カルニチン
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カルニチン

IUPAC命名法による物質名
IUPAC名

3-ヒドロキシ-4-トリメチルアンモニオブタン酸

臨床データ
投与経路経口、経静脈(IV)
薬物動態データ
生物学的利用能10%以下
血漿タンパク結合なし
代謝わずか
排泄尿(> 95%)
識別
CAS番号
406-76-8 (DL体)
541-15-1 (L体)
ATCコードA16AA01 (WHO)
PubChemCID: 10917
DrugBankAPRD01070
ChemSpider282
KEGGC00487 (DL体)
C00318 (L体)
D02176 (L体、医薬品)
化学的データ
化学式C7H15NO3
分子量161.199 g/mol
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カルニチン(carnitine)は、生体において脂質の代謝に関与するビタミン様物質である。カルニチンはヒトの生体内でATP産生などに関わるものの、その必要量や、意図的な摂取の必要性の有無、有害性の有無などについては、議論が有る。ただし、条件によってはヒトでカルニチンの欠乏症が発症し得ることも知られており、医薬品として用いられる場合もある。[要出典]。
構造

カルニチンは3位の炭素、すなわち、水酸基が結合している炭素がキラル中心であるため、1対の鏡像異性体が存在する。鏡像異性体を区別する場合に、カルニチンの場合は、古くからの慣習で、他の化合物のフィッシャー投影式を基準とした、LとDで区別される場合が多く、しばしば、D-カルニチンとL-カルニチンとして区別される。また、これらの等量混合物であるラセミ体は、しばしばDL-カルニチンと呼ばれる[注釈 1]

分子内に常に正に帯電した4級アンモニウムを持ち、加えてカルボン酸でもある。

なお、時にカルニチンは「アミノ酸の誘導体」と説明される場合があるので、誤解の無いように断っておくと、その構造から明らかなように、カルニチンは、アミノ酸ではない。
L-カルニチンの生合成L-カルニチンの生合成の過程「カルニチンの生合成(英語版) 」も参照

L-カルニチンはヒトの体内で生合成されるため、ビタミンではない[1]。L-カルニチンは、ヒトにとっての必須アミノ酸であるリジンメチオニンの2つのアミノ酸から、肝臓腎臓において生合成される生体成分である[2]。このため、カルニチンは「アミノ酸の誘導体」などと説明される場合もあるものの、カルニチンは、構造的に広義のアミノ酸の定義にすら該当しない物質である。

ヒトの体内においては、L-カルニチンの生合成の開始物質は、リジンである。まず、メチオニンはS-アデノシルメチオニンに変換され、メチル基転移酵素の力を借りて、リジンの側鎖のアミノ基へと、S-アデノシルメチオニンが持つメチル基を転移させる。この部分が、カルニチンの4級アンモニウムの部分である。さらに続く反応で、今度は別な酵素の力を借りて、リジンの側鎖に水酸基が、立体選択的に付与される。つまり、ここでL体になる事が運命付けられる。この後も複数の段階で、別な酵素の力を借りて加工されてゆく事から明らかなように、要するに、カルニチンはリジンの側鎖の誘導体と説明できる[注釈 2]

ヒト体内でのL-カルニチンの生合成のためには、原料のリジンと、メチル基供与体のS-アデノシルメチオニン以外に、ビタミンCビタミンB6ナイアシンが体内に不足すると、酵素の反応に支障を来たす場合がある。
役割

L-カルニチンは、生体内で脂質を燃焼してエネルギーを産生する際に、脂肪酸β酸化する場であるミトコンドリア内部に運搬する役割を担う。体内では骨格筋心筋などに多く存在し、筋肉細胞で遊離した長鎖脂肪酸のミトコンドリアへの受け渡しなど、脂質の代謝に重要な働きをしている[2]

ミトコンドリアに輸送された脂肪酸は、β酸化を受けて次第に炭素鎖が短く切断され、酢酸にまで分解されてゆく。そして、β酸化によって生成したアセチルCoAは、ミトコンドリア内でのTCAサイクルを通じて、ATPやGTPの合成のため、または、体温の産生のためなどに使用される。しかし、長鎖脂肪酸はL-カルニチンと結合していないと、ミトコンドリア膜を通過して、β酸化が行われる、ミトコンドリアのマトリクスまで到達できないのである。これに対して、中鎖脂肪酸はL-カルニチンと結合せずにミトコンドリア膜を通過できることが知られている。しかし、L-カルニチンと結合されてミトコンドリア内部に運搬されている中鎖脂肪酸も存在する。参考までに、脂肪酸にL-カルニチンを結合させる反応は、ミトコンドリア膜に存在する酵素により触媒されている。ミトコンドリア膜を脂肪酸が通過する際の反応。

(1) 細胞質で遊離していた脂肪酸は、外膜に存在するLCASによって、CoAと結合させられ、アシルCoAに変換される。
(2) 外膜は様々な物質を通過させるためのポリンが存在し、比較的簡単に通過できる。これに対して、内膜は物質をあまり透過させず、アシルCoAは内膜を通過できない。
(3) アシルCoAは外膜に存在するCPT-Tによって、CoAが取り外され、代わりにL-カルニチンが結合させられ、アシルカルニチンに変換される[注釈 3]
(4) アシルカルニチンは、CACTを通して内膜を通過し、ミトコンドリアのマトリクスへ運搬される。
(5) アシルカルニチンは、内膜の内側に存在するCPT-Uによって、L-カルニチンが取り外され、代わりにCoAが結合され、再びアシルCoAに変換される[注釈 4]
(6) ミトコンドリアのマトリクスに入ったアシルCoAは、β酸化が行われ、分解されてゆく。一方で、取り外されたL-カルニチンは、内膜を通過し、再び脂肪酸の輸送などに使用される。

ただし、先天性カルニチン欠乏症、CPT-T欠乏症、CPT-U欠乏症、CACT欠乏症の場合には上述のステップとは異なる。

なお、脂質代謝に利用されるのはL-カルニチンのみであり、鏡像異性体であるD-カルニチンは活性が無いとされている。むしろ、D-カルニチンは、競合的にL-カルニチンの活性を阻害すると考えられている[2]

これ以外に、脂肪酸に類似した分子で、生体にとって不要な分子を、L-カルニチンに結合させて、L-カルニチンの水溶性を利用しつつ、尿中に排泄する役割も持つ。
カルニチンが含まれる物
食品中のカルニチン含有濃度

カルニチンは、哺乳類の赤身の肉に、特に高濃度で含まれている[3]。通常は、肉の色が赤ければ赤いほど、カルニチン含有濃度が高い傾向にある[4]。特にカルニチンが多い畜肉は、草食動物由来で「幼畜よりも成畜」の肉と考えられる[5]

なお、他にも、魚介類の一部などの動物性食品には比較的高い濃度で含まれている。また、牛乳にもカルニチンが多少は含まれており、乳製品では、カルニチンは主にホエー画分に含まれる[4]。逆に、植物性食品のカルニチンの含有濃度は、低い傾向にある。したがって、同じ量を食べた場合には、動物性食品を食べた方が多くのカルニチンを摂取できる傾向にある。

食材中のL-カルニチン含有量の分析値[注釈 5]食材mg/kg脚注
ヤギ2210[6]
仔羊
(ラム)1900[6]
鹿肉1174[7]
牛肉1180[6]
豚肉274[6]
鶏肉80[6]
ロブスター270[6]
岩ガキ243[6]
鯨肉134[7]
牛乳55[7]
ヨーグルト41[6]
牛乳40[6]
マグロ34[6]


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