オーステナイト系ステンレス鋼
[Wikipedia|▼Menu]
オーステナイト系ステンレス鋼(316系)製の野外彫刻。オーステナイト系ステンレス鋼(AISI 304)製の椅子

オーステナイト系ステンレス鋼(オーステナイトけいステンレスこう)とは、常温でオーステナイトを主要な組織とするステンレス鋼である。ステンレス鋼種の中で最も一般的で、各種用途に幅広く使われている。ステンレス鋼の金属組織別分類の1つで、オーステナイト系ステンレス鋼の他には、「マルテンサイト系ステンレス鋼」「フェライト系ステンレス鋼」「オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼」「析出硬化系ステンレス鋼」の4つがある[1]。工業材料として最初にオーステナイト系ステンレス鋼を発明したのはドイツのクルップ社のベンノ・シュトラウス(ドイツ語版)とエドゥアルト・マウラー(ドイツ語版)で、1912年に特許出願された。

オーステナイト系は、ステンレス鋼の耐食性を生み出す主元素であるクロム、オーステナイトを安定させるニッケルを主成分として含み、「クロム・ニッケル系ステンレス鋼」に分類される。クロムを 18%(質量パーセント濃度)、ニッケルを 8% 含む18Cr-8Niステンレス鋼がオーステナイト系の代表的・標準的な鋼種で、日本産業規格に制定されているものとしてはSUS304に相当する。

具体的な組成や製造過程によるが、オーステナイト系の耐食性はステンレス鋼の中で高価な部類に入る。延性に優れ、極低温環境でも脆化の程度は小さい。高温環境でも他のステンレス鋼種と比較して強度低下は小さい。塑性加工を加えることでマルテンサイト変態を起こす性質を持ち、これを利用したオーステナイト系の高強度鋼種もある。通常、固溶化熱処理して実用に供される。切削加工においては被削性はやや劣る。ある高温度域に一定時間晒されると耐食性が低下する鋭敏化という現象があり、オーステナイト系の溶接熱処理においては注意を要する。
組成と組織鉄・ニッケルの2元合金状態図。ニッケル濃度が上がるにつれて γ(オーステナイト)の存在領域が広がる。

オーステナイト系ステンレス鋼とは、常温での金属組織がオーステナイトとなるステンレス鋼である[2]。ステンレス鋼とはクロムを 10.5%以上(質量パーセント濃度)含む合金鋼で、含有されるクロムによってステンレス鋼の耐食性が実現される[3]。純鉄では、金属組織がオーステナイト(γ鉄)となるのは高温状態のみで、常温ではフェライト組織(α鉄)である[4]。純鉄にクロムを加えることにより、オーステナイトが安定的に存在する最低温度は約 830 ℃ まで広がる[5]。しかし、クロム含有量が約 7% を超えると、オーステナイトが存在する温度領域は逆に小さくなり、クロム含有増加に伴って最終的にはオーステナイトの存在領域は消滅する[6]。一方、ニッケルを純鉄に加えると、オーステナイトが存在する温度領域は大きく広がり、オーステナイトが安定的に存在する最低温度はニッケル 30% では約 500 ℃ まで広がる[7]

ニッケルのようなオーステナイトの存在範囲を広げる元素をオーステナイト生成元素と呼び、クロムのようなフェライトの存在領域を広げる元素をフェライト生成元素と呼ぶ[8]。オーステナイト系は、クロムの他にオーステナイト生成元素のニッケルを主成分として含むため、クロム・ニッケル系ステンレス鋼(Cr-Ni系ステンレス鋼)に分類される[9]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:235 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef