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オシュトティトラン洞穴をはじめとするオルメカ遺跡の位置 オシュトティトラン洞穴に描かれた壁画の位置図
オシュトティトラン洞穴(オシュトティトランどうけつ、Oxtotitlan cave)は、メキシコ、ゲレロ州にあるオルメカ様式の壁画で知られる奥行きが浅い洞穴遺跡である。壁画は図示したように洞穴の入り口付近に集中している。オシュトティトランの名称は、洞穴から2km西方にあるアカティトランの住民による呼称で、ナワトル語で「穴のある場所」という意味である。同じく壁画で知られるフストラワカ洞窟 (Juxtlahuaca cave) から北方30kmの地点に位置する。発見当時は、ゲレロ州の州都チルパンシンゴから舗装のない悪路を東方に44km進んだ場所にあった。オシュトティトランの洞穴遺跡は、険しい崖の壁面にある大きな開口部をもつわりに奥行きのない南北二つの洞穴で構成されている。オシュトティトランには3種類の異なったタイプの壁画が見られる。崖の壁面の2箇所に9m2以上にわたって多彩色の壁画(Mural)が見られる。北洞穴(North Grotto)には小さめの黒色の壁画(Painting)が多数見られ、1?9までのグループ番号がつけられている。南洞穴(South Grotto)に描かれた壁画はA,B,Cの3つのグループに分けられシンプルなデザインに赤色が用いられている。これらの壁画についてはスタイルだけでなく、意味も考えるべきであるがその解釈をめぐっては、はげしい論争がある。オシュトティトランの壁画は、下地に樹脂かあるいはシソ科サルビア属の草であるチーアの実(種子を水に漬けると粘液質が膨潤し、これを絵具のメディウムとして用いることができる)ないし動物の脂肪などの油をベースに多彩色の鉱物質の顔料を用いて描いたと考えられる。 彩色壁画1号は、大きな多彩色の壁画で、幅3.8m、高さ2.5mである。この壁画は南洞穴の開口部、崖のふもとの地表から10mの高さに描かれている。この壁画は様式化したジャガーの怪物の頭の上に座っている人物を表現している。 この人物の姿勢は現在知られている通常のオルメカ様式のようではなくむしろ後古典期のマヤのものに似ているという異質な印象をもっている。座っている人物の左腕は上に挙げられていて、右の腕は右ひざへ向かって伸ばされている。右足はジャガーの怪物の顔を覆うようにぶら下がっている。マヤの壁画と異なるのは黒色のふちどりが見られないことである。人物の体は赤茶色に塗られ、着ているものや装飾品は赤、影になっている部分は青緑か黄土色に塗られている。 座っている人物は緑色の鳥の頭を模したマスクをつけ豪華な頭飾りをしている。この鳥のマスクはオルメカで通常見られるものよりも大きめで自然な描写のものである。この壁画ではマスクは顔をおおうというより上のほうにつけられている。鳥は、オルメカの美術様式ではしばしば見られるもので、猛禽類かフクロウ、オウムなどが題材とされる。この壁画の場合は非常に大きな目と角のようなものがついていることから間違いなくフクロウ、つまり、そのような角をもっているフクロウやコノハズクの一種
目次
1 彩色壁画1号(Mural1)
1.1 ジャガーの怪物の頭の上に座った人物
1.2 ジャガー様怪物のもつ意味
2 北洞穴(North Grotto)の壁画(Paintings)
3 オシュトティトランの壁画の性格
4 出土遺物など
5 脚注
6 参考文献
7 外部リンク
彩色壁画1号(Mural1)
ジャガーの怪物の頭の上に座った人物 オシュトティトラン彩色壁画1号。二つの角をもったフクロウの頭飾りに赤いモチーフがみられ、ジャガーの怪物の頭に座った人物は、X字の胸飾りと鼻飾り、腕や足にも装飾品をつけていることがわかる。腕からは外套が一部垂れ下った様子がうかがわれる。濃い緑色のジャガー様怪物の目にもX字があり、上あごないし上唇からは「八」字状に外反した緑色の牙が出ている。欠損している部分がかなりみられる。 テオパンテクァニトランの半人半獣の「超自然的存在」を表した石彫。聖アンデレ十字のようなX字を配した長方形の胸飾りをつけている。
