本作を元にしたチャイコフスキーの同名のオペラについては「エフゲニー・オネーギン (オペラ)」を、バレエについては「オネーギン (バレエ)」をご覧ください。
エヴゲーニイ・オネーギン
Евгений Онегин
著者アレクサンドル・プーシキン
ジャンル詩的小説
国 ロシア帝国
言語ロシア語
ウィキポータル 文学
ウィキポータル ロシア
『エヴゲーニイ・オネーギン』(ロシア語: Евгений Онегин)は1825年から1832年にかけて執筆された、アレクサンドル・プーシキンの韻文小説である。
1820年代のロシア帝国が舞台であると考えられるが、諸説存在する。 この小説は「ロシア生活の百科事典」と呼ばれる[1]。サンクト・ペテルブルクの上流社会の夜会から、田園での田舎地主の生活、農奴の娘たちの歌、民衆の迷信や占いまで描かれている。この作品がロシア語に果たした最大の功績は、平易な日常語で、高邁な思想から日常生活まで語ることが可能にする文体、つまり現代ロシア語の基礎を作りだしたことである[2]。 本作では、作者プーシキンと思われる「ぼく」[3]あるいは「私」[4][5]が直接読者に語りかけながら物語を進める。時に自分の思い出に脱線し、登場人物についておしゃべりをし、同情を寄せ、非難をし、登場人物の詩の批評まで行う。 1820年ごろの上流階級の実在の人物が実名で登場するのも特徴である。第一章でオネーギンは第二のピョートル・チャーダーエフと呼ばれる。第七章では詩人ピョートル・ヴァーゼムスキイ公爵が、タチヤーナの気晴らしの話し相手を務めた。 主人公エヴゲーニイ・オネーギンはサンクトペテルブルク社交界で遊蕩生活を送っていた。だが無為に飽き、ふさぎの虫にとりつかれるようになる。叔父の財産を相続した彼は、田舎の領地に隠棲することにした。そこでレンスキーという若い詩人と友人になる。オネーギンはレンスキーの誘いで、地元の地主貴族ラーリン家を訪れる。 ラーリン家の長女タチヤーナはオネーギンに恋をし、恋文を執筆するも拒絶される。 その後オネーギンは気まぐれによってレンスキーを怒らせ、決闘し死に至らしめる。 数年後、サンクト・ペテルブルクの社交界でオネーギンはタチヤーナと再会する。タチヤーナは公爵夫人として威厳のある貴婦人になっていた。オネーギンは彼女に対して、子供のように恋に落ちる。 第一章 この物語は、プーシキンと思われる人物「ぼく」あるいは「私」によって語られる。「ぼく」は主人公たるオネーギンの友人であった。 ペテルブルクの貴族の家に生まれたオネーギンは、フランス語や経済学を学んで育つ。成長し、社交界に出てサンクトペテルブルクでの上流社会の遊蕩児となり、洒落、美食、観劇、舞踏会、恋愛など、貴族的な娯楽に明け暮れるも、いつしか飽きてしまい、心は冷え、英語でいう"spleen"こと「ふさぎの虫」に取り憑かれてしまう。 第二章 多大な借金を抱えた父と、莫大な遺産を抱えた叔父が同時期に亡くなり、オネーギンは叔父の領地を受け継いで田園に隠棲する。そこで、遊学先のゲッティンゲンから帰郷したばかりのレンスキーという年下の純情なロマン派詩人と知り合い、友人となる。 レンスキーは地元の貴族ラーリン家の姉妹のうち妹のオリガの婚約者であった。 オリガの姉タチヤーナは内気で、一人でいることを好む乙女である。フランスの小説に夢中になり、小説のヒロインに感情移入し、魅力的な小説の登場人物たちに憧れている。 第三章 レンスキーに連れられてオネーギンがラーリン家に現れると、タチヤーナは今まで読んだ小説の男性主人公がオネーギン一人に収斂したように見える。 タチヤーナはオネーギンに一目で恋をする。苦しみのあまり小説のヒロインのように、率直な恋情を綴った手紙をオネーギンに届けさせる。 だが、当時のロシア貴族社会では、婚前の令嬢が母親の許可もなく男性に手紙を書くのは、とうてい許されない、はしたない行為であった [6]。 第四章 オネーギンはタチヤーナの手紙に心を動かされたが、むしろ年上の分別のある男性として誠実に応対する。 自分は結婚に向かず、タチヤーナを幸せにできないと語り、彼女を兄のような愛で愛していると説く。また、男性に手紙を書くといった世間知らずなことを自分以外の男性が理解するとは限らないと諭し、軽率な行為は慎むべきだと忠告する。 降誕祭期間中、タチヤーナは恐ろしい夢を見る。雪に埋もれた森の中を、熊に担がれ、化物でいっぱいの小屋に連れて行かれた。彼らの主はオネーギンだ。オネーギンは怪物たちに対し、タチヤーナを「俺のものだ」と怒鳴る。 