エクソソーム_(小胞)
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エキソソーム複合体」とは異なります。
エクソソームは、多胞体(MVB)を介した独特な経路で生合成される細胞外小胞である。

エクソソームまたはエキソソーム(: exosome)は、大部分の真核細胞において、エンドソーム区画で形成される膜結合性の細胞外小胞(英語版)(extracellular vesicle、EV)である[1][2][3]

多胞体(multivesicular body、MVB)は、エンドソーム内腔へ内向きに出芽する腔内膜小胞(intraluminal membrane vesicle、ILV)の存在によって定義されるエンドソームである。MVBが細胞膜へ融合した場合、ILVはエクソソームとして放出される。多細胞生物では、エクソソームや他のEVは組織中に存在するとともに、血液尿脳脊髄液を含む体液中にも含まれる場合がある。これらはin vitro(試験管内で)の研究では培養細胞から培地中へ放出される[4][5][6]。エクソソームのサイズはMVBの大きさによって制限されるため、一般的には他の大部分のEVよりは小さいと考えられている。直径は約30-150 nmで、これは多くのリポタンパク質と同程度のサイズであり、細胞よりはずっと小さい[4]。他のEVと比較してエクソソームに特有の特徴や機能が存在するかどうか、また他のEVと効率的に区別したり分離したりことができるかどうかは明らかではない[1]。エクソソームを含むEVは起源となった細胞由来の標識分子を含んでおり、血液凝固や細胞間シグナル伝達から廃棄物の管理まで様々な生理学的過程に特化した機能を持つ[4]

バイオマーカー治療法としてのEVの臨床応用に対する関心は高まっており[7]、国際細胞外小胞学会(英語版)が設立され、EVに特化したジャーナルである『Journal of Extracellular Vesicles(英語版)』が発行されている。

エクソソームの医療への利用は既に始まっており、欧米では臨床試験に進んだ例もあるほか、日本では美容医療などの自由診療で使うクリニックもあるが、安全性を含めた医学的な研究は途上であり、日本再生医療学会は規制が必要という見解・提言を2021年と2023年に公表している[8][9]

アメリカ合衆国では、クリニックが医学的に証明されていない未承認のエクソソーム製品による治療を行い、エキソソーム分野に損害を与える危険性が指摘されている[10][11]。2019年末、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、未承認のエキソソームについて、根拠のない説明で患者を騙し、患者に深刻な有害事象が起きているとして注意喚起を行った[10][12][13]。FDAは、このような行為は、患者が科学的に正しい治療を受ける機会を遅らせたり、被害を及ぼすことで、患者を危険にさらすとする[10]。2020年、FDAは、新型コロナウイルス感染症およびその他の健康状態に対するエクソソームの販売や使用について、複数の企業に警告を発した[11][13][14]。日本でも、新型コロナ後遺症のエクソソームによる自由治療を1回10万円で行うクリニックや[15][16]若返り治療を行うクリニック、エクソソームを使った化粧品などがある[17][18][19]。2023年1月放送のバラエティ番組カズレーザーと学ぶ。』では、エキソソーム治療で若返り効果が得られるとして、5 - 30万円の自由診療を紹介した[20]
背景

エクソソームは、Philip D. Stahlら[21]とRose M. Johnstone(en)ら[22]によって1983年に哺乳類の成熟中の網赤血球(未成熟の赤血球)中に発見され、1987年にJohnstoneらによって「エクソソーム」(exosome)と名付けられた[23]

エクソソームは、in vitro(試験管内で)の研究により網赤血球が成熟した赤血球になる際に、多くの細胞膜タンパク質の選択的除去に関与することが示されている[24]。網赤血球では、哺乳類の大部分の細胞と同様に、細胞膜の一部が定期的にエンドソームとして細胞内へ取り込まれ、1時間に50-180%の細胞膜がリサイクルされる[25]。さらにその後、一部のエンドソーム膜はより小さな小胞としてエンドソーム内部へ取り込まれる。こうしたエンドソームは、大きな構造体の内部に多くの小胞(ILV)が存在するという外見から、多胞体(MVB)と呼ばれている。MVBが細胞膜と融合すると、ILVはエクソソームとなって細胞外空間へ放出される[26]

エクソソームは、タンパク質やRNAなど、起源細胞に由来する様々な分子的構成要素を含んでいる。エクソソームのタンパク質組成は起源となった細胞や組織によって異なるが、大部分のエクソソームは進化的に保存された共通のタンパク質分子のセットを含んでいる。タンパク質のサイズや形状、詰め込みのパラメータを考慮すると、1つのエクソソームに含まれるタンパク質は約20,000分子と推定される[27]。エクソソーム中にmRNAmiRNAの積み荷が存在することは、スウェーデンヨーテボリ大学の研究で初めて発見された[28]。この研究では、細胞中とエクソソーム中のmRNA、miRNA含量の差異が記載され、エクソソーム中のmRNAの機能性についても記載された。また、エクソソームは二本鎖DNAを運搬することも示されている[29]

エクソソームは膜小胞輸送(英語版)を介してある細胞から他の細胞へ分子を輸送することができ、それによって樹状細胞B細胞などの免疫系に影響を与え、病原体腫瘍に対する獲得免疫応答の媒介に機能的な役割を果たしている可能性がある[30][31]。そのため、細胞間シグナル伝達におけるエクソソームの役割について精力的な研究が行われており、エクソソームで運搬される積み荷RNA分子によってその生物学的影響が説明されるという仮説が立てられている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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