エル・アルコン-鷹-
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この項目では、日本の漫画作品について説明しています。メキシコのプロレスラーについては「エル・ハルコン」をご覧ください。

『エル・アルコン-鷹-』(エル・アルコン たか)は、青池保子による漫画作品であり、1977年から1978年にかけて『月刊セブンティーン』に掲載された「七つの海七つの空」、「エル・アルコン-鷹-」、「テンペスト」の三作品から成るシリーズの総称。全体で単行本にして4冊ほどのシリーズながら、青池保子の以後の創作活動に多大な影響を与えた。2007年に宝塚歌劇団で舞台演劇化されている。本項では舞台版についても併せて記述する。
作品解説

シリーズの基盤となるのは最初に発表された「七つの海七つの空」である。同作は16世紀後半、エリザベス1世統治下のイギリス(イングランド王国)を舞台とした海洋冒険作品であり、学生あがりの素人海賊「キャプテン・レッド」ことルミナス・レッド・ベネディクトと、敵国スペイン帝国と内通するイギリス海軍将校ティリアン・パーシモンとの争いを描く。最終盤はスペイン側へ寝返り、理想の戦列艦「エル・アルコン」を建造したティリアンとレッドとの最終決戦が、史実のアルマダの海戦にて展開される。

「七つの海七つの空」はコメディタッチで描き始められ、当初は「ルミナス=善、ティリアン=悪」という対立軸を基に、「正義の味方にはつらい過去があって、その原因を作った敵役を滅ぼしてめでたしめでたし、そこに出てくる女の子は『あれー、あれー』といって右往左往するような巻き込まれ役で、という、よくあるパターン[1]」が想定されていたが、本来敵役のティリアンに青池が深く傾倒したことから、ティリアンに重きを置いたシリアスな物語へと変わっていった。青池は「七つの海七つの空」の解説文において「正義の味方なんかどうでもいい。ほっといても最後には彼が勝つのだ。少女との恋物語など知るものか。かつてないほど、私は悪役に惚れたのだ」と述べている[2]。「七つの海七つの空」の終了後には、ティリアンを主人公に据えたスピンオフ作品「エル・アルコン-鷹-」、「テンペスト」が発表され、前者ではティリアンの生い立ちからイギリス海軍で大佐となるまでの物語、後者ではフランスの女海賊ギルダ・ラヴァンヌとの戦いと、ティリアンとルミナスの出会いの物語がそれぞれ描かれた。宝塚歌劇版の『エル・アルコン-鷹-』では三作品がひとつの流れの中に組み込まれている。

それまで「清く正しいヒーローやヒロインが活躍する、いわゆる正統的な少女漫画[2]」に欺瞞を感じながら、その定型を脱することができなかった青池にとって、悪役であるティリアンを主役に置き換えて物語を描ききったことは「本音で漫画を描き始め[2]」、「物語を作ると同時に、人間の生き方を描く面白さを知」る契機となり[2]、本作は同時期に連載が始まった代表作『エロイカより愛をこめて』などに大きな影響を与えることになった[2]。また「ティリアンを上手く描きたい」という欲求から、より人体を正確に描くようになり、この頃から画風も大きく変化していった[2]。青池は自身の漫画家人生における本作の位置づけを「自分のまんがの方法論まで変えてしまった大変重要な作品」だとしている[3]
掲載

