エスカレーター
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古いエスカレーター(ステップ上面や手すり部分が木製、ニューヨークのメイシーズデパートにて)現代のエスカレーター(台北捷運忠孝復興駅構内)

エスカレーター(: Escalator)は、主として人が建物の各階に移動する目的で設置・利用される階段状の昇降装置。自動階段のこと。情報の分野などでは最後の長音を省略するルールによってエスカレータともする。
名称

"Escalator"という語は元々、アメリカ合衆国の企業オーチス・エレベーター社(Otis Elevator Company)の登録商標で、商品名である。しかし、当時この自動式階段を表す適当な語句が他に無く、一般に「エスカレーター」と呼ばれたため、普通名称化した経緯がある。オーチス・エレベーター社では既に商標権を放棄している(「#商標権の喪失」で後述)。

“escalator”という名称の由来については、様々な歴史家や著作家がそれぞれ独自の見解を表明しており、それらに基づいた誤解がインターネット上に蔓延している[1]
名称の由来と当初の意図

アメリカの発明家チャールズ・シーバーガー (Charles Seeberger) は、パリ万博への出展に合わせて、1900年に "escalator" を商標とした。

シーバーガー自身の説明によると、1895年に法律家に発明に名前を付けることを助言され、この名前を考案したとされている。オーチス・エレベータ・カンパニーが保管していたシーバーガーの手稿によれば、彼はラテン語辞書を使って語幹に scala という語(後述)を採用し、接頭辞として e を、接尾辞として tor を加え escalator としたことがわかる[2]。シーバーガー本人の大まかな解釈は「-から上に移動するための手段」であり、「カ」の部分にアクセントをつけて発音することを本人が強く望んでいた[3](ラテン語の scala は ca の a が長母音で、そこがアクセントとなるため)。

したがってエスカレーターという名称はフランス語ギリシア語に由来しない[要出典]し、エレベーターから派生した語でもない。ラテン語で読めばエスカラトル、「上に上げるもの、送るもの」の意味となる。なお、その語源となったラテン語の女性名詞 scala は、同じくラテン語の動詞 scando(よじ登る、乗る)からの派生語であり、物事の起きた回数を示す「度目」、あるいは物事の進む段階としての「階梯」を意味し、直接的には「階段」という意味ではなく、複数形 scalae で用いられる時に「階段」あるいは「はしご」の意味をもつ[4][5]
「エスカレーター」からの派生語

動詞の "escalate" は1922年に登場した新語で、「エスカレーターを使って上に登る」または「エスカレーターで移動する」という意味だった。そこから「徐々に増大または発展、悪化する」こと、特に「局地戦から大規模な戦争(核戦争を含む)に発展すること」[6]を意味するようになった。後者の意味が最初に印刷物に記載されたのは1959年の『マンチェスター・ガーディアン』紙だが、その意味でこの語がよく使われるようになったのは1960年代後半から1970年代前半のことである[7]

また、"escalate" はエスカレーターとともに日本にも導入され、「エスカレートする」は日本語のカタカナ言葉として一般化した。
商標権の喪失「商標の普通名称化」も参照

1950年、オーチス社の社長・シーバーガーとホートンエレベーター(Haughton Elevator Co.)との間で商標権問題が起きた。これをきっかけとして、オーチス社は escalator という言葉を独占的に使えなくなり、商標の保持に関心のある会社や個人にとっては貴重な警告となった[8]

この裁判所の裁定において、「'escalator' という言葉が、特定の製品ではなく、エスカレーター全般を指す名詞として一般に認識されてきた期間」が問題とされ、オーチス社自身が同社の特許文書や広告でその語を普通名詞のように使っていたことが指摘された[9]。その結果、オーチス社は最終的に"escalator" という言葉の商標権を放棄することになった。
機構エスカレーターの動きデンバー自然科学博物館(アメリカ合衆国コロラド州デンバー市)のエスカレーターの1基。通常は露出しない内部の機構を見せて、同館の展示物の一つとしている。

