オピオイド
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オピオイド
Drug class
代表的なオピオイドであるモルヒネの化学構造.[1]
クラス識別子
効用疼痛緩和
ATC codeN02A
作用様式オピオイド受容体
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MeSHD000701
In Wikidata

オピオイド(Opioid)は、ケシから採取されるアルカロイドや、そこから合成された化合物、また、体内に存在する内因性の化合物を指す。鎮痛陶酔作用があり、また薬剤の高用量の摂取では昏睡、呼吸抑制を引き起こす[2]。医療においては手術や、がんの疼痛の管理のような強い痛みの管理に不可欠となっている。このようなアルカロイド(オピエート)やその半合成化合物には、モルヒネジアセチルモルヒネコデインオキシコドンなどが含まれ、合成オピオイドにはフェンタニルメサドンペチジンなどがある[2]。これらは本来的な意味で麻薬(narcotic)である[2]。オピオイドとは「オピウム(アヘン)類縁物質」という意味であり、これらが結合するオピオイド受容体に結合する物質(元来、生体内にもある)として命名された。内因性のオピオイドにはエンドルフィンエンケファリンなどがある。

オピオイド薬の使用には、オピオイド依存症や、離脱症状、また過剰摂取による死亡の危険性がある。そのため多くの国で規制物質となっている。

半合成のものはアメリカでは一般的に流通しており、弱い順にコデインバイコディン(合剤である商品名)、オキシコドンの3種がある[3]。いずれも処方箋があれば簡単に入手できる。

アメリカでは、2015年内には2.4億件のオピオイドが処方されており(米国の全成人に対して1処方に相当する)[4]、薬物中毒死の43%までも、オピオイド医薬品の過剰摂取で占めている[5]。2014年にもアメリカ神経学会は頭痛、腰痛、線維筋痛症などの慢性の疼痛では、オピオイドの使用は危険性の方がはるかに上回るという声明を行っている[6]。死亡は止まらず、2017年にはアメリカで「オピオイド危機」と呼ばれる公衆衛生上の非常事態が宣言された[7]。一方で、用途でも言及されているように末期がんなど重いがん患者には、オピオイドを使用できるようにするべきだという点で、専門家の意見はほぼ一致しているとされる[8]

OECD25カ国を対象とした調査では、オピオイド関連死亡(ORD)の平均は2011年から2016年にかけて20%以上増加しており、その要素としてOECDは疼痛管理目的の処方、および過剰処方の増加を挙げている[4]。そのためOECDは根拠に基づく臨床ガイドラインや、処方サーベイランス強化などにより、処方規制の改善が必要だと勧告している[4]。オピオイド乱用は医療サービスへの大きな負担である[4]。.mw-parser-output .toclimit-2 .toclevel-1 ul,.mw-parser-output .toclimit-3 .toclevel-2 ul,.mw-parser-output .toclimit-4 .toclevel-3 ul,.mw-parser-output .toclimit-5 .toclevel-4 ul,.mw-parser-output .toclimit-6 .toclevel-5 ul,.mw-parser-output .toclimit-7 .toclevel-6 ul{display:none}
定義ペンタゾシン注射液(ソセゴン)

オピオイドとは、ケシ(Opium poppy)から採取されるアルカロイドや、それから合成された化合物、また体内に存在する内因性の化合物を指す[2]

オピオイドは、鎮痛や陶酔といった共通した作用を持つ[2]ケシから採取されるアルカロイドや、それから合成された化合物は、高用量を摂取した場合に、昏睡、呼吸抑制を引き起こす[2]

一般的に、「オピオイド」は「麻薬性鎮痛薬」を指す用語であるが、“麻薬=オピオイド”というわけではない[9](後述)
麻薬詳細は「麻薬」を参照「麻薬に関する単一条約」も参照

麻薬(narcotic)とは、通常は麻薬性鎮痛薬として、この記事にて説明しているオピオイドや、またはさらにその狭義のオピエートを含めて指す用語である[2]。しかし、そうした薬理学的な定義と関わりなく、一般用語あるいは法律上において、コカイン大麻などを含めた違法薬物を指して用いられている場合がある[2]。そのため、世界保健機関の薬物に関する文書では、麻薬の語ではなく、より具体的な意味を持つオピオイドの語を用いている[2]

