エンバク
[Wikipedia|▼Menu]

エンバク
エンバクの小穂
分類

ドメイン:真核生物 Eukaryota
:植物界 Plantae
階級なし:被子植物 Angiosperms
階級なし:単子葉植物 Monocots
階級なし:ツユクサ類 Commelinids
:イネ目 Poales
:イネ科 Poaceae
:カラスムギ属 Avena
:エンバク A. sativa

学名
Avena sativa L.
和名
エンバク(燕麦)
英名
Oat

エンバク(学名:Avena sativa)は、イネ科カラスムギ属に分類される一年草。漢字では燕麦と書かれる。円麦という漢字やえんむぎという読みは誤り。また英語名の「Oat」(オート)からオート麦/オーツ麦とも呼ばれる。

形態学的にはエンバク属の Avena には二倍体のサンドオート(Avena strigosa)と六倍体の普通エンバク(A. sativa)がある[1]。このうち普通エンバクの祖先野生種として、一般には、いずれも六倍体である野生型のオニカラスムギ(A. sterilis)と雑草型のカラスムギ(A. fatua)が知られている[1]。野生種カラスムギ(A. fatua)の栽培種であるとして、価値が高い・本物という意味のマ(真)をつけてマカラスムギとも呼ばれる[2]。ただし、伝播の違いなどから栽培エンバクが雑草型のカラスムギから進化したという点には否定的な説もある[1]。なお、二倍体種(A. strigosa Schreb.)のほうは主に緑肥用でヘイオーツとして知られるが野生エンバクとも称されている[3]

種子は穀物として扱われる。オートミールとして食用になるほか、飼料として栽培されることもある[4]
特徴

稈長は60-150cmとなり、止葉の上の節間が長い[5]。葉は幅広く、葉耳を欠く[5]。穂長は20-25cm程度で、穂型は一般的には散穂型であるが、片穂型の品種もある[5]。1個の小穂は2個の苞頴を有し、小花1-4を包む[5]。エンバクの穀粒は頴に強くはさまれており容易に外れないものが一般的であるが、東アジアで栽培されるものはこれが外れやすい、いわゆる裸性のものが主流である。

栽培は秋蒔きと春蒔きとに分かれる。エンバクは冷涼を好むものの、ライムギとは異なり耐寒性は高くないため、寒冷地では凍害を受け冬を越せないことが多い。そのため、温暖な土地では秋蒔き、寒冷地では春蒔きを行うことが通例である。エンバクは寒冷でやせた高緯度地帯で栽培されることが多く、世界的には春蒔きによる生産が多い。ムギ類のなかでは湿潤を好み、生育には多量の水を必要とする。また、ムギ類のなかでは乾燥に最も弱く、生育期に乾燥が激しくなると悪影響がある。腐植土を好むが、生育地の幅は広い。酸性に強く、酸性土壌で広く生育するが、アルカリ性土壌にも耐えられる。よく成長するが、その分倒伏しやすい。
栄養

えんばく オートミール[6]100 gあたりの栄養価
エネルギー1,590 kJ (380 kcal)

炭水化物69.1 g
デンプン 正確性注意63.1 g
食物繊維9.4 g

脂肪5.7 g

タンパク質13.7 g

ビタミン
チアミン (B1)(17%) 0.20 mg
リボフラビン (B2)(7%) 0.08 mg
ナイアシン (B3)(7%) 1.1 mg
パントテン酸 (B5)(26%) 1.29 mg
ビタミンB6(8%) 0.11 mg
葉酸 (B9)(8%) 30 μg
ビタミンE(4%) 0.6 mg

ミネラル
ナトリウム(0%) 3 mg
カリウム(6%) 260 mg
カルシウム(5%) 47 mg
マグネシウム(28%) 100 mg
リン(53%) 370 mg
鉄分(30%) 3.9 mg
亜鉛(22%) 2.1 mg
(14%) 0.28 mg
セレン(26%) 18 μg

他の成分
水分10.0 g
水溶性食物繊維3.2 g
不溶性食物繊維6.2 g
ビオチン(B7)21.7 μg
ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[7]。別名: オート、オーツ


単位

μg = マイクログラム (英語版) • mg = ミリグラム

IU = 国際単位

%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。

エンバクは一般的に健康的な食品とみなされ、それを利用した健康食品は栄養価が高いとして宣伝されている[8]。エンバクの水溶性食物繊維の大部分はβグルカンである。エンバク由来のβグルカンについて血中コレステロール値上昇抑制作用、血糖値上昇抑制作用、血圧低下作用、排便促進作用、免疫機能調節作用などが欧米を中心に多数報告されている[9]。このコレステロール低減という特質が確定されたこと[10][11]も、健康食品としてエンバクが受け入れられる理由となった。また、エンバクはコムギと比べたんぱく質脂質が多く含まれているうえ、もっとも利用されるオートミールが全粒穀物であるため、精白された他の穀物と比べてさらに多くの食物繊維ミネラルを取ることができる。逆にこれらの含有量が高いため、デンプンの割合はほかの穀物に比べて低く、エネルギー量はやや低いが[12]、これもまたエンバクが健康的であるとされる理由のひとつとなった。
歴史

