カジュアル・ベイカンシー_突然の空席
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カジュアル・ベイカンシー 突然の空席
The Casual Vacancy
著者
J・K・ローリング
訳者亀井よし子
発行日 2012年9月27日
2012年12月1日
発行元 リトル・ブラウン・カンパニー
講談社
ジャンルフィクション
悲喜劇
ブラックユーモア
イギリス
言語英語
形態 四六変型
ページ数 503
414(I・IIともに)
公式サイト ⇒講談社特集サイト
コード
I:ISBN 978-4-06-218022-1
II:ISBN 978-4-06-218023-8

ウィキポータル 文学

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『カジュアル・ベイカンシー 突然の空席』(カジュアル・ベイカンシー とつぜんのくうせき、原題:The Casual Vacancy )は、イギリスの作家J・K・ローリング2012年に発表した長編小説。リトル・ブラウン・ブック・グループより2012年9月27日に世界で同時発売され、日本では同年12月1日に発売された。『ハリー・ポッターシリーズ』終了後第1作であり、ローリングが初めて大人向けに執筆した作品である[1]。タイトルの「カジュアル・ベイカンシー」とは「偶発的な空席」を意味する政治用語で、議会や委員会を構成するメンバーの突然の死亡や辞任により、議席に思いがけなく空席が生じること。

物語の舞台は、パグフォードというイギリス西部の郊外の架空の町で、誰からも好かれていたパリッシュ・カウンシル議員バリー・フェアブラザーが急死するところから始まる。彼の死により空席となった議席の後任を決める選挙を巡って、住人たちの間に衝突が起こる。特に、バリーが生前支援していた貧困層向けの住宅街フィールズを財政上・治安上の理由でパグフォードから切り離すかどうかで派閥が生まれる。しかし、カウンシルのウェブサイトの掲示板で候補者たちが隠している秘密や後ろ暗いことが暴露され、噂が飛び交い、選挙は混乱に陥っていく。

主要なテーマは、社会階級、政治、薬物・売春・レイプなどの社会問題である。イギリス本国では、直近の3年で最速の売り上げを記録したほか、最初の1週間の売り上げはダン・ブラウンの『ロスト・シンボル』に次いで第2位、初週の売り上げでは2012年の15作目のベストセラー作品となった。発売から3週間で、イギリスとアメリカを合わせて英語版は100万部を売り上げた[2]

テレビドラマ化され、2015年2月15日にイギリス・BBCで、同年4月29日にアメリカ・HBOで放送された[3]
内容

巻頭には、ローリングが夫で医師のニール・マレーへの謝辞を述べている[4]。マレーが謝辞を受けるのは、ハリー・ポッターシリーズの第5作『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』、シリーズ最終作『ハリー・ポッターと死の秘宝』に次いで3度目である。

物語は7部構成となっており、語り手は限定されていない。各章の冒頭にはチャールズ・アーノルド=ベイカーの著書『地方自治体・自治組織の運営』の文章が引用されている。
あらすじパグフォードはローリングの生まれ故郷グロスタシャー・イェイトのような町

先述の通り、物語は7部構成となっており、第1部はパリッシュ・カウンシル議員のバリー・フェアブラザーが地元のゴルフ場の駐車場で動脈瘤で急死するところから始まる。住民たちはその衝撃的なニュースを友人や親戚に伝え合ううちに、話題はやがて〈フィールズ〉がどうなるのかという問題でもちきりになる。〈フィールズ〉は、麻薬(メサドン)中毒患者のリハビリ専用クリニックがあり、住民も中毒患者が多い地区で、他の地区の住民を財政上・治安上の理由で圧迫する〈フィールズ〉を町に残すか、上位自治体であるヤーヴィル市に移譲するのかという問題で町が混乱に陥っていく。

フェアブラザーの死による議会の空席を埋めるための選挙日が広報されると、立候補者たちの子供たちが各々の思惑で親のダメージになる文言を議会ウェブサイトの掲示板に書き込んでいく。サイモン・プライスの長男アンドルーは、“バリー・フェアブラザーの幽霊”というハンドルネームで父親が盗品の故買に手を染めていることを、授業でハッキングの知識を得ていたスクヴィンダー・ジャワンダはアンドルーの履歴を利用し同じハンドルネームで、母で医師のパーミンダーが夫がある身ながらバリーに恋をしていたことを、ファッツ・ウォールは副校長で養父のカビーが児童虐待の強迫神経症に悩まされていることを次々と書き込んでいく。しかしアンドルーは父を追い詰めた罪悪感から、カウンシルの議長でバイト先の店主ハワード・モリソンがビジネスパートナーのモーリーンと長年不倫関係にあることを暴露する。選挙は最終的にハワードの息子マイルズが勝利し、もはや夫への愛情が持てなくなってい妻サマンサにとっては不愉快な結果であったが、夫婦の和解のきっかけとなった。

