エリス_(ギリシア神話)
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エリス
?ρι?
争い・不和の女神
アッティカ黒絵式キュリクスに描かれたエリス
紀元前520年頃、旧博物館所蔵
ニュクス
兄弟モロス, ケール, タナトス, ヒュプノス, モーモス, オネイロス, ヘスペリデス, モイラ, ネメシスアパテー, ピロテース, ゲーラス
子供ポノス, レーテー, リーモス, アルゴス, ヒュスーミネー, マケー, ポノスたち, アンドロクタシアー, ネイコス, プセウドス, ロゴス, デュスノミアー, アーテー, ホルコス
ローマ神話ディスコルディア
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エリス(古希: ?ρι?, Eris)は、ギリシア神話の争いと不和の女神である[1]。殺戮の女神エニューオーと同一視される。ローマ神話のディスコルディア(Discordia)に相当する[1]
神話

ホメーロス叙事詩イーリアス』では軍神アレースの妹とされ[2]ヘーシオドスの『神統記』では夜の女神ニュクスが一人で生んだ娘とされている[3]ヒュギーヌス『神話集』では夜ニュクスと闇エレボスの娘に不和(ディスコルディア)が生まれたとしている[4]。戦場では血と埃にまみれた鎧を着て槍を持ち、火炎の息を吐く。通常、有翼の女性として描かれる[1]

エリスは多くの災いの母となり、ポノス(労苦)、レーテー(忘却)、リーモス(飢餓)、アルゴスたち(悲歎)、ヒュスミーネーたち(戦闘)、マケーたち(戦争)、ポノスたち(殺害)、アンドロクタシアーたち(殺人)、ネイコスたち(紛争)、プセウドスたち(虚言)、ロゴスたち(空言)、アムピロギアー(口争)、デュスノミアー(不法)、アーテー(破滅)、ホルコス(誓い)を生んだ[5]

ウェルギリウスによると、冥界の門の近くには有象無象のオネイロスたち(夢)が絡まるニレの巨樹があり、周りには冥界の神々や怪物たちが住み、血染めの紐で蛇の髪を結んだエリス(ディスコルディア)もそこに住んでいる[6]
教訓譚

ヘーシオドスは教訓詩『仕事と日々』の中で、二種のエリスについて書いている。片方は忌まわしい戦いと抗争を蔓延させる残忍なエリスだが、もう片方はニュクスが生んだ長女であり、怠け者も相手への羨望によって切磋琢磨する闘争心を掻き立てる、益のある「善きエリス」がいるとした[7]

エリスは『イソップ寓話』にも不和や争いの寓意として登場している。ヘーラクレースが旅をしていると、狭い道に林檎に似たものが落ちているのを見て踏み潰そうとした。しかしそれは倍の大きさに膨れ、もっと力を入れて踏みつけ棍棒で殴ると、さらに大きく膨れ上がって道を塞いでしまった。呆然と立ちつくすヘーラクレースのもとにアテーナーが現れて言った。「およしなさい、それはアポリア(困難)とエリス(争闘)です。相手にしなければ小さいままですが、相手にして争うと大きく膨れ上がるのです」[8]

アントーニーヌス・リーベラーリス変身物語集』では、パンダレオースの娘アエードーンと大工ポリュテクノスは仲の良い夫婦だったが「ゼウスとヘーラーよりも深く愛し合っている」と自慢したためヘーラーの怒りを買い、エリス(夫婦の不和)を送り込まれた[9]
トロイア戦争ヤーコブ・ヨルダーンスの1633年の絵画『不和の黄金の林檎』。プラド美術館所蔵。
『キュプリア』

散逸した叙事詩キュプリア』によると、エリスは女神テティスペーレウスの結婚式に招かれなかった腹いせに、「最も美しい女神に」と記した黄金の林檎を宴の場に投げ入れ、ヘーラーアテーナーアプロディーテー3女神の争いを引き起た。その結果、3人の女神はトロイアの王子パリスによる裁定(パリスの審判)を仰ぐことになり、トロイア戦争の遠因を作った[10]
『イーリアス』

トロイア側で激昂するアレースとアカイア側で鼓舞するアテーナーの二神の戦いに、恐怖デイモスと敗走ポボス、アレースの妹であり戦友のエリスが加わる。女神は飽くこと無く猛り狂い、両軍の兵士たちに敵意を吹きこみ、普段は小柄だが争いが膨らめば大地に足をつきながら頭は天にとどくほど巨大な姿になり、軍勢の中を駆け巡った[2]

3日目の早朝ゼウスはエリスに「戦いの兆し」を持たせ、女神はアカイア軍の船に立ち、すさまじい大声で雄叫びを上げると、兵士たちは闘争心と不屈の気力が湧き、戦いを好むようになり、アカイアとトロイア両軍の荒れ狂う戦闘を見てエリスは大いに喜んだ[11]

またアテーナーが纏うアイギスの姿の描写に、総が垂れ、縁には「ポボス(敗走)」が取り巻き、表には「エリス(争い)」「アルケ(武勇)」「イオケ(追撃)」に怪物ゴルゴーンの首がある[12]ヘーパイストスが作ったアキレウスの盾にも、人間どもの激しい闘いに「エリス(争い)」と「キュドイモス(乱闘)」と「ケール(死)」といった神々が参戦する様が描かれている[13]

これに似たものにウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』があり、ヘーパイストス(ウゥルカーヌス)はアプロディーテー(ウェヌス)の息子アイネイアースのために盾を作るが、その盾の表にアレース(マールス)とエリーニュスたちと共に、裂けた衣を纏ったエリスと、その後ろに女神ベローナが血色のを持って従い、戦闘のただ中で荒れ狂う姿が描かれている[14]
文化的影響ディスコーディアニズムのシンボルである「神聖なるカオ」。五角形に象徴される秩序と、エリスの黄金の林檎に象徴される混沌の相互関係を示す。
眠れる森の美女


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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