頭飾りの後ろには、小さな三つの葉の形をした文様が見られる。同じものは、チャルカツィンゴのレリーフ2号および4号に見られる。羽毛でできたふさをあらわしていると思われるこの三つの文様は図像的に重要な意味を表現する場合に用いられる。青緑色の羽毛が頭飾りの後ろに垂れ下がる表現の類例はチャルカツィンゴのレリーフ1号に見られる。座った人物の横顔にはいくつかの飾りがつけられているのがわかる。鼻の部分には円形の緑色の飾りがつけられている。これはラ・ベンタ(La Venta,タバスコ州)の石碑3号、記念碑13号にも見られるものである。トルコ石の色調をした円筒形耳飾りにペンダントが垂れ下がっている。体の胸の部分には長方形の胸飾りがあり、聖アンデレ十字と呼ばれるX字型のモチーフがあり、四隅にはヒスイと思われる飾りがつけられている。このような胸飾りに似たものはサン・ロレンソ記念碑(Monument)52号、ラ・ベンタ記念碑77号、チャルカツィンゴ記念碑16号、テオパンテクアニトラン(ゲレロ州)の石彫及びラス・リマス(Las Limas,ベラクルス州)の石偶でも見られる。ヒスイの装飾品は腕や手の裏や足やかかとにまでつけられている。このような腕や足の飾りはオルメカ諸遺跡の石彫や石偶などにみられる[3]フクロウの頭飾りは座った人物の外套のようになって腕から垂れ下がっている。また座った人物は青緑色のベルトとふんどしをつけ、房のついた「スカート」状の着衣[4]にはすそに切れ込みが入っており、デイヴィッド・グローヴ(David C.Grove)は、牙のモチーフである可能性があるとする。また、「スカート」の両側には甲に「渦巻き」状の文様がつけられた手のモチーフについても、オルメカの土器にもよくみかけるもので、「渦巻き」は水を表し、甲に渦巻のある手のモチーフは、後のメソアメリカ各地でみられるケツァルコアトルの二つに割った貝のモチーフに似ている、とする。
また、エリック・トンプソン(J.Eric S.Thompson)によると、マヤの「ムアン」の鳥と雨は、深い関係があり、ムアンとはすなわちフクロウのことだという。後の時代のテオティワカンでフクロウの仮面が表現された場合、一般的に雨神、雨、水と結びつく。そのようなフクロウの仮面が表す先駆的なシンボリズムをオシュトティトランの壁画に見ることができる。
ジャガー様怪物のもつ意味 湾岸オルメカの典型的な石彫であるラ・ベンタ祭壇4号。ジャガーの口の中が空洞ないし壁龕(へきがん)状になり、その中央に人物がすわっている。 チャルカツィンゴの記念碑1号。洞窟の入り口に座る「王」(El Rey)。
彩色壁画1号のもうひとつの主題であるジャガーの怪物の頭は湾岸のオルメカ遺跡にみられる祭壇のジャガーの怪物に近いものと考えられる。最初にジャガー様怪物の目であるが湾岸オルメカの石彫やチャルカツインゴ記念碑9号にみられる目の形に似ている。両目の瞳孔には、暗い青緑色の楕円形の中に聖アンデレ十字のようなX字が描かれている[5]。同じモチーフはフストラワカ洞窟壁画の蛇やジャガーの絵にも描かれている。彩色壁画1号のジャガーの右目は座った人物の垂れ下った足によって一部隠れている。ジャガーの怪物の上あごないし上唇の表現や上あごからは外反するように曲がった「牙」が垂れ下っている様子はラ・ベンタの祭壇1号や記念碑12号の帯の部分と似ている。次に、湾岸オルメカの祭壇では人物が祭壇の中で座った姿で刻まれているが、オシュトティトランのこの壁画でも祭壇の中で座るのと同じような座った姿をしている。また、大事なことは、湾岸オルメカの祭壇の場合、ジャガーの上あごないし上唇の下は、空洞、ないし壁龕(へきがん)状にへこんでいることで、その壁龕状の部分はジャガーの口であるとともに洞窟を表していると考えられている。