カルスト
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カルスト台地(秋吉台タワーカルスト(桂林カレンフェルト(ツィンギ・デ・ベマラ

カルスト地形(カルストちけい、ドイツ語: Karst)とは、石灰岩などの水に溶解しやすい岩石で構成された大地が雨水地表水土壌水地下水などによって侵食(主として溶食)されてできた地形(鍾乳洞などの地下地形を含む)である。化学的には、空気中の二酸化炭素を消費する自然現象である。

広義には、クロアチアのプリトヴィツェ湖群国立公園や中国の九寨溝、トルコのパムッカレ、アメリカのイエローストーン国立公園などの、大量の石灰分を溶解した地下水や温・熱水から石灰華が大規模に再沈殿して作り出される地形も、カルスト地形に含まれる。これらの場合、基盤地質が石灰岩であるとは限らず、化学的には空気中に二酸化炭素を放出する。

また、石灰岩チョーク(白亜)、泥灰岩白雲岩ドロマイト)などの炭酸塩岩以外にも、蒸発岩類(石膏岩、岩塩など)には溶食性の地形が大規模に形成されることがあり、カルスト地形に含められる。空気中の二酸化炭素量の増減には関係しない。
概説ロシア連邦ボグドゥー・バスクンチャク自然保護区(英語版)のシンギングロック。風が流れ込むと音を発する。

岩石はごく微量であるが水に溶解する。その溶解性は岩石を構成する鉱物種の化学性によって大きく異なる。石灰岩は大体において石灰質の殻をもつ生物の遺骸が海底に厚く堆積して生じたものであるが、鉱物学的には主として方解石炭酸カルシウムCaCO3)からなり、他の岩石に比べて酸性水に対する溶解性が非常に高い。地表流によって削り取られる侵食が作用することももちろんあるが、そのような侵食作用が働かない所でも、炭酸の作用による溶食で石灰岩が少しずつ水に溶け、地表にはドリーネが、地下には鍾乳洞が発達する特異な地形が生じていく。こうして生じた地形をカルスト地形と呼んでいる。

炭酸を生じる二酸化炭素の主要な供給源は土壌である。一般に高温湿潤な地域ほど土壌中の微生物活動が活発なため、二酸化炭素の生産量が大きく、また降水も豊富なため、カルスト地形の発達が激しく、石灰岩が高い尖塔/柱状、あるいは塔状、円錐状に残る地形が生まれる。カルスト地形を形成する岩石には、石灰岩のほかに苦灰岩(白雲岩)や石膏岩などがあるが、後二者のカルスト地形は日本では見られない。
語源

カルストという語は、スロベニアのクラス地方(岩石を意味する古代の地方名Carusadus、Carsusに由来)に語源がある。この地方には中生代白亜紀から新生代第三紀初頭にかけて堆積した石灰岩が厚く分布し、溶食による地形が広く見られるが、地政的にスロベニア語でKras、ドイツ語でKarst、イタリア語ではCarsoと呼ばれてきた。とくに1893年のヨヴァン・ツヴィイッチ(英語版)によるドイツ語論文「Das Karstphanomen」によって、同種の地形を表す呼び名として「カルスト」がヨーロッパで広く使われるようになり、世界的に定着した[1]
地表地形チョコレートヒルズの円錐カルスト

土壌による被覆が少なく、石灰岩の露岩が主の地帯を裸出カルスト、逆のものを被覆カルストという。石灰岩の構成成分は大部分が風化(溶食)により流れ去ってしまうため、日本のような純度の高い石灰岩では土壌構成鉱物の微粒子が生成しにくく、石灰岩起源の風化残留性土壌(テラロッサ)の蓄積が少ない。

ナンテンやビワ、アザミなどの好石灰岩植物がよく見られる反面、ツツジやシイなどは石灰岩質の土壌を嫌うせいか、ほとんど生育していない[2]。しかし地域によっては長い地質時代の間に、風成のレス(黄土)や降下火山灰が厚く堆積し、それらが温暖湿潤な気候のもとで土壌化した赤茶色の土壌が見られることもある。そのようなところでは一般的な森林の発達も良い。一般に土壌の発達が少なく、かつ岩盤中の浸透水も流れやすいという性質を併せ持つため、カルストの山地は一般に保水性が悪い。このため植物群落の発達が限定されることがあり、森林が形成されず草原となっている例が多い。

地表地形の特徴により、多角形カルスト、コックピットカルスト、円錐カルスト、円頂カルスト、塔カルストなどの、気候や場所等の違いにより、乾燥カルスト、地中海カルスト、亜熱帯カルスト、熱帯カルスト、海岸カルスト、高山カルスト、温水カルストなどの総称語がある。
ドリーネ

