エンベロープ (envelope) は、単純ヘルペスウイルスやインフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルスなど一部のウイルス粒子に見られる膜状の構造のこと[1]。これらのウイルスにおいて、エンベロープはウイルス粒子(ビリオン)の最も外側に位置しており、ウイルスの基本構造となるウイルスゲノムおよびカプシドと呼ばれるタンパク質の殻・層を覆っている[1]。エンベロープの有無はウイルスの種類によって決まっており、分離されたウイルスがどの種類のものであるかを鑑別する際の指標の一つである。
エンベロープは通常、宿主細胞膜(リン脂質とタンパク質)に由来し、ウイルス性糖タンパク質も含み、宿主の免疫系を回避することを助ける。 エンベロープは、ウイルスが感染した細胞内で増殖し、そこから細胞外に出る際に細胞膜あるいは核膜などの生体膜を被ったまま出芽することによって獲得されるものである。このため、基本的には宿主細胞の脂質二重膜に由来するものであるが、この他にウイルス遺伝子
概要
細胞膜に由来するエンベロープがあるウイルスでは、エンベロープタンパク質が細胞側のレセプターに結合した後、ウイルスのエンベロープと細胞膜とが膜融合を起こすことで、エンベロープ内部に包まれていたウイルスの遺伝子やタンパク質を細胞内に送り込む仕組みのものが多い。
エンベロープはその大部分が脂質から成るためエタノールや有機溶媒、石けんなどで破壊できる。このため一般にエンベロープを持つウイルスは、消毒用アルコールでの不活化が、エンベロープを持たないウイルスに比べると容易である[2][3]。 ヒトにおける病原体を含むエンベロープウイルス
エンベロープを持つ例
DNA ウイルス
ヘルペスウイルス科 - 水痘・帯状疱疹ウイルスなど
ポックスウイルス科 - 天然痘ウイルスなど
ヘパドナウイルス科 - B型肝炎ウイルスなど
RNA ウイルス
フラビウイルス科 - C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ジカウイルスなど
トガウイルス科 - 風疹ウイルスなど
コロナウイルス科 - SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルスなど
D型肝炎ウイルス
オルトミクソウイルス科 - 呼吸器感染症を引き起こすインフルエンザウイルスを含む
パラミクソウイルス科 - 麻疹ウイルス、ヒトRSウイルスなど
ラブドウイルス科[4] - 狂犬病ウイルスなど
ブニヤウイルス科 - クリミア・コンゴ出血熱ウイルスなど
フィロウイルス科 - エボラウイルス、マールブルグウイルスなど
レトロウイルス
レトロウイルス科 - ヒト免疫不全ウイルス、成人T細胞白血病ウイルス
エンベロープを持たない例(英語版) - ヒトパピローマウイルスなど
RNA ウイルス
ピコルナウイルス科 - ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス
カリシウイルス科 - ノロウイルス
レオウイルス科 - ロタウイルスなど
脚注^ a b R. E. Hurlbert. “INTRODUCTION TO VIRUSES,CHAPTER #11: VIRUSES”. 2008年11月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年2月26日閲覧。
^ “1985年 ニューヨーク血液センターによるSD処理によるウイルス不活性法の開発”. New York Blood Center. 2020年3月4日閲覧。
^ ⇒消毒薬テキスト第5版 〈IV 対象微生物による消毒薬の選択 > 5 ウイルス:2)その他のウイルス〉 Y's Square:病院感染、院内感染対策学術情報、2020年3月29日閲覧
^ “The Rabies Virus”. CDC. 2008年11月7日閲覧。
表
話
編
歴
微生物学: ウイルス
歴史
概要
社会史
ウイルス学
構成
カプシド
エンベロープ
ウイルスタンパク質
ライフサイクル
ウイルス侵入
ウイルス複製
ウイルス排出
バイロプラズマ
ウイルス潜伏
遺伝学
抗原ドリフト
抗原シフト
表現型混合(英語版)
遺伝子再集合
ウイルスの進化
宿主の別
動物ウイルス(英語版)
バクテリオファージ
ヴィロファージ
ヒトウイルス叢(英語版)
マイコウイルス(英語版)
植物ウイルス
その他
抗ウイルス薬
巨大ウイルス(英語版)
ヘルパーウイルス
ウイルスベクター
ヘルパー依存ウイルス(英語版)
ウイルス感染症の検査診断(英語版)
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