オリエント急行の殺人
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オリエント急行の殺人
Murder on the Orient Express
著者
アガサ・クリスティー
訳者中村能三 ほか
発行日 1934年
1935年(初訳)
発行元 Collins Crime Club
早川書房 ほか
ジャンル推理小説
イギリス帝国
前作死の猟犬
次作リスタデール卿の謎

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『オリエント急行の殺人』または『オリエント急行殺人事件』(オリエントきゅうこうのさつじん、オリエントきゅうこうさつじんじけん、原題:Murder on the Orient Express)は、アガサ・クリスティによって1934年に発表された長編推理小説である。著者の長編としては14作目、エルキュール・ポアロシリーズとしては8作目にあたる。日本語初訳は『十二の刺傷』の題名で刊行された(柳香書院刊、延原謙訳、1935年)。

その奇抜な結末から著者の代表作の1つに挙げられている(#作品の評価)。著者自身がお気に入り作品10作のうちのひとつに挙げている作品で[1]、また著者のもっともお気に入りの作品の一つであると孫のマシュー・プリチャードは述べている[2]

本作は映画化(#映画)およびテレビドラマ化(#テレビドラマ)が行われている。
ストーリー

シリアでの仕事を終えたポアロは、イスタンブールカレー行きのオリエント急行に乗り、イギリスへの帰途に就く。一等車両にはポアロの他、様々な職業・国籍の乗客が乗り合わせ、季節外れの満席となっていた。

その中の1人、アメリカの富豪サミュエル・ラチェットがポアロを見知り、話しかけてきた。彼は脅迫状を受け取っており、身の危険を感じてポアロに護衛を依頼したのだった。しかし、ポアロはラチェットの態度に良い印象を持たず、事件そのものにも興味を示さなかったため、彼の依頼を断ってしまう。

列車はヴィンコヴツィブロドの間で雪の吹き溜まりにはまり、立ち往生する。翌朝ラチェットの死体が彼の寝室で発見される。死体には刃物による12箇所の刺し傷があった。現場には燃えさしの手紙があり、「小さいデイジー・アームストロングのことを忘れ」という文章が読みとれた。

調査の結果、ラチェットは富豪アームストロング家の令嬢であるデイジーの誘拐殺害犯であることが判明する。その事件では第1容疑者であるデイジーの子守り役の少女が投身自殺、身重のアームストロング夫人も事件のショックで早産して母子ともに死に、夫のアームストロング大佐は夫人の後を追って自殺していた。

事件の顛末を知っていたポアロはラチェットの正体に気づき、捜査を始める。ポアロは友人で国際寝台車会社(ワゴン・リ)重役であるブークと、乗り合わせた医師コンスタンティンとともに事情聴取を行う。犯人は雪で立ち往生している列車から逃げられないはずだが、乗客たちのアリバイは互いに補完されており、誰も容疑者に該当しない。

困惑しながらもポアロは真相を導き出し、乗客たちに2つの解答を提示する。1つは、何らかの理由でラチェットと対立していたギャングなどの人物が途中の駅で列車に乗り込んでラチェットを殺し、すでに列車から降りたというものである。列車がすでに違う標準時に入っていることをラチェットや乗客たちが忘れていたとすれば、乗客たちの証言との辻褄は合う。

