『オナー・ハリントン・シリーズ』 (Honorverse) は、アメリカの作家デイヴィッド・ウェーバーによる共通の架空宇宙における SF小説のシリーズ作品の総称である。1992年から書き始められ、同一設定上で他の作家も作品を発表するシェアード・ワールドとなっている。 シリーズは、イギリス王国をモデルとするマンティコア王国の女性軍人であり後に政治家ともなるオナー・ハリントンとその同僚たちを中心に描かれ、2000年ほど未来の銀河系での、激しい変化と緊張の時代を舞台にする。物語の多くは西暦4000年から4022年の間の出来事を扱うが、人類が太陽系から離散(ディアスポラ)し始めた西暦2103年から始まる離散紀元で暦が数えられる。本シリーズは、ハリントンが離散紀元1859年に生まれて40年後から始まるが、それ以前の出来事を扱う外伝もある。 シリーズ前半の政治情勢はヨーロッパにおける18世紀後半から19世紀にかけての歴史を反映している。特にセシル・スコット・フォレスターのホーンブロワーシリーズや、オナーのモデルとして実在のホレーショ・ネルソン提督が意識的になぞられている。マンティコア王国はイギリスをモデルとし、革命直後のフランスをモデルとするヘイブン人民共和国には、フランス革命時の著名人を意識的になぞらえた人物が数多く登場する。君主制と貴族制を維持するマンティコア王国は、革命により共和制となった直後に侵略国家となった大国ヘイブン人民共和国と死闘を繰り広げる。当初、作者はオナーを軍歴のピークとなる〈マンティコアの戦い〉でネルソンのように死なせ、オナーの子たちを主人公としてシリーズを続けるつもりだった。だが、マンティコア王国とヘイブン人民共和国が共通の敵と戦う外伝をエリック・フリントと共著することになり、この予定は大きく変わることになった。 シリーズ後半は、一転して遺伝子操作された奴隷を販売し、多くの政府を陰で操り、巨大企業を運営する、惑星メサを中心としたメサ連盟、およびこれに操られる巨大な太陽系同盟が主敵となる。メサ連盟は600年にわたり陰謀と秘密の技術を駆使して太陽系同盟を分裂させようとしてきた。ともに奴隷制を憎むマンティコアとヘイブンは講和し連合して太陽系同盟およびメサ連盟と戦う。アメリカでの公民権運動の著名人をなぞらえた人物が多く登場するようになる。本シリーズの『Mission of Honor』以降の長編、およびサガナミ・シリーズ外伝とCrown of Slavesシリーズ外伝では、マンティコアとヘイブンが協力をはじめ、やがてベーオウルフなど他の国家とともに"大連合"を結成してメサ連盟と戦う。これら二つの外伝はそれぞれ別の登場人物を追い、銀河系内の異なる地域を舞台にして、巨大だが腐敗した太陽系同盟に関わりながら展開する。外伝に登場した人物や出来事が、本シリーズでも引き続き語られる。太陽系同盟は、メサ連盟に操られて失敗を重ね、辺境国家の離脱に遭い、マンティコアやベーオウルフを攻撃して失敗し、オナー率いる大連合の奇襲にあって降伏する羽目となる。メサ星系、およびメサ連盟の秘密基地星系の一つもまた相次いで大連合に征服される。 シリーズ外伝の長編およびアンソロジーには他の作家も参加しており、"シェアード・ワールド"となっている。またオナー・ハリントンの時代の約3百年前に舞台を移したシリーズ外伝の長編、中編および短編も書かれ、この時代から始まるメサ連盟の陰謀との戦いも描かれる。 日本語訳は、2007年の本シリーズ『女提督の凱旋』を最後に途絶えており、シリーズ外伝やアンソロジーは翻訳されていない。 物語の約2000年前に、人類は太陽系からのディアスポラを始め、最初は光速以下の宇宙船で、のちにはより高速の超空間駆動の宇宙船で他の星系に植民した。初期の植民地が周辺に植民地を広げたため、植民地のネットワークが生まれた。ディアスポラの初期には光速以下の移動しかできなかったため、人類の生存には最適でなくとも地球の近くにある惑星に植民する需要があった。たとえば、大重力、薄い空気、濃い空気、そして毒性の環境などに対応するため、人間の遺伝子が改変された。スーパー兵士やスーパー知性、美しい容貌などを作りだす企業が現れ、地球上での〈最終戦争〉につながった。初期に植民され、進んだ技術を持つベーオウルフ等の植民地は地球の遺伝子プールの”洗浄”を行った。
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