「七つの海七つの空」

別冊セブンティーン1977年2-6月号。


「エル・アルコン -鷹-」

別冊セブンティーン1977年10月-1978年2月号。


「テンペスト」

別冊セブンティーン1978年7-8月号。


登場人物
主要登場人物
ティリアン・パーシモン
イギリス海軍将校。数々の武功を立てて異例の昇進を続け、24歳の若さで
大佐まで登りつめる。スペイン貴族出身の母を持つ関係から、内心では自らをスペイン人と任じており、イギリスと敵対関係にあるスペインとの内通を行う反逆者。いずれ強大な海軍力を有するスペインに渡り世界の海に覇を唱えることを野望としており、そのためにはあらゆる謀略を厭わず、邪魔になる者は誰であれ抹殺するという冷酷さを備える。その反面、海に対しては純粋な思いを抱き、また、自分に心服する部下に対しては優しい一面も見せる。3作品全てに登場。青池作品において「黒髪サド目族」と分類される登場人物の先駆けである。作中でこそ語られないが、青池作品『アルカサル-王城-』の主人公ペドロ1世と『エロイカより愛をこめて』の主人公クラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐は、それぞれティリアンの先祖および子孫と設定されており[4]、エーベルバッハ家にはティリアンを描いた『紫を着る男』という肖像画が伝えられている。青池はティリアンの人物像について、それまでの少女漫画にはなかった「女性に都合の悪い」「本人の都合だけで動く男」、ひいては「自分の野望に忠実な悪の爽快感」を描きたかったとしており、任務一徹で揺るぎない人物であるエーベルバッハ少佐と並べて「ティリアンと少佐は、私にとってコペルニクス的転換でした」と述べている[4]
ルミナス・レッド・ベネディクト(キャプテン・レッド)
「七つの海七つの空」における主人公。イギリス南部プリマスに店を構える豪商の息子で、法律家を志しオックスフォード大学法科を学ぶ学生であったが、ティリアンの謀略により父親が反逆罪の濡れ衣を着せられて処刑され、その後母親も失う。その後大学を去り、学生時代の仲間であるパトリック、ビッグ・ジョン、ジョーンズらと共に海賊団を結成。ある日海賊行為中にティリアンと再会し、両親の復讐のためにティリアンと激しく争うことになる。「七つの海七つの空」、「テンペスト」に登場。なお、青池作で奇抜な内容が人気だった『イブの息子たち』や『エロイカより愛をこめて』の影響から[1]、登場当初は「女装海賊」という設定だった。やはり『エロイカより愛をこめて』において、もう一人の主人公ドリアン・レッド・グローリア伯爵がルミナスの子孫として登場するが、物語の途中から登場したエーベルバッハ少佐とは異なり、グローリア伯爵はルミナスとほぼ同時期に描かれており、この設定は両方の作品を読んでいる読者へのファンサービスのような意味があったという[4]。青池はルミナスについて「黒髪の敵役ティリアン・パーシモンに作者の寵愛を横取りされて、冴えない主人公で終わってしまった」と回顧しているが[5]、この経験を活かし、『エロイカより愛をこめて』にエーベルバッハ少佐が登場した後は両者のバランスと伯爵のキャラクター確立に気を配り、少佐と伯爵の両立に成功した[6]。伯爵ともども、作画モデルはイギリスのロックバンド、レッド・ツェッペリンのボーカリストであるロバート・プラントに取っており、部下のパトリック、ビッグ・ジョン、ジョーンズもそれぞれギタリストジミー・ペイジドラマージョン・ボーナムベーシストジョン・ポール・ジョーンズをモデルとしている[5]
ニコラス・ジェイド
ティリアンの艦で水夫を務める青年。12歳の時に母を失い、自活のために水夫となったが、当初は気弱で虐められがちな少年だった。ティリアンが少尉として最初に赴任した「クラウド」号艦長の不興を買い、仕置きを受けていたところをティリアンに救われ、以降は機転の早さと素直さを買われて子飼いの存在となる。ティリアンに対する強い憧れを抱き、共に過ごすうちにその壮大な野望を共有するようになり、腹心の部下となっていく。時間軸上で後期の物語となる「七つの海七つの空」では水夫長として登場し、暗殺などの冷酷な命令も忠実にこなす存在として描かれている。3作品全てに登場。
ギルダ・ラヴァンヌ
「テンペスト」における敵役、ヒロインフランスの海賊団「ブランシュ・フルール」の女首領。フランス貴族の血を引く。彼女が拠点とする島の領有をめぐり、スペインに父を暗殺された恨みから、スペイン船のみを襲撃していた。しかしその後ブランシュ・フルールの装飾を模した海賊船がイギリスの船を襲う事件が頻発し、ティリアンが英西双方からの命令で差し向けられ対立することになる。激しい気性の持ち主だが、それまで討伐に向かわされた海軍艦をことごとく撃退するなど、ティリアンにも一目置かせるほどの戦術眼を持つ。また、海への深い愛着に対してはティリアンも共感を抱いており、青池は「最終的にはギルダはティリアンのことが好きだったかもしれない、ティリアンもひょっとしたら……と。そんな流れで、女性としてギルダをティリアンと対等に絡ませたかったんですよね」と人物造形の目的を語っている[4]
「七つの海七つの空」の登場人物
ジュリエット・グリンウッド
本作の
ヒロインドーバーの名家グリンウッド侯爵家の令嬢。冒険物語に憧れる17歳。ティリアンの義父パスコムに見初められ、正妻として求められるが、コーンウォールに向かう船旅の途中で海賊の襲撃を受ける。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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