しかし、それはあり得ないと反論するコンスタンティンたちに対し、ポアロはもう1つの解答を話し始める。
登場人物
サミュエル・エドワード・ラチェット (Samuel Edward Ratchett)
アメリカ人。寝台は2号。60歳代の老人で、実業家。一見柔和そうに見えるが、眼光や雰囲気には狡猾で獰猛な態度が表れており、ポアロは不快に感じていた。本名はカセッティ。デイジー・アームストロングを誘拐した一味の首領で、身代金を奪った後、彼女を殺害した犯人。莫大な保釈金を支払い釈放された後、名前を変えて外国で暮らしていた。金ずくでポアロに護衛を頼むが断られ、その夜のうちに寝台で刺殺された。
ヘクター・マックイーン (Hector MacQueen)
アメリカ人。寝台は6号(7号の上段)。30歳前後の長身の青年で、ラチェットの秘書。ラチェットとは約1年前に
ペルシャで知り合い秘書となったが、ラチェットとの個人的な面識はあまり見られない。
エドワード・ヘンリー・マスターマン (Edward Henry Masterman)
イギリス人。寝台は4号(5号の上段)。ラチェットの執事で、無表情でかしこまった中年男性。
アーバスノット大佐 (Colonel Arbuthnot)
イギリス人。寝台は15号。40歳代の男性で、インドから帰って来た。イギリス人らしい慎重な性格で、バグダッドではデブナムと意味深な会話をしていた。
メアリー・デブナム (Mary Debenham)
イギリス人。寝台は11号(10号の下段)。バグダッドで家庭教師をしていたと言う。ポアロの観察によれば28歳前後と見られる背の高いほっそりとした女性。整った顔立をしており、落ち着いて世慣れた聡明な性格を持つ。
ドラゴミロフ公爵夫人 (Princess Dragomiroff)
フランスに帰化したロシア人。寝台は14号。所謂亡命貴族の老婦人で、夫がロシア革命前に財産を海外に移していたため大富豪となった。名前はナタリア。容姿は極めて醜いが、それを不快に感じさせない高潔さを持つ。
ヒルデガルデ・シュミット (Hildegarde Schmidt)
ドイツ人。寝台は8号(9号の上段)。ドラゴミロフ公爵夫人に15年仕える女中で、無表情で静かな中年女性。
ハバード夫人 (Mrs. Hubbard)
アメリカ人。寝台は3号。陽気でおしゃべりな中年女性で、他の客相手に娘の話を延々と聞かせていた。犯行の夜、同じ部屋に犯人らしき男がいたと声高に主張する。
グレタ・オールソン (Greta Ohlsson)
スウェーデン人。寝台は10号(11号の上段)。愛想の良い中年女性で、ポアロによれば「どこか羊を思わせるような」穏やかな顔をしている。就寝前に間違ってラチェットの部屋のドアを開けたらしく、確認されている限りでラチェットと最後に会った人物でもある。
アンドレニ伯爵 (Count Andrenyi)
ハンガリー人。寝台は13号。外交官、30歳ほどの美男。妻を事件にあまり関わらせないよう擁護している。
アンドレニ伯爵夫人 (Countess Andrenyi)
ハンガリー人。寝台は12号。アンドレニ伯爵の妻で、まだ20歳ほどの若い娘。貞淑な美人で、多くの人物がその美しさを認めている。
サイラス・ハードマン (Cyrus Hardman)
アメリカ人。寝台は16号。派手な服装をしており、チューインガムを噛んで軽薄さを出している。セールスマンとして通していたが、実は私立探偵でラチェットに依頼されて身辺護衛を行っていたことを尋問の際に打ち明けた。
アントニオ・フォスカレリ (Antonio Foscarelli)
アメリカに帰化したイタリア人。寝台は5号(6号の下段)。自動車のセールスマンで、色の浅黒いイタリア人気質の大男。
ピエール・ポール・ミシェル (Pierre Paul Michel)
フランス人。ポアロたちが乗るオリエント急行の車掌で、ラチェットの死体の発見者でもある。
ブーク (Bouc)
ベルギー人。国際寝台車会社の重役で、ポアロがベルギー警察にいた時期からの知人。寝台は1号だったが、後に別車両に移った。所用でオリエント急行に乗っていたところ事件の発生を知り、会社としてポアロに事件の究明を要請する。
コンスタンティン博士 (Dr. Constantine)
ギリシャ人。医師で、ラチェットの検死を行った。
エルキュール・ポアロ (Hercule Poirot)
ベルギー人の私立探偵。イスタンブールに数日滞在する予定だったが、関わっていた事件の発展によりオリエント急行での帰還を余儀無くされた。客室が満員になっていたため、予約客が現れなかった二等寝台の7号(6号の下段)に通され、その後ブークが使っていた1号に移動した。『オリエント急行の殺人』におけるイスタンブール - カレー行き客車
解説

クリスティは、飛行家リンドバーグの息子が誘拐され、殺された事件(リンドバーグ愛児誘拐事件)に着想を得て、この物語を書いたとされている[3]。また、クリスティはオリエント急行に1931年イスタンブールから乗り込み[注 1]、悪天候に起因する立ち往生を経験した。茅野美ど里は、実在したオリエント急行の立ち往生とリンドバーグの事件を組み合わせたあたりにクリスティの才能が出ている、としている。

なお、浜田知明は、専業作家になる以前の横溝正史による『新青年1921年12月号の懸賞小説2等入選作の『一個の小刀(ナイフ)より』が、『オリエント急行の殺人』のメイン・トリックに先鞭をつけたものとして注目に値すると評している[5]
作品の評価


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