原産地は地中海沿岸から肥沃な三日月地帯中央アジアにかけてであり、この地方には現代でも野草型のエンバクが広く分布している。エンバクの栽培化は遅く、6000年から7000年前の肥沃な三日月地帯の遺跡においては栽培の痕跡がみられていない。しかしこの地方にはエンバク野生種は自生しており、コムギオオムギ畑に入り込んで雑草として生育するようになった。やがてこの雑草型エンバクが休眠性や非脱落性といった穀物の重要な特性を獲得していき、約 5,000 年前に中央ヨーロッパで作物となったと考えられている[13]。この時は厳しい環境でも収穫できることから荒地での栽培や不作時の保険としてコムギなどと混ぜて播種されていたが、初期鉄器時代に本格的に栽培されるようになり、厳しい気候の北ヨーロッパで作物のエンマーコムギに置き換わって栽培されるようになってから、栽培型の普通エンバクが成立した[13]。このような成立過程によりヴァヴィロフは二次作物と分類している[13]

一方、エンバクは東方にも伝播していき、パミール高原などの中国山岳地域において脱穀のしやすい、いわゆる裸性を獲得し、裸性栽培型エンバク(ハダカエンバク)の起源となったと考えられている[13]。このハダカエンバクは?麦(ユーマイ)と呼ばれ、中国北部の内モンゴル自治区などで広く栽培されている。一般のエンバクは「燕麦」と書かれ、?麦とは区別されるが、中国で栽培されるエンバクのほとんどは?麦である[14]

エンバクは栽培化された中央ヨーロッパを中心に栽培され、ローマ帝国がこの地方に進攻するとともにローマにも伝えられた。ローマにおいては飼料用にしか使用されず、人間の食用となることはなかったが、一方ローマの北方に居住していたゲルマン人はエンバクを栽培し、人間の食用としていた。中世ヨーロッパにおいて三圃式農業が成立すると、エンバクはオオムギとともに1年目の春耕地に蒔かれ、主に飼料用として利用された。エンバクが三圃式農業の作物に組み込まれたのは、ローマ時代には軍馬としてしか使用されなかったウマが、農法の進歩によって農作業や輸送用として農村部で広く使用されるようになり、各農村において飼料の需要が急増したためであった[15]。また、エンバクのわらはウマなどの敷料としても用いられた。以後も19世紀にいたるまで、利用はの飼料用が中心であり、主に食用とするのはスコットランドなどいくつかの地域に限られていた。スコットランドにおいてはすでに5世紀には広く利用されていた記録があり、主にオートミールやオートケーキなどとして食べられていた[16]。このほか、エンバクはアイルランドウェールズスウェーデンノルウェーフィンランドなど、気候が厳しくコムギの収量が多くは望めない地域において主要な穀物となっていた。ただしアイルランドにおいてはジャガイモの伝来によって主食の地位はジャガイモへと交代した。中世フランスにおいても、湿潤な高地においてはエンバクが主に栽培される穀物であった[17]。また、中世のエールにはオオムギ麦芽のほかにしばしばエンバクの麦芽が使用された[18]オートミールを食用とするのは貧しい農民が主だったが、これは穀物を粉に挽かなければならないパンとくらべ目減りが少ないうえ、石臼を持つ粉屋やパン屋から手数料を差し引かれる必要もなく、価格も安いためであった[19]北アメリカ大陸には17世紀にはすでに移入されていたものの、スコットランド移民中心の地域を除き食用とはされていなかった。18世紀に入ると気候の寒冷化と人口増加により食生活に変化が起き、スコットランドではの消費量の急減と時を同じくしてエンバクの消費量が急増した。19世紀に入るとエンバクの近代的な品種改良が開始され、20世紀初頭に本格化したことで収量や耐倒伏性、病原菌への抵抗性などが大幅に向上した。

エンバクの薬効は古くから知られていたものの、19世紀まではアメリカの料理本にはオートミールはほとんど載っていないほどであった。しかし、1870年代にフェルディナンド・シューマッハがエンバクを工業的にフレーク化する技術を開発し、エンバクの押麦(ロールドオーツ)が発明される[20]ことでエンバクは手軽に調理できるものへと変化した。さらにヘンリー・クローウェルがこれを「クエーカーオーツ」の名で商品化し[20]クエーカーオーツカンパニーが設立されると、食品会社がオートミールの大量生産に乗り出し、19世紀末以降アメリカ中に急速に普及した[21]。さらに1880年ごろにジョン・ハーヴェイ・ケロッグが、それまでグラハム粉を使用していたグラニューラという食品をエンバクのフレークを使用するように改良し、グラノーラが誕生した。グラノーラはいわゆるシリアル食品のはしりであり、以後さまざまなシリアル食品が開発される元となった。ついで1900年ごろにはスイス人医師のマクシミリアン・ビルヒャー=ベンナーがミューズリーを開発した。グラノーラやミューズリーはコーンフレークなどほかのシリアル食品に押されて生産が減少していたが、1960年代ヒッピームーブメントによって健康面から見直されるとともに改良が加えられ、多く消費されるようになった。1980年代後半になるとエンバクのふすま(オートブラン)が健康食品としてブームとなり、エンバクの人気はさらに高まった[22]
生産

エンバクの生産量上位10ヶ国 ? 2013年
(千トン)
ロシア4,027
カナダ2,680
ポーランド1,439
 フィンランド1,159
オーストラリア1,050
アメリカ合衆国929
スペイン799
イギリス784
 スウェーデン776
ドイツ668
世界総生産量20,732
出典: FAO[23]
世界のエンバク生産図

2005年の全世界生産は2460万トンで、小麦トウモロコシ大麦ソルガムについで6番目に生産高の多い穀物である。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:75 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef