼の創作した部分も違和感なく全体に収まっているとの評価である。ただし、そのためにストーリー展開に無理が生じている部分もある。たとえば結婚歌謡の部分など、物語としてはイルマリネンが遂に嫁をもらって、それを連れて実家に帰るだけの部分に5章も費やしている。これは民謡を採取保存するという目的には適っているが、物語の展開としてはくどく感じられる。他方、これを神話や伝承として見る場合には、場合によっては本来の意味と異なっている場合が少なくない。そのような観点から、カレワラを民俗誌として読むときには、上記の点に留意しておかねばならない。
登場人物

カレワラには実に多くの名前が登場する。なかには一度だけ登場するものもあり、何度もあちこちに顔を出すものもある。人間のように扱われているものもあれば、神、あるいは精霊として扱われるものもある。なお、カレワラでは口調を整える目的もあり、固有名詞に対してお決まりの簡潔な形容が二つ名前のようにつく例が多い。以下、各論において名前の後の「」がそれである。訳は参考にあげた岩波文庫版(小泉訳)による。
神的なもの

として名が出るのはウッコである。
ウッコ
「至高の神」 フィンランド語で ukkonen は「雷」のことで、ウッコは老人の姿をした雷神でもある[6]

このほかに明確に神として名の出るものはいない。

明らかに人間ではなく、より神に近い存在としては、大気の乙女や水の乙女として時々姿を現す女性たちがある。イルマタルの他にも、例えば鉄の起源の呪文にも3人の乙女がその乳を零したものが鉄となったとの言葉がある。
イルマタル
ワイナミョイネンの母。「大気の乙女」であったが海に降りて彼を生んだ。

悪魔に近い扱いをされているのがヒーシである。
ヒーシ
本来は犠牲を捧げる森のことであったらしいが、次第に人の近寄れない森、恐ろしい場所、と云ったふうに意味が変わり、人に悪さをする存在を意味するようになったようである。
人間的なもの

主要な登場者は人間のように描かれながらも超人的な能力をもつ。特に全編を通じて主役格を張るワイナミョイネン、イルマリネン、レンミンカイネンは、人びとの中で人間のように暮らし、嫁を求めたりするが、普通の人のできないことを行い、時には多くの人間を率いて活動する。この範囲では人間の中の英雄と見ることができる。他方で魔法の力などにおいては超人的なものがあるが、この物語の中では一般の人びとも魔法を使うから、特に非人間的特徴と見なすことはできない。

しかし、例えばイルマリネンは天の覆いを打ち出したと言われるように、この三者の業績とされるものには創世に関わるような神の業に近いものが含まれている。これらについては、カレワラを神話と見るか、伝説と見るかで判断が分かれる。前者的な立場で見れば、これらの登場者は神であり、自然現象などの象徴であると見なせる。後者の立場に立てば、これらの人物の多くは人間であり、実在の人物や複数の人物を元に創造されたものと考えられる。実際にはこのどちらであるかは論の分かれるところが多い。『サンポの防衛』(アクセリ・ガッレン=カッレラ、1896年) - ポホヨラのサンポを盗み出したワイナミョイネンを襲撃する魔女たちと、それに応戦するワイナミョイネン
ワイナミョイネン [ワイナモイネン、ヴァイナモイネン](Vainamoinen):「強固な老ワイナミョイネン」「不滅の賢者」
白い髭を長く伸ばした逞しい老人である。広大な知識と魔法の力を持ち、大胆で判断力にも優れる。多くの伝承や呪文の中で最大の英雄である。また歌の最後に彼の言葉として教訓がつく例が多い。語源的にはワイナは、「深く、静かに流れる川」の意であること、彼が海中で生まれ、大渦巻きに姿を消すことなどから、「水の主」という性格を読み取る向きもある。世界の創造も、元の伝承では彼によるものである。
イルマリネン (Ilmarinen):「不滅の匠」
鍛冶屋で、壮年。鍛冶屋としては特別な腕をもち、天の覆いを打ち出したと言われる。カレワラの中ではサンポを鍛えた他、ワイナミョイネンなどが必要な道具を彼に作ってもらうシーンが多い。魔法の腕も優れている。しかし、やや軽はずみな面があり、作ったものが役に立たない場合(月日、黄金の花嫁など)もあった。神的性格としてみると、ワイナミョイネンが水の神、イルマリネンは天空の神に当たるとする説もある。
レンミンカイネン (Lemminkainen):「かのむら気なレンミンカイネン」「端麗なるカウコミエリ」
若者である。男前で、武術の腕も、魔法の腕も特級、そのうえに女たらし。しかもわがままで身勝手、そのためにあちこちで騒ぎを起こし、災難にも会う。本来の伝承中ではそれほど出番が多いわけでなく、カレワラ中の彼に関する物語は、他の名のもとで伝えられたものを集めたものらしい。
クッレルヴォ (Kullervo)「カレルヴォの息子」「老人の青い靴下の息子」
ウンタモに滅ぼされたカレルヴォ一族の女がウンタモのところで産み落とした男子。飛びきり力に優れるが、まともなことが絶対に出来ない。これは、彼が正しい育て手の下で育てられなかったからである。クッレルヴォの物語は、本来はカレワラのそれ以外の部分とは孤立していたものであるが、彼が殺した主婦をイルマリネンの妻にすることで、リョンロットがカレワラの中にうまく取り込んでしまったものである。また、壊れた刀を親の形見とした部分もリョンロットの創作であり、その結果、クッレルヴォは粗暴で残虐な人物から悲劇の主人公へとその姿を変えている。彼は力がありすぎるのにそれを使う知恵が育っていない。だから船をこげば櫂受けを壊し、船を壊すし、網打ちをすれば網ごと粉砕する。


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