雨水が石灰岩の割れ目に沿って集中的に地下に浸透する過程で周囲の石灰岩を溶かすため、地表にはドリーネ(doline: 擂鉢穴・落込穴; 語源はスロベニア語の谷、米語ではほかにsinkhole)と呼ぶすり鉢型の窪地が多数形成される。直径は10mから1,000m、深さは2mから100mくらいである[3]。ドリーネは地下の空洞の天井部が陥没することによってもできるが、このような陥没型のものは側壁が急で、グラス形や湯呑み形が多い。沖縄県宮古島市下地島通り池は、陥没ドリーネに海水が浸入した例である[4]

ドリーネが徐々に拡大して隣り合った複数のドリーネがつながってより大きな窪地に成長したものがウバーレ(uvala: 連合擂鉢穴; 語源はセルボクロアート語)である。地下水位が浅くあるドリーネでは、豪雨時に一時的なドリーネ湖が生じることがあり、珍しい(代表例: 秋吉台の帰水ドリーネ)。

雨水がドリーネを通じて地下に流入するため、一般には地上に川が生じない。そのため他種岩石の地帯のように、谷による地表地形の侵食が起こらない。地下に浸透した雨水はやがて割れ目に沿って集まり、地下川をなし、大小の洞窟をつくりながら下流へと流れ、山麓に開口した洞窟や湧泉から再び地上へと現れる。
ピナクルとカッレンフェルト羊群原の石灰岩柱(平尾台

ドリーネと共に地表には、土壌水の溶食から溶け残った石灰岩の突出部(石灰岩柱[5] / ラピエ岩柱[6]; ピナクル pinnacle)が無数に土壌中から顔を出す。古く日本ではこのような地形を「石塔原」や「墓石地形」と呼んだ。通常、石灰岩柱は雨水による溶食でギザギザと尖っていることが多いが、熱変成をうけた結晶質の石灰岩(大理石)では石灰岩柱は丸みを帯びた形を成す。福岡県の平尾台にはこのような円頂型石灰岩柱が無数に発達し、これらを羊群に例えて、それらが特徴的によく発達した地域を羊群原と呼んでいる。

石灰岩柱の表面や、石灰岩柱の間の土壌に埋もれた潜在部には、雨水や土壌水の溶食によって形成された小溝が多く生じ、カッレン(karren; 語源は独語の車の轍)と呼ばれている。石灰岩柱が林立し、カッレンがたくさん生じた小起伏の地形は、カッレンフェルト(karrenfeld)と呼ばれている。
カルスト台地秋吉台のカルスト地形

上述したカルスト地形の形成は、気候の影響(二酸化炭素生産量や降水量)が大きいが、一般には起伏量の小さい地帯で教科書的に進行し、カルスト台地をつくっていることが多い(西南日本内帯の秋吉台平尾台阿哲台、帝釈台など)。また南西諸島には、隆起サンゴ礁からなる段丘地形を示すカルストが多くみられる。いずれも溶食によって原面よりも低下してはいるが、その平坦な地形は原地形の平坦性、例えば西南日本内帯の例では中新世吉備高原面(隆起準平原)、南西諸島の例では過去の礁原面に由来するといわれる。

地下川のもつ流域面積が分かれば、カルストから流れ出る地下川水に溶けている石灰分の量を測定し、溶食によって原地形が時代とともに低くなる速度を推定することができる。世界各地で行われた研究から、降水の多寡によって異なるが、中緯度帯の多くの場合に1万年で0.2?1.2m厚さの石灰岩が地表から溶食されると推定されている[7]。山口県秋吉台の場合、1万年で0.5?0.6mという[8]

逆に起伏量の大きい地帯では、石灰岩の地塊はしばしば急斜面や急崖をもち、上部にカッレンフェルトやドリーネをもつこともある独立峰的な高い山をつくる(四国カルストや青海カルスト、伊吹山霊仙山藤原岳武甲山、碁盤ヶ岳など)。地域によっては、頂上部に平坦面を残すことがある。

これは地表流が生じないという特性に加えて、石灰岩が化学的溶食性を有する反面、他種の岩石に見られるような化学風化を受けないために、軟岩化が進まず、岩盤としての抗侵食性が大きいためである。起伏量の大小を決めるものは、最近の地質時代における隆起速度とその継続時間、ならびに河川侵食の進行度(降水量や隆起後の経過時間、海岸からの距離、下流域の地質による)である。
カルスト谷

カルストの山地には一般に地表流は見られないが、低地には非石灰岩地帯から流れ込んでくる外来の川や、カルストの地下水が洞窟や湧泉から流れ出る川などがあり、これらの河谷にはポノール(吸込穴・飲込穴・嚥穴)や湧泉、洞窟跡、天然橋、岩壁、石灰華の滝など、独特の景観が見られる。谷壁が急峻で、峡谷状を呈することが多い。

他生谷: カルスト地帯の上流の非石灰岩地帯から流れ込んでくる外来の河川(代表例: 秋吉台厚東川、帝釈台の帝釈川阿哲台高梁川)。

盲谷(もうこく): 尻無谷とも。上流からの河流がポノールに潜入し、谷地形がそれよりも下流へ続かず、行き止まりになった谷(代表例: 平尾台の芳ヶ谷、秋吉台三角田川沖永良部島の余多川)。


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