オートバイ用エンジン
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ホンダ・スーパーカブのエンジン。50ccの横型単気筒エンジンだが、全世界通算で1億基以上が生産された記録を持つオートバイ用エンジンである。

オートバイ用エンジン(オートバイようエンジン)とは、オートバイへ搭載されるために設計された原動機である。

ガソリンエンジンが主流であるが、他の内燃機関や電動機なども存在する[1]
概要

実用性を重視した車種では、安価で低燃費かつ整備がしやすい、小排気量の単気筒エンジンが搭載される場合が多い。趣味性の高い車種では、排気量の大きな物や複雑な機構を採用した物などが採用され、エンジン特性や運転音、外観などに趣味性を求められる場合が多い。オートバイはエンジンが露出して搭載されている場合が多く、デザインの一部ともなっている。シリンダー構成やシリンダーヘッドの種別、冷却形式やエキゾーストパイプの構成などを外観から識別可能である。

1990年代以降に市販されているオートバイのエンジンはレシプロエンジンが主流で、小排気量のものも含めて4ストローク機関が採用される場合が多い。排気量が400cc以上の2ストローク機関は、公道走行用の市販車では1970年代から1980年代に多少見られたが、排ガス規制が強化される以前の1990年代初頭には姿を消し、ロードレース用でも世界選手権の競技規定が変更された2002年から急速に採用例が減少した。1970年代から1980年代は、オランダのバンビーン、ドイツDKW(ハーキュレス)、イギリスノートン、そして日本のスズキロータリーエンジンを搭載したオートバイを発売していた。特殊な例としてMTT・タービン・スーパーバイクは航空機用のガスタービンエンジンを搭載している。

搭載方向はクランクシャフトが進行方向に対して横向きの横置きエンジンが多いが、縦置きエンジンの車種も存在する。オートバイのメーカーによっては、ある特定のエンジン形式に特化した製品構成を持ち、そのメーカーの伝統とされることもある。アメリカハーレーダビッドソンによる横置きの狭角V型2気筒エンジン、イタリアモト・グッツィによる縦置き90度V型2気筒エンジンなどが代表的な例である。
歴史史上最古のオートバイ用エンジンのコンセプトを示す絵。 それまではMichaux-PerreauxやRoper steam velocipedeが史上初のオートバイ用エンジンと考えられていたが、1818年に描かれたこの絵の発見により、それよりも更に以前から蒸気機関によるオートバイの構想が存在していたことが明らかになった。

史上初めてのオートバイ用エンジンは蒸気機関で、製造された記録が残る最古の物は1868年のフランスのMichaux-Perreaux steam bicycleと1869年にアメリカのRoper steam velocipedeが製造した二輪車と三輪車であった[2]。この蒸気機関オートバイは自転車のフレームを利用し、エンジンは搭乗者の後方に載せられた。

内燃機関が初めてオートバイに用いられたのは、1885年にゴットリープ・ダイムラーの手で製作されたDaimler Reitwagenである。ダイムラーはオートバイそのものを開発するというよりも、自身が造り上げたガソリンエンジンのテストを主目的として二輪車に載せただけであった。オートバイ史やオートバイ用エンジンの歴史では、ダイムラーのオートバイが「二輪自動車」という定義を確立させた史上初のオートバイとされ、前述の蒸気機関オートバイは長年の間除外されてきた経緯が存在した[2]オックスフォード英語辞典においても、最初のオートバイはダイムラーのオートバイであるとされており[3][4]、蒸気機関型オートバイの存在には触れられてはいない。イギリスのNational Motor Museumにおいても、Michaux-Perreauxの展示に至るまでには「最初のオートバイの定義」を巡る多くの議論と長い年月を要した[5]

内燃機関と安全型自転車が登場すると、現在のオートバイのようにフレームの中央部分にエンジンを配置する形式に移行していった。20世紀の初め頃にはインホイールエンジンなど、様々な形のエンジン搭載方法も試作されたが一般化することはなかった。また、現在のスクーターのスイングアームのような搭載方式は1940年頃までにほぼ確立したとされている[2]

2000年代中期以降はクリーンエネルギーへの関心が高まり、電動機を搭載した電動オートバイも登場している。特に中国においては零細町工場が製作する電動スクーターの広まりが先進諸国より先んじて見られる。

ブラジルなどの一部の国ではエタノール燃料への対応を行う動きなども見られる。

ディーゼルエンジンを搭載するディーゼルオートバイの研究は20世紀から既に行われていたが、近年は特に軍事用途における研究が盛んになってきており、アメリカ軍は自軍車両の全ての燃料をジェット燃料の一種であるJP-8に統一する目的でクランフィールド大学と川崎重工業に共同研究を行わせていた。その結果、カワサキ・KLR650にディーゼルエンジンを搭載したM1030 M1(Kawasaki KLR650s)を開発して制式採用された[6]
ガソリンエンジン
2ストロークと4ストローク

4ストロークエンジンは2ストロークに比べて、扱いやすいトルク特性を持ち、低燃費で排ガスの炭化水素濃度が低いほか、潤滑管理が容易でエンジン寿命が長いなど、利点が多いことから古くから広く用いられている。小排気量の車種でも1970年代までは4ストロークエンジンが主流であったが、1980年にヤマハ・RZが発売されたのを機に、小排気量でも高出力が得られる利点や、旧来は欠点とされてきた扱いにくいエンジン特性が持つ趣味性が注目され、小排気量の車種を中心に2ストロークエンジンの採用車種が増えた。しかし、1990年代には世界的な規模の排ガス規制が実施されるようになり、2000年頃には2ストロークエンジンはほとんど採用されることがなくなった[7]
シリンダーヘッド詳細は「シリンダーヘッド」を参照

吸排気のバルブトレーンを構成し、エンジンの性能や特性を大きく左右する。加えて、オートバイではエンジンの重心位置が車体の重心位置に大きく影響を及ぼすことから、シリンダーヘッドの重量や大きさなども意識した設計が行われる。

エンジンが露出しているオートバイでは、外観上の特徴をもたらす部品の一つでもあり、識別要素として扱われる例もある。ハーレーダビッドソンのVツインエンジンの場合にはフラットヘッドやパンヘッドなど呼ばれてハーレーのエンジンの変遷の上で区別される。BMWの水平対向エンジンの場合には特に外観上の特徴として影響を及ぼすため、エアヘッドやオイルヘッドとよばれて区別される。ドゥカティの場合にはバルブトレーンの機構が大きく異なり、ベベルヘッドやデスモドロミックなどと呼ばれて区別される[5][8]

オートバイ用エンジンはその性格から、古くよりマルチバルブなどの高度なバルブトレーンを持つものが少なくなかった。ヤマハ発動機は1気筒当たり吸気3、排気2のバルブを配置した5バルブエンジンをハイエンド車種を中心に積極的に展開している。詳細は「マルチバルブ」を参照

可変バルブ機構を採用した車種も少なくない。ホンダは1983年にオートバイ用エンジンでは初の可変バルブ機構であるREV(Revolution-modulated valve control、回転数応答型バルブ休止機構)を採用したCBR400Fを発売した。これは低回転域で吸排気バルブを一つずつ休止させるシステムであった。その後、バルブリフトやタイミングを可変できるバルブ機構を搭載した車種も開発されるようになった。詳細は「可変バルブ機構」を参照
ギアボックス詳細は「内蔵式ギアボックス」および「分離式ギアボックス」を参照


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