オーディナリー(英: Ordinary、仏: Piece)は、紋章学における紋章の単純な幾何学的な図形(チャージ)である。同じように幾何学的ではあってもラインやフィールドを分割する線とは区別される。また、幾何学的な図形のチャージであってもオーディナリーとは呼ばれないものもあることに注意しなければならない。
サブオーディナリー (Sub-ordinary) と呼ばれるいくつかの幾何学的なチャージは、たとえ伝統的なオーディナリーとほぼ同じくらいの長期間使われてきたものだったとしても、紋章官によって一段低い地位を与えられている。ディミニュティブは通常のオーディナリーより細い、又は小さい同じ形のチャージであるが、そのようなチャージのうちのいくつかは通常の大きさのチャージのディミニュティブとは定義されないこともある。 多くのチャージの中で、どれをサブオーディナリーも含めたオーディナリーとするかは定説がなく、文献によって様々な解釈がある。紋章学の黎明期から使われ続けたことからもっとも基本的なチャージとされ、「高貴なるオーディナリー」と呼ばれるものは、チーフ、フェス、ペイル、ベンド、シェブロン、クロス及びサルタイアーの7種類でほぼ共通している[1][2][3][4]。ところが、ポールはサブオーディナリーにすら含まれず[1]、フェスのディミニュティブと考えられることも多いバーが「高貴なるオーディナリー」に含まれていることもある[1][4]。また、パイルもオーディナリーと考えられていることがほとんどであるものの定位置がなく、「高貴なるオーディナリー」に含まれるとする文献[2][3][4]と、サブオーディナリーに分類する文献[1]とに大きく分けられるため、一概にどちらに含めるかが適切とは言い難い。 サブオーディナリーに含まれるチャージについては更にその範囲に差があるが、概ねボーデュア、オール、インエスカッシャン、トレッシャー、クォーター、カントン、フローンチの7種類(カントンをクォーターと同列と考えた場合は6種類)が共通している[1][2][3][4]。このほか、ロズンジ(及びフュージル)、ジャイロン及びフレットをサブオーディナリーだとする文献も相当数ある[1][3][4]。多いものでは、レイブル、ビレット(縦長の長方形)、ラウンデルをも含むとしている[5][6]。本項ではこれらもサブオーディナリーと分類することとする。 オーディナリー 時折、「高貴なるオーディナリー」とも呼ばれるオーディナリー (Ordinaries) は、見た目はほとんどフィールドの分割のようであるが、フィールドの上に置かれる物体のように取り扱われる。多数ある幾何学的なチャージのうち、どれが正確にオーディナリーを構成するかについては多くの議論があるが、次に示すような特定のものはオーディナリーとして受け入れられている。 オーディナリーには、次のようなものがある。
区分と範囲
オーディナリー
ベンドベンド・シニスター
フェスペイル
チーフシェブロン
クロスサルタイアー
ポールパイル
ベンド (bend)
デキスター・チーフ(盾を持つ側から見て右上)からシニスター・ベース(同左下)に向かう斜めの帯。ベンド・シニスター (bend sinister) は、シニスター・チーフ(盾を持つ側から見て左上)からデキスター・ベース(同右下)に向かう斜めの帯。
フェス (fess)
シールドの中央を通って左右にわたる横帯である。
ペイル (pale)
シールドの頂部を始点とし、底部を終点とする、シールドの幅の3分の1の幅の垂直のチャージである。シールドの幅の半分を占める以外はペイルと同様の「カナディアン・ペイル
チーフ (chief)
シールドの上部3分の1に位置するフェスである。
シェブロン (chevron)
シールドの左側の中央から右側の中央までアーチ状になっている、逆V字形ののこぎりの歯のようなチャージである。
クロス (cross)
垂直な帯と水平の帯が交わる十字のチャージである。
サルタイアー (saltire)
右上から左下にわたる帯と左上から右下にわたる帯が交差した斜め十字のチャージである。
ポール (pall)
フィールド全体にわたるY字形のチャージであり、スコットランドの紋章によく見られる。
パイル (pile)
シールドの頂部(チーフ)から底部(ベース)にわたる下向きの三角形のチャージである。
サブオーディナリー