事情を知らないレンスキーはオネーギンを、タチヤーナの名の日(ユリウス暦 1月13日)の祝いに誘う。オネーギンは野暮ったい宴会であろうと考え、浮かない思いだが、レンスキーに何度も頼まれ、ラーリン家に出かけていく。オネーギンの予想通り、祝いの会は低俗であった。オネーギンは参加者に陰口を叩かれ、彼の存在にタチヤーナには半ば失神しかけ、オネーギンは気分を害す。レンスキーへの意趣返しに、オネーギンは舞踏の相手にオリガを誘い散々戯れる。 嫉妬のあまりレンスキーはオネーギンに決闘を申し込む。決闘の介添人ザレーツキーはレンスキーの介添人を引き受け、またオネーギンは世間体を気にしてしぶしぶ決闘に臨む。このとき、オネーギンは己の介添人を本来資格のない使用人ギヨーとしたり、大幅に遅刻をするなど、決闘を行う気がなかったことが描写される。決闘はレンスキーの死で終わる。オネーギンは激しい衝撃を受ける。 第七章 間もなくオリガは別の男性と結婚し、ラーリン家を出て行く。オネーギンも領地を去った。 タチヤーナはオネーギンの留守宅に行き、彼の蔵書を読み浸る。タチヤーナは彼を理解し始め、「ぼく」はオネーギンの空虚さを激しく非難する。 タチヤーナはラーリナ夫人に連れられモスクワに向かう。太った将軍に見そめられる。 第八章 数年後、オネーギンは相変わらず無為に苦しんでいた。旅から戻り、ペテルブルク[7]に着いたその脚で社交界へ趣いたオネーギンは、そこで公爵夫人となったタチヤーナと再会する。 タチヤーナはすっかり威厳ある貴婦人である。放蕩に飽きたオネーギンであったが、そのとき突然タチヤーナに対し、子供のような恋に落ちる。彼はタチヤーナの出席する夜会にせっせと出かけ、思いの丈を綴った手紙を何通も書く。思い詰めるあまり、やつれていく。 あるとき、彼の手紙を読んで泣いているタチヤーナに会う。タチヤーナはオネーギンを愛していると告げるも、社会道徳を重んじ、貞節を守るという。夫のN公爵が帰ってくるところで物語は終わる。 八章から成る。断章『オネーギンの旅』は作品から省かれ、特別に出版された。 小説内の時間では、第七章と第八章の間に当たる。オネーギンは一人でロシア国内を旅する。遍歴するのは以下の地である。モスクワからニジニ・ノヴゴロド、アストラハン、コーカサス、クリミアなど。
概要
特徴
あらすじ
作品自体についてプーシキン自身によるオネーギンの肖像
登場人物
エヴゲーニイ・オネーギン
主人公。サンクトペテルブルク出身の貴族。父は破産し、同時期に死去した叔父の領地を相続した。苦悩する青年貴族として、ロシア文学の主人公の基礎となった。
タチヤーナ・ラーリナ(タチアーナ・ドミトリーエヴナ・ラーリナ)
ラーリン家の長女。地主貴族の令嬢。内気でひとりでいることを好む。フランス語の書物を愛し、小説の規範のなかで空想に溺れる少女。特に愛読するのはジャン=ジャック・ルソー『新エロイーズ』、サミュエル・リチャードソンによる『クラリッサ』『サー・チャールズ・グランディソン
オリガ・ラーリナ(オリガ・ドミトリーエヴナ・ラーリナ)
タチヤーナの妹で、レンスキーの婚約者。朗らかで単純な美しい少女。金髪で丸い顔をしている。レンスキイの死後、悲恋からすぐに立ち直り驃騎兵と結婚する。
ヴラヂーミル・レンスキー
ラーリン家の隣家の主で、田舎暮らしのオネーギンの友人となる。肩まで届く長い黒髪の美丈夫。作中では17歳から18歳になる。ドイツ、ゲッティンゲン留学から帰国したばかり。ロマン主義的な詩を書く純真な青年。オリガと婚約中。オネーギンとの決闘に敗れて死亡する。
ドミートリー・ラーリン
故人。ラーリン家の家長。タチヤーナ、オリガの父。昔気質の人物。
プラスコーヴィヤ・ラーリナ
タチヤーナとオリガの母。モスクワ出身。
フィリピエヴナ
タチヤーナの老乳母。
ザレーツキー
決闘好きの地主で、オネーギンとレンスキーの知り合い。彼らの決闘に於いて、レンスキーの介添人を務める。
N公爵こと将軍
タチヤーナの夫。高位の将軍でオネーギンの親戚。
「ぼく」こと語り手
プーシキンと覚しき人物。オネーギンの友人であり、物語の中を自由自在に出入りする語り手でもある。
章ごとの内容
構成
第一章 舞台はペテルブルク上流社会の刺激的な生活
第二章から第七章の途中まで 舞台はオネーギンやレンスキー、ラーリン家の領地のある田園地帯
第七章後半 タチヤーナとラーリナ夫人のモスクワへの出立と生活
第八章 数年後、ペテルブルクの社交界
断章 オネーギンの旅