エンリル
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エンリル(シュメール語: ???/??? - DEnlil/DEnlil2)またはエッリル(アッカド語: DEllil)は、古代メソポタミア神話に登場するニップル守護神[1]シュメールアッカドにおける事実上の最高権力者[2]。彼に象徴される数字は50、随獣は怪鳥アンズー[3]

ヌナムニルという別称もあるが、通常「エンリル」と呼ばれるその名はシュメール語で EN「主人」、LIL「風」を指し(エンリルは北風、ニンリルは南風にたとえられることもある)、嵐や力を象徴することから「荒れ狂う嵐」「野生の雄牛」という異名を持つ[4]。また、至高神の位にあるエンリルはアッカド語で「主人」を意味する「ベール」とも呼ばれ、後にエンリルに代わって至高神となった者たちも、エンリルのように「ベールの称号」を得た[5]
概要

エンリルは実に畏れ多い神だったようで、姿そのものだけでなく身から発する畏怖の光輝「メラム(英語版)」すらをも(それも神々でさえ)見ることは叶わなかったという[6]。エンリルを直に目視できた者が少なかったことや、風や大気といった絵的に表現しにくい神格を宿していたために、エンリルのはっきりとした図像は確認されていない[6]。ただしエンリルは基本的に人間と同じ姿をしていたとされ、多くの文献では神の証である「角の生えた冠」を被り、王者に相応しい壮麗な衣をまとい、神々の運命を記した天命の粘土板「トゥプシマティ[* 1]」を手に持った長いひげの男性として描かれる[2]
性格

その性格は短慮で激情家、人間に対してだけでなく神々の間ですら問題を起こすような我の強い神だった[7]。神の中には人間に対して慈悲を持ち合せた者もいるが、エンリルの場合は情を覚えたり哀れみを向けたりすることはなく、むしろ個人的な欲求から破壊行為を次々と引き起こしていく[7]。例えば、異民族の流入による都市の滅亡、洪水などの天変地異、疫病蔓延など人類にとってのネガティブな事象の原因その全てが、最高責任者であるエンリルにあった[8]

しかしこれらの破壊的・暴力的な側面は、エンリルに宿る神格を考慮すれば当然のことでもある。嵐や風と密接に結びついていると言ってもよい。大規模な撃滅を招く一方で、嵐は恵みの雨をもたらし、風は季節の変わり目を伝え帆を膨らませ植物を受粉させる[8]。エンリルの司る力は破壊的な力の権化でありながら、世界秩序を確保するものでもあった[8]
神殿

エンリルの主な信仰地域で守護都市でもあるニップルには、エンリルが自身で建造した神殿「エクル[* 2]」がある[2]。神殿の外にはジグラットと呼ばれる聖塔「エドゥルアンキ[* 3]」が建ち、エドゥルアンキはエンリルに大地の神としての属性を与え、「偉大な山(クルガル)」と呼ばれる基礎となった[2]。神殿の中には「キウル」と呼ばれる聖所があり、キウルの一角に相当する「ウブシュウキンナ」は神々の会議の場としても使用された[9]
伝承

エンリルの出自に関する記録は時代・地域によって異なりはあるが、人類創造や天地開闢のような創世神話にまで至る古い歴史を持つ。代表的なものに、エンリルは天空神アヌ地母神から産まれ、その際に天と地を分かち現在世界の形を生み出したとされる。更にアヌからキを奪い、キに代わって地上の支配者になった後、神々の労働を肩代わりさせるためにキと交わって人間を生み出した。この流れは、原初の天空神(=アヌ)から農耕に不可欠な雨をもたらす「嵐」と「風」の神(=エンリル)へと信仰が変動していったことを意味している[2]
系譜

エンリルの系譜に関しては説話によって違いがある。配偶神は穀物神のニンリルアシュナン[* 4]、豊穣神のニントゥ[* 5]、子どもには月神のシン(シュメール名:ナンナ)を授かったとされる他、冥界の男神ネルガル、治癒神メスラムタエア[* 6]、医術神ニンアズ[* 7]、冥界の宰相ナムタル(英語版)などを持つ[2]。神話によっては降雨を司る男神イシュクル(アッカド名:アダド)や金星の女神イナンナ(アッカド名:イシュタル)、戦を司る男神ザババなどもエンリルの子であるとする例もある。また、諸説あるが兄弟姉妹についても複数の神がいたものと思われる。
神性

シュメール・アッカドの頂点に立つ神はアヌだが、アヌは早い段階で「暇な神(デウス・オティオースス)[14]」となり、その下で実権を握ったのがアヌに次ぐ第2位の神エンリルと第3位の神エアであった[15]。実権者であるエンリルは嵐・大気・大地・秩序・創造・王権などに関わる多くの役割と神格を持つが、神話に登場するエンリルは大概、神々の指導者や代表者として描かれる[16]

暇な神とは言えパンテオン第1位の座にアヌがいたにもかかわらず、エンリルが事実上の最高神となったことについては諸説ある[17]。基本的には各都市国家の主権が移行していったことによる影響が大きい[17]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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