物語のもう1つの側面は、クリスタル・ウィードンである。クリスタルは16歳で、売春婦ヘロイン中毒の母テリと、3歳の弟ロビーと〈フィールズ〉に暮らしている。ソーシャルワーカーのケイはテリに薬物摂取をやめさせ更生させ、ロビーの世話をしっかりさせようとするが、テリは結局堕落の道へと逆戻りし、クリスタルは母に麻薬を渡していたディーラーのオッボにレイプされてしまう。母と別れ、別の場所で新しい家族を作りたいと考えるようになったクリスタルは、妊娠を目論みファッツ・ウォールとセックスをするが、クリスタルが自分の目的に夢中になっている間に弟のロビーが川で溺れ死んでしまい、取り乱したクリスタルは母のヘロインを過剰摂取し自殺を図り、物語は2人の葬儀で幕を閉じる。
作中の舞台
パグフォード
物語の中心となる、イギリス南西部に位置する、中産階級が多く住む田舎町。独立自治区(パラ)に昇格すれば、議長は市長になることができる。地方自治組織議会(パリッシュ・カウンシル)は月に一度、ヴィクトリア朝様式の教会ホールで開かれる。一層制地方自治体(ユニタリー・オーソリティ)への権力の委譲や移行に関して反対し続けている。男女16名の地元住民で構成される議会はヤーヴィル地方議会傘下の自治組織議会の中でも最も強硬である。住民の多くはヤーヴィルの商店や企業などに勤め、休日もヤーヴィルの娯楽施設で過ごすが、ヤーヴィルに対して嫌悪と不信の念を抱いている。
ヤーヴィル
パグフォードに隣接する市。市南部に低所得者用住宅の建設を推し進めている。
エヴァツリー・クレセント
1930年代の平屋建ての家屋が三日月(クレセント)状に並んだ住宅地。パグフォードの本通りに面した広場(ザ・スクエア)から2分のところにある。36号にハワード・モリソンの家がある。
教会通り(チャーチ・ロウ)
ヴィクトリア朝様式の豪奢で堅牢な高級住宅地が並ぶ。中産階級が住む。通りの一番奥に旧司祭館がある。
広場(ザ・スクエア)
本通りに面し、平屋建て家屋も並ぶ商業地域。
希望通り(ホープ・ストリート)
かつては労働者階級が住み、今は小さなテラスハウス群が立ち並ぶ。10号棟にボードゥン家がある。
フィールズ
ヤーヴィルの郊外に不規則に広がる住宅団地。ヤーヴィルがフォーリーから買い取った草地を造成してできた団地。ヤーヴィルの低所得者層(生活保護受給世帯)を対象としている。一部の施設や設備の維持管理はパグフォードに委任されている。境界線見直し問題は議題に上っては消えを繰り返している。
ウィンターダウン総合中等学校
ヤーヴィルに入ってすぐのところにある。
パーゲターの丘
パグフォードとヤーヴィルを隔てる小高い丘。頂にパーゲター修道院の廃墟がある。
スウィートラブ館(ハウス)
パグフォードとヤーヴィルの中間地点のパグフォード寄りにある、アン王朝様式の荘園領主館(マナーハウス)。貴族スウィートラブ一族が受け継いできたが、
1900年代初頭に一族の血筋が途絶えて以降は、様々な人の手から手へと渡った。自分の町にある、という自尊心のようなものがパグフォードの住民たちの意識下にある。1950年代にスウィートラブ家の傍系の子孫との噂がある資産家のオーブリー・フォーリーが地所を買い取った。パグフォードの住民の信望を集めていたが、広大な敷地の草地の部分をヤーヴィル市に高値で売却し、パグフォードの怒りを買った。
セント・トーマス・イングランド教会付属初等学校
歴史ある石造り校舎やつややかな緑の校庭、小規模クラスなどが、パグフォードの住民たちが憧れる学校。レディ・シャーロット・スウィートラブが置いた礎石がある。青と白の制服着用が義務づけられている。
登場人物

書籍付属の登場人物一覧では、34人のキャラクターが紹介されている[5]
フェアブラザー家
バリー・フェアブラザー Barry Fairbrother
パグフォード地方自治組織議会(パリッシュ・カウンシル)議員。妻と食事に出かけた先で動脈瘤が破裂し急死する。44歳没。ウィンターダウン総合中等学校の女子
ボート部のコーチを務め、部員のクリスタル・ウィードンに特に目をかけていた。〈フィールズ〉で生まれ、セント・トーマス校を卒業した。銀行員。〈フィールズ〉とクリスタルの支援に心血を注いでいた。バリーの死でパグフォードの町全体が揺れることとなる。
メアリー・フェアブラザー Mary Fairbrother
バリーの妻。家庭よりも〈フィールズ〉やクリスタルを優先していた夫を苦々しく思っていた。


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