カエルツボカビ症
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1. カエルツボカビ症で死亡したカエル

カエルツボカビ症(カエルツボカビしょう、: chytridiomycosis)は、ツボカビ門に属する菌類の1種であるカエルツボカビ (学名: Batrachochytrium dendrobatidis) によって引き起こされる両生類感染症である(図1)。中米オーストラリアで両生類の大量死を引き起こしたことで、1998年に初めて認識された。カエルツボカビは両生類の皮膚でケラチンなどを栄養分として増殖し、皮膚呼吸など皮膚のさまざまな機能を阻害する。一般的な症状としては皮膚の脱落や変色、紅斑の発症、運動失調を示し、重症化すると死亡する。カエルツボカビは1本の鞭毛をもつ遊走子を形成・放出し、これが再び両生類の皮膚に感染する。世界的な両生類の減少の一因となっているが、東アジアでは大きな被害は見られない。カエルツボカビはもともと東アジアで両生類と安定的な関係を結んでいたが、人間活動によって世界中に広がり、抵抗性がない両生類に壊滅的な被害を与えていると考えられている。また、カエルツボカビの近縁種であるイモリツボカビ(Batrachochytrium salamandrivorans)は有尾類イモリサンショウウオ)のみに寄生し、オランダなどのファイアサラマンダーに大きな被害を与えた。
原因菌

カエルツボカビ
分類

ドメイン:真核生物 Eukaryota
:菌界 Fungi
:ツボカビ門 Chytridiomycota
:ツボカビ綱 Chytridiomycetes
:フタナシツボカビ目 Rhizophydiales[1]
:カエルツボカビ科 Batrachochytriaceae[2]
:カエルツボカビ属 Batrachochytrium
:カエルツボカビ B. dendrobatidis

学名
Batrachochytrium dendrobatidis
Longcore, Pessier & D.K. Nichols (1999)[1]
和名
カエルツボカビ、カエルツボカビ菌[3]

カエルツボカビ症の原因菌は、ツボカビ門ツボカビ綱の1種であるカエルツボカビ (学名: Batrachochytrium dendrobatidis) であり、1999年に新属新種として記載された[4]。属名の "Batracho-chytrium" はギリシア語の「カエル」(batracho)と「壺(つぼ)」(chytr; 生物学においてはしばしばツボカビ類を意味する)に由来し、種小名の "dendrobatidis" は、ヤドクガエル属 (Dendrobates) からの分離株が記載の際にタイプに用いられたことに由来する[5][4]。また、ファイアサラマンダーなど有尾類に寄生する近縁種が確認され、2013年にカエルツボカビ属の2番目の種、イモリツボカビ(サンショウウオツボカビ、Batrachochytrium salamandrivorans)として記載された[5]。ツボカビ綱の中には腐生性(生きていない有機物を栄養源とする)の種に加えて藻類菌類陸上植物ワムシ線虫昆虫などに寄生する種が知られているが、脊椎動物に寄生するものは、カエルツボカビ属と、淡水魚に寄生する Ichthyochytrium のみが知られている[6]2. カエルツボカビ属の生活環: (A) 遊走子、(B) シスト化した遊走子、(C) 仮根をもつ菌体、(D) 未成熟の遊走子嚢、(E) 放出管から遊走子を放出する遊走子嚢、(B1, B2; イモリツボカビのみ) 発芽管を通じた出芽的増殖

カエルツボカビは、細胞後端から後方へ伸びる1本の鞭毛をもつ遊走子によって増殖する[6](上図2A)。遊走子は球形から楕円形、直径はふつう3?5マイクロメートル (μm)、鞭毛長は 20 μm ほどである[4]。遊走子はケラチンやその主要構成アミノ酸であるシステイン、両生類の粘液構成糖に対して走化性を示すことが報告されている[6]。遊走子は両生類の皮膚に着生すると鞭毛を吸収し、細胞壁を形成してシスト化する[6](上図2B)。シスト化した細胞は発芽管を伸ばして角質層顆粒層の細胞内に侵入し、また仮根を形成して皮膚のタンパク質であるケラチンなどを分解・利用して成長する[6][5][7][6](上図2C, D, 下図3a)。遊走子嚢は細胞表面に外生、または細胞内に内生する[6]内臓などに侵入することはない[6]。菌体の本体はふつう単細胞のままであるが、ときに複数の細胞に分裂することもあり、前者は単心性(1個の遊走子嚢)の、後者は多心性(複数の遊走子嚢)の菌体になる[6](上図2E)。遊走子嚢内では、最大で300個ほどの遊走子が形成される[5]。遊走子嚢は放出管を形成し、これを通って遊走子が放出される[6][5](下図3b, c)。好条件では、着生した遊走子が発達して遊走子嚢になり、遊走子を放出するまで4?5日で完了する[5][6]

イモリツボカビの特徴も、上記のカエルツボカビとほぼ同様である(下図3a)。ただし、シスト化した遊走子から生じた発芽管の先に新たな菌体を形成することがあり(上図2B1, B2)、また遊走子嚢が多心性となることが多い[6][8]下記参照)。.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{display:flex;flex-direction:column}.mw-parser-output .tmulti .trow{display:flex;flex-direction:row;clear:left;flex-wrap:wrap;width:100%;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{margin:1px;float:left}.mw-parser-output .tmulti .theader{clear:both;font-weight:bold;text-align:center;align-self:center;background-color:transparent;width:100%}.mw-parser-output .tmulti .thumbcaption{background-color:transparent}.mw-parser-output .tmulti .text-align-left{text-align:left}.mw-parser-output .tmulti .text-align-right{text-align:right}.mw-parser-output .tmulti .text-align-center{text-align:center}@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{width:100%!important;box-sizing:border-box;max-width:none!important;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow{justify-content:center}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{float:none!important;max-width:100%!important;box-sizing:border-box;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow>.thumbcaption{text-align:center}}3a. イモリツボカビが寄生したファイアサラマンダーの皮膚3b. Atelopus varius の皮膚中のカエルツボカビの遊走子嚢: 矢頭は放出管(透過型電子顕微鏡像)3c. 放出管を形成中のカエルツボカビの遊走子嚢(走査型電子顕微鏡像)


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