現在では「麻薬」という用語は社会的用語であり、薬理学的あるいは分子生物学的用語である「オピオイド」とは意味が異なる[9]。「麻薬及び向精神薬取締法」で「麻薬」に指定されている薬剤が麻薬であり、オピオイド受容体とは関係しないものもある[9]。例えば、オピオイドではない「ケタミン」は麻薬に指定されているので、「麻薬性非オピオイド鎮痛薬」になる[9]
合成・半合成オピオイド

ケシのアルカロイド(オピエート)やその半合成化合物には、モルヒネジアセチルモルヒネ(ヘロイン)コデインオキシコドンなどが含まれる。また合成オピオイドにはフェンタニルメサドンペチジンなどがある[2]
内因性オピオイド

生体内で産生されるのオピオイドはペプチドオピオイドペプチド)であり、作用するオピオイド受容体サブタイプの違いによってエンドルフィン類(μ受容体)、エンケファリン類(δ受容体)、ダイノルフィン類(κ受容体)の3つに分類される。
非麻薬性オピオイド(鎮痛薬)

合成オピオイドのうち、鎮痛作用を有するものは「非麻薬性オピオイド(鎮痛薬)」と称され、その代表は以下の通り:。

トラマドール - トラマール、ワントラム、トラムセット配合錠(アセトアミノフェン配合)[10]- 劇薬。医療用麻薬としての規制外[11]

ブプレノルフィン - ノルスパン、レペタン - 劇薬、向精神薬、習慣性医薬品

ペンタゾシン - ソセゴン、ペルタゾン - 劇薬、向精神薬、習慣性医薬品

オピオイドのうち、鎮痛作用を有するものの構造にはN,N-Dialkyl-3,3-dialkyl-3-phenylpropanamineという共通点があり、モルヒネ則と呼ばれている。
用途

手術侵襲に対する鎮痛と過剰なストレス反応の制御、がん末期のような強い痛みに対する鎮痛手段として広く用いられており、医学の進歩した現代においても最も強力な鎮痛薬であるとともに、麻酔臨床では必要不可欠な薬剤である。

手術の麻酔で使用されるオピオイドは、日本ではモルヒネフェンタニルレミフェンタニルである。欧米では、このほかにアルフェンタニルやスフェンタニルも使用されている。    
副作用
依存症詳細は「オピオイド使用障害」を参照

オピオイド依存症であるかは、当初の想定よりも使用量が増加し離脱症状を呈する、薬物の使用が制御できない、またそれらによって引き起こされた機能的な状態が重症であるなどの、いくつかの診断基準を満たすかに基づいて診断されうる。

2008年のレビューでは、依存率は全体として3.3%であり、アルコールや薬物依存の既往歴のある場合に5%、そうでない場合に0.2%であった[12]。アメリカでは、2000年以降にジアセチルモルヒネ(ヘロイン)を乱用した者の75%が、処方薬のオピオイドによって乱用を開始している[13]。オピオイド使用障害は、意図しない過剰摂取による死亡だけでなく、自殺と関連しておりアメリカでのオピオイドの使用が深刻化した結果、自殺率も上昇してきた[14]

依存症の治療は、半減期の長いオピオイドであるメタドンや、より新しいものではオピオイド受容体に作用するブプレノルフィンに置換して漸減するのが標準的である。活性成分イボガインを含む幻覚剤であるイボガを用いた治療は、標準的でない治療法として実施している施設がある。
離脱症状「離脱」も参照

オピオイドによる離脱症候群には、渇望、不安、不快、あくび、発汗、立毛(鳥肌)、流涙、鼻漏、不眠、吐き気や嘔吐、下痢、痙攣、筋肉痛、また発熱が含まれる[2]

モルヒネやジアセチルモルヒネ(ヘロイン)などの短時間作用型の薬物では、離脱症状は最後の摂取から8?12時間以内に発症し、48?72時間でピークに達し、7?10日後にかけて消えていく[2]。メサドンなどの長時間作用型の薬剤では、離脱症状の発症は1?3日であることもあり、一般的により軽度の症状が長く続く[2]

遷延性離脱として、上記のような急性の離脱症状に続き、数週間から数か月にわたってあまり明確ではない症状が生じることがある[2]
ガイドライン

2014年には、アメリカ神経学会がオピオイドによる死亡の増加から声明を出しており[15]、頭痛、腰痛、線維筋痛症などの慢性疼痛状態では、薬剤使用の利益を危険性の方がはるかに上回るとした[6]。これは最良の方法を挙げており、処方を行う前に処方データ監視プログラム(PDMP)を確認することや、1日にモルヒネに換算して80?120mgに相当する場合には、疼痛管理の専門家に相談することが含まれている[6]。死亡の増加によりアメリカ疾病予防管理センター (CDC) は2016年にガイドラインを公開しており、それは慢性疼痛では運動や認知行動療法のような非薬物療法や他の薬物療法を推奨し、オピオイドは最小有効量で使用して定期的に痛みが改善しているか観察することが必要であるとしている[16]。その後、CDCのガイドラインでオピオイドの使用削減を勧告した執筆者たちは2019年のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンで、使用削減の結果が患者に「深刻な危害」をもたらしているようだと警告し、CDCは2016年のガイドラインを見直し、オピオイド使用削減の呼びかけを訂正した[17]
薬理学
作用機序

オピオイドとオピオイドレセプターの結合によりGタンパク質を介して神経細胞の過分極が生じて神経伝達系が抑制されると考えられている。しかし、その神経回路などについては不明な点が多い。Gタンパク質はそれぞれのレセプターに関与するイオンチャネルに作用すると考えられているが、その詳細は明らかになっていない。
薬物動態

モルヒネ、フェンタニル、レミフェンタニルの薬物動態における特性を示す。

モルヒネ、フェンタニル、レミフェンタニルの薬物動態の比較モルヒネフェンタニルレミフェンタニル
pKa8.08.47.1
ph7.4におけるイオン化率77>9033?
脂溶性(オクタノール/水分配係数)1.481317.9
血漿蛋白結合率(%)20?408480?
定常状態での分布容量(Vdss)(L/kg)3?53?50.2?0.3
クリアランス(mL/min/Kg)15?3010?2030?40

フェンタニルは、脂溶性が高いために定常状態における分布容積が大きいことが特徴で、血中濃度の低下には再分布が大きな意味をもつ。レミフェンタニルはエステル構造を有し、血中あるいは組織中のエステラーゼにより速やかに分解される。生体に投与されたモルヒネの約60%は肝臓で、残りは腎臓で代謝される。肝臓で代謝されたモルヒネはモルヒネ3グルクロナイド(M3G)とモルヒネ6グルクロナイド(M6G)になる。 M3Gには鎮痛作用はないが、M6Gの鎮痛作用はモルヒネよりも強いと言われている。腎不全患者ではM6Gの排出が遅れて著しい呼吸抑制をきたす可能性がある。

フェンタニルは肝臓で速やかに代謝されるが、その代謝産物にはほとんど鎮痛作用がない。レミフェンタニルは投与中止とともに速やかに血中濃度が低下するため、術後呼吸抑制の心配が少ない。そのため超短時間作用性オピオイドとして有用であるが、投与中止により速やかに鎮痛効果が消失するので、術後の疼痛対策が必須である[18]。 
薬理作用
鎮痛作用
鎮痛のメカニズムに関しては不明な点が多いが、解明されつつある。オピオイドは、脊髄後角において一次知覚神経線維末端からのサブスタンスPやグルタミン酸のような神経伝達物質の放出を抑制し、脊髄後角に存在する侵害ニューロンの興奮を抑制する。このような作用以外に、オピオイドが中脳水道周囲灰白質に作用することにより下行抑制系(ノルアドレナリン作動性およびセロトニン作動性)が活性化されることによる脊髄後角における鎮痛作用を示す機序もある。さらに、視床、大脳皮質のレベルにおいても鎮痛作用が現れる。 このように、オピオイドの鎮痛作用は中枢神経系内の1ヶ所における作用では説明できない。さらに、末梢神経におけるオピオイドの鎮痛作用も報告されている。 薬剤の種類によって鎮痛作用の力価には差がある。鎮痛作用力価の比の目安をモルヒネ:1とすると、フェンタニル:100、スフェンタニル:500 、アルフェンタニル:1 、レミフェンタニル:500 である。 鎮痛作用は個人差が大きい。また鎮痛効果と呼吸抑制や鎮静作用も必ずしも並行しない。参考値を表にまとめる。+の数がアゴニストの強さ、?の数がアンタゴニストの強さである。

物質名μ親和性κ親和性同効果(mg)最大効果(min)持続時間(hr)
モルヒネ++++1020?303?4
フェンタニル+++00.13?50.5?1.0
レミフェンタニル+++00.11.5?2.00.1?0.2
ペチジン+++805?72?3
ブプレノルフィン+++?0.3306?8
ペンタゾシン??++6015?302?3
ブトルファノール?++215?302?3
トラマドール++?100154?6
ナロキソン???????


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