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コリントスの黒絵式壺絵 紀元前580年ごろ ルーヴル美術館
カリュドーンの猪(カリュドーンのいのしし、英語:Calydonian Boar)はギリシア神話に登場する巨大な猪。長母音を省略してカリュドンの猪とも表記する。アイトーリアのカリュドーン王オイネウスが生け贄を忘れたために女神アルテミスの怒りを買い、この猪が放たれたとされる。ギリシア全土から勇士が招集され、猪は退治されたが、このことがオイネウスの息子メレアグロスの死につながった。
概要カリュドーンの猪狩りを表した古代ローマの浮彫 オックスフォードアシュモリーン博物館
カリュドーンの猪の由来については、一般には女神アルテミスが野に放ったとする以上の伝えはない。ストラボンは、この猪をクロムミュオーン地方を荒らした雌猪パイア(エキドナとテューポーンの子ともいわれ、テーセウスによって退治された)の子であるとしている[1]が、他にこの説を採り上げるものがない[注釈 1]。イギリスの詩人ロバート・グレーヴスは、その著書『ギリシア神話』のなかで、猪は三日月型の牙を持つことから月の聖獣とされ、同時にアレースの聖獣でもあるとする[注釈 2]。
カリュドーンの猪を退治するためにギリシア全土から勇士が集まった。狩りは、犠牲者を出しながらも猪を仕留めることに成功する。しかし、猪退治の功績をだれに帰するかについてメレアグロスと彼の伯父たちとの間で争いとなった。メレアグロスは伯父たちを倒すが、母アルタイアーに呪われ、彼の寿命とされた薪を燃やされて死んだ。
このような英雄たちの集結は、ギリシア神話中でもイアーソーン率いるアルゴナウタイ及びトロイア戦争などでも見られ、物語の登場人物の関連から、時系列的には「アルゴナウタイ」の後、「テーバイ攻めの七将」やトロイア戦争以前に位置する。
この神話は「カリュドーンの猪狩り」として、古代ローマでは彫刻の題材として好んで採り上げられた。後世においても著名な神話のひとつであり、バロック期のピーテル・パウル・ルーベンスやドメニコ・ヴァッカーロ
、現代ではパブロ・ピカソなどが絵画や挿絵の題材としている。この物語についてロバート・グレーヴスは、「たぶん有名な現実の猪狩りと、それが原因になって生じたアイトーリアの部族間の仲違いをもとにした英雄伝説だろう」としている。猪によって聖王が死ぬ、というテーマは、同じギリシャのアドーニスの神話の他にもエジプト神話でオシーリスが猪に姿を変えたセトに殺される話があるなど古くからあり、このため、同じ運命によって倒れたさまざまなギリシア都市国家の英雄がこの物語に持ち込まれているとする。
ハンガリーの神話研究家カール・ケレーニイは、その著書『ギリシアの神話 英雄の時代』のなかで、この物語に登場する英雄メレアグロスの死は、早い、不当な死の物語として思い出され、アッティカの石碑の上に一人の若い死者が夢見る狩人として立っている像があれば、それは決まってメレアグロスであるとする。 ここでは主としてアポロドーロス及びロバート・グレーヴスにしたがった。 カリュドーン王オイネウスは、ある夏、オリュンポスの神々の生け贄を捧げる際に、アルテミスを忘れてしまった[注釈 3]。
神話
発端