外観は階段に酷似し、自動で昇降する階段状の踏み面(ステップ)と、ステップと連動して動くベルト状の手すりを特徴とする。

機構の露出部分の多さから建物のインテリアに大きな影響を与えるので、意匠に工夫を凝らしたものが多い。螺旋状のスパイラルエスカレーター(三菱電機製が世界唯一であり、中国の上海新世界大丸百貨店や、日本では横浜ランドマークタワーなどに設置されている[10])や、途中で水平部分をもつエスカレーターも登場している。また、乗り降りを容易にするため、乗降口に水平部分を持たせた(踊り場のある)エスカレーターも出回っている。最近では操作を行うことで複数のステップが水平部分を構築し、車椅子を乗せられるものもある。

標準的な速度は毎分30mであるが、速度は調整することが可能である。

実例としては、深い場所にある地下鉄駅で、最大の毎分40mに設定しているエスカレーターがある。逆に、一部の大型ショッピングセンターなどで、高齢者などへの安全を図って通常よりも遅く設定している場合もある。

横幅はステップ幅、欄干有効幅、全体幅があり、800型、1200型等の規格は欄干有効幅で決まる。

ステップ幅欄干有効幅全体幅備考
604ミリメートル800ミリメートル1,150ミリメートル標準800型、全メーカーで生産
802ミリメートル910ミリメートル1,150ミリメートル数字は日立製作所製、日立、フジテックで生産
1,004ミリメートル1,200ミリメートル1,330ミリメートル数字は日立製、三菱、日立、東芝で生産
1,004ミリメートル1,200ミリメートル1,550ミリメートル標準1200型、全メーカーで生産
1,095ミリメートル1,300ミリメートル1,550ミリメートル日立で生産

機構的にエレベーターに比べ省エネルギーである。近年ではさらに進んで赤外線センサによって人の接近を検知し、利用時のみ稼働するものも増えている。特に郊外の鉄道駅に多い。完全に停止させてしまうと、上りと下りの判別が付きにくくなってしまうため、利用者がいない間は低速で運転し、利用者が来ると通常速度に切り替えるものも存在する。

木製のエスカレーターも存在し、欧米の古い建築物で見ることができる。しかし、老朽化や火災の原因となることもあり、減少傾向にある。特に1987年、英国ロンドンキングス・クロス・セント・パンクラス駅の火災(キングス・クロス火災)は大災害となったことで知られている。
構成踏板駆動ローラ手すり駆動ローラ真ん中

ステップ

踏板 - ステップのメインとなるところ

ライザ - ステップの蹴上げ部分

ステップチェーン - ステップ同士を連結するチェーン

駆動ローラ - ステップチェーンの左右についており、ステップを牽引するためのローラ

追従ローラ - ステップの左右についており、踏板を水平に保つためのローラ

駆動レール - 駆動ローラを走行させるレール

追従レール - 追従ローラを走行させるレール

車椅子専用ステップ - 特殊ステップがフォークを利用して車椅子が乗れる大きさにできる。

スカートガード - ステップの両側の鉄板で、側面をふさぎ表面を平滑に保つ

コームプレート - ステップの出入口に取り付けられるくし状の板


駆動装置

駆動ユニット - 電動機と減速歯車からなり、ステップチェーンを走行させる

駆動チェーン - 駆動ユニットからステップチェーンに動力を伝達するチェーン


手すり

手すり駆動ローラ - 手すりを駆動させるためのローラ

手すりチェーン - 手すり駆動ローラを回転させ、手すりに動力を伝達するチェーン

加圧ローラ - 手すり駆動ローラと対になって手すりを表裏から挟み込み、手すり駆動ローラの摩擦力を確保するローラ

手すり案内レール

インレット - 帰路側への手すりの出入り口で、手や物の引き込まれを防ぐために安全装置が設けられる


機構の改良

エスカレーターはステップとステップの間に隙間があり、まれに乗っている人の衣類などを挟むことがあるため、衝撃を感知すると緊急停止する安全装置が設置されている。しかし、後述のような設計上の想定外の利用が後をたたないため、この装置が誤作動を起